第277話 閉ざされた狩場
GASTが前進を続け、やがて戦闘が行われた地域を抜けると、その先に帝国軍の補給拠点が姿を現した。これまでの偵察で何度も確認されていた場所であり、GASTにとっても敵の後方を断つうえで重要な目標だった。
しかし、そこへ到着した彼らを待っていたのは、帝国軍の姿ではなかった。
建物の内部には人影がなく、周囲に展開していたはずの兵員も確認できない。補給物資を保管していた場所にも、目立った物資は残されていなかった。
ビービは周囲を見回しながら、慎重に足を進めた。
「……何もないね」
スライスも周囲を確認する。
「補給拠点として使われていた形跡はあります。でも、物資はほとんど残っていません」
「逃げた?」
「それにしては、妙ですね」
ブエンテロも建物の内部を確認していた。
「敵はここを放棄したのか?」
クラウスレイが床面へ視線を落とした。
「完全に放棄したというより、移動させたように見えます」
その言葉を聞き、ブエンテロも足元を確認する。
床には、重量のある物体を運び出した痕跡が残っていた。建物の出入口にも、車両が頻繁に出入りしたことを示す跡がある。
「なるほどな」
ブエンテロが呟いた。
補給物資を破棄したのではない。どこかへ移したのだ。
周囲を調べていくと、やがて建物の奥に地下へ続く通路が見つかった。
入口そのものは目立つものではなかったが、周囲には物資を運搬した痕跡が残っている。通路へ続く部分だけ、床面の状態が明らかに異なっていた。
ビービは入口を見ながら考えた。
「この先に運んだのかもしれない」
スライスが通路の奥を確認する。
「可能性はあります」
「なら、行ってみよう」
ビービの判断に、スライスは頷いた。
GASTは慎重に地下通路へ入っていった。
補給物資がどこへ移されたのかを確認することは、敵の次の行動を予測するうえでも意味がある。何より、これだけの物資を短時間で移動させたのであれば、その移送経路には何らかの手掛かりが残されている可能性があった。
アマゾネス班とアルバトロス班が先行し、フォックス班とセイレーン班が周囲を警戒する。
地下通路はしばらく続いていた。地上と比べて視界は狭く、周囲の状況を確認できる範囲も限られている。それでもGASTは警戒を緩めなかった。
コルガンが前方を確認しながら、ジミーへ視線を送る。ジミーはその方向へ照準を向けた。
後方ではグイダが周囲を確認し、部隊の移動に合わせて位置を変えていく。
セイレーン班でも同じように、ラスタが先の状況を確認し、ローレライがそれを受けて警戒を続け、シリングが側面を意識しながら移動していた。
地下という環境は、彼らがこれまで得意としてきた広い地形とは違っていた。だが、それでもGASTは進み続けた。
しばらくして、通路の先が少しずつ広がり始めた。
ビービは前方を確認しながら、足を止めた。
「開けてる」
キーラも周囲を確認する。
「ここなら、少し動きやすそうです」
通路は広い空間へつながっていた。
そこは物資の集積や一時的な移送に利用できるような場所で、通路そのものよりも広い。だが、地上のように自由に動き回れるわけではない。周囲を壁に囲まれ、後方へ戻るためには、先ほど通ってきた通路を使うしかなかった。
そのことに気付いた直後だった。地鳴りのような音が、後方から響いた。
「何?」
ビービが振り返る。
次の瞬間、通路の奥から土砂と瓦礫が押し寄せ、GASTが通ってきた経路を塞いだ。
アマゾネス班の隊員たちが一斉に後方を見る。ブエンテロも駆け寄って状況を確認した。
「閉じ込められたか……」
クラウスレイが瓦礫を確認する。
「崩落させたようです」
その言葉を聞いたビービは、すぐに前方へ顔を戻した。
ここまでの状況をつなぎ合わせれば、答えは一つしかない。補給拠点が空になっていたこと。地下通路が残されていたこと。そして、GASTがそこへ入ったところで後方を塞がれたこと。
「……誘い込まれた」
ビービの声に、スライスが頷いた。
「そのようですね」
しかし、GASTが動揺して立ち尽くすことはなかった。後方が塞がれた以上、残された進路は前方しかない。
ビービは前方へ視線を向けた。その先に、何かがいる。
「前方、敵影!」
声が上がった。暗がりの向こうから、帝国兵が姿を現した。その数は少なくない。
統制された動きで展開していく兵士たちは、無秩序に押し寄せるのではなく、あらかじめ定められた位置へ兵力を配置し、GASTの進路を塞ぐように広がっていく。
第4歩兵科連隊・第32歩兵科大隊隷下、第117歩兵科中隊。その部隊が、GASTの前方に待ち構えていた。
GAST側には、左右へ大きく回り込む余地がない。後方は崩落によって遮断され、側面は地下空間の壁によって制限されている。
地上戦であれば、狙撃手とスポッター、フランカーが互いに位置を変えながら敵の側面へ回り込むこともできる。しかし、この場所ではその自由が大きく制限されていた。
ローレライが前方を確認した。
「かなり待っていたみたいね」
ラスタが周囲を見ながら答える。
「後ろを塞いだ以上、ここで戦うつもりでしょう」
シリングは側面を確認した。
「回り込める場所はありません」
フォックス班でも、同じ問題に直面していた。
コルガンが前方を確認しながら、ジミーへ目を向ける。
「正面しかない」
ジミーは照準を合わせたまま、敵の配置を追った。
「なら、正面を抜くしかないな」
後方ではグイダが崩落した通路を確認していたが、すぐに前方へ戻った。
「戻るのは無理そうです」
その報告を聞いたビービは、しばらく敵の配置を見つめていた。
帝国軍はGASTを包囲している。
だが、単純に数で押し潰そうとしているわけではない。
GASTが最も力を発揮しやすい場所から切り離し、逃げ道を奪ったうえで、正面から戦わせるための場所を選んでいる。
ビービはそれを理解した。
「やってくれるね」
スライスが前方を見た。
「どうします?」
ビービは答える前に、アマゾネス班の隊員たちを確認した。
「ここを抜けるよ」
「了解」
その声が響いた直後、前方の帝国軍が一斉に射撃を開始した。銃撃が広い空間を横切り、GASTの前進を阻む。
アマゾネス班が応射しながら前へ出る。アルバトロス班も続いた。
ブエンテロは前方の敵配置を確認しながら、クラウスレイへ指示を出した。
「右側を見ろ。敵が動いたら知らせろ」
「分かりました」
アルバトロス班が正面から圧力を掛ける一方で、フォックス班とセイレーン班は敵の射撃位置を探っていた。
しかし、地上とは違って遠距離から安全に観測できる場所は少ない。ラスタが敵の動きを追い、ローレライへ射線を示す。
「左前方、2人」
ローレライがその方向へ照準を合わせた。
「確認した」
射撃によって帝国兵の一部が動きを止める。
同時に、シリングが側面を警戒しながら移動し、GASTの進路を妨げる位置へ回ろうとする。だが、回り込める距離は短い。ここではフランカーの動きも、地上ほど自由ではなかった。
それでもGASTは戦い方を変えながら前進する。
正面から押し込むアマゾネス班とアルバトロス班を支援するため、フォックス班とセイレーン班が敵の射撃位置を一つずつ潰していく。
第117歩兵科中隊も、GASTの進撃を正面から受け止めた。
帝国軍は後退しない。GASTをこの場所に留め、戦力を削りながら、できる限り時間を使わせることが目的だった。
そしてGASTもまた、立ち止まるつもりはなかった。
ビービは飛び交う銃撃の向こうにいる帝国兵を見据えた。
後ろには戻れない。前には敵がいる。ならば、残された道は一つしかなかった。
「全員、前へ!」
GASTが一斉に攻撃を強める。閉ざされた地下空間で、2つの部隊が正面から衝突した。
登場人物紹介
GASTアマゾネス班
ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム
GASTアルバトロス班
ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド
GASTセイレーン班
ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、シリング、ラスタ、ベルチャー、シノシック、ファス、ビュー、シェンブリ
GASTフォックス班
コルガン(班長)、ダンタス(副班長)、ジミー、グイダ、ラーキン 、ワード、シールズ、ミルトン




