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外星戦記~異星人に家族を殺された少年は、自衛官になって復讐を誓う~  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第269話 包囲の輪

銃撃は止まらなかった。


前方の斜面から撃ち込まれる弾丸を避けながら、アマゾネス班は身を伏せていた。敵の姿はほとんど見えない。木々と岩陰を利用しているうえ、射撃位置を固定せず、数発撃っては別の場所へ移動しているためだった。


ビービは地面に伏せたまま、光学照準器越しに斜面を見ていた。


敵は少なくとも2個分隊。だが、それだけではないだろう。


射撃音の間隔、発射方向、そして敵が移動する速度を考えれば、さらに後方に予備の部隊がいる可能性が高かった。


「スライス」


「はい」


「右の尾根、見える?」


「……見えません」


「私も見えない」


ビービは一度だけ照準器から目を離した。


「だからいる」


スライスがその意味を理解するまでには、少し時間がかかった。


敵が姿を見せないのは、そこにいないからではない。姿を見せる必要がないからだ。


こちらが前進すれば撃つ。撃ち返せば下がる。こちらが追えば別方向から射撃する。まるで、GASTをこの場所に留めておくことそのものが目的であるかのようだった。


「キーラ、左後方を確認して」


「了解」


「ピケットとサリカムは正面への射撃を続けて。撃ちすぎなくていい。敵にこちらの正確な位置を悟らせないで」


「了解」


キーラが後方へ移動する。


その動きを確認してから、ビービは無線端末へ手を伸ばした。


「アルバトロス、こちらアマゾネス01。敵の数が多い。正面突破は推奨しない」


『了解』


ブエンテロの声が返ってきた。


『こっちも同じですよ』


「同じ?」


『敵の歩兵が断続的に接近してきている。こちらの火力を測っているように見える』


「やっぱりね」


ビービは周囲を見回した。


「敵は私達を倒すことより、足を止めることを優先している」


『だったら、突破するしかない』


ブエンテロの声には、明らかな焦りが混じっていた。


「待って」


『何です?』


「勝手に突っ込まないで」


『分かっていますよ』


返事は早かった。


しかし、その返答を聞いたビービは、むしろ不安を覚えた。


ブエンテロが何を考えているのかは分かっている。これまでの戦いで損耗を重ね、現在のアルバトロス班が以前より一段落ちた部隊だと見られていることを、本人は誰よりも気にしていた。だからこそ、今回の戦闘では自分たちの存在価値を証明しようとしている。


ビービはその気持ちを理解していた。理解しているからこそ、余計な無茶をされることを警戒していた。




アルバトロス班では、ブエンテロが銃を握ったまま前方を睨んでいた。


「このままだと、時間だけ食われる」


ブエンテロには焦りが見えた。ゴルムはアルバトロス班の結成時のメンバーだ。だからブエンテロが何を考えているかも察することが出来る。


ゴルムが隣で言った。


「焦らないで下さい」


「焦ってない」


「焦ってる顔ですよ」


「……うるさい」


ブエンテロが前方へ視線を戻す。


クラウスレイは2人の会話を聞きながら、手元の地図を確認していた。敵の射撃位置と、これまでに確認された敵兵の動きを地図上へ落としていく。


やがて、クラウスレイが口を開いた。


「班長」


「何だ?」


「敵は我々を前進させようとしていると思います」


「逆じゃないのか?」


「いえ」


クラウスレイは地図上の一点を指した。


「ここまで敵が接近しているのに、こちらの側面を取りに来ない。正面から圧力をかけているだけです」


「俺達を正面に固定したい?」


「そう考えるのが自然です」


クラウスレイは視線を上げた。


「問題は、その理由です」


ブエンテロが黙った。


そのとき、ソブラウが前方を見ながら口を開いた。


「火力支援じゃないですか?」


「何?」


「敵が僕達をここに固定しているなら、砲兵か迫撃砲で叩くつもりかもしれません」


ブエンテロがソブラウを見る。


「敵はもう撃ってきてるだろ」


「歩兵じゃなくて、もっと遠いところから撃ってくるやつです」


ソブラウは真剣だった。


「さっきから敵の射撃が一定じゃありません。僕達が動こうとしたときだけ、射撃が増えています。たぶん、こちらの位置を知らせるための射撃も混ざっています」


クラウスレイがソブラウを見る。


「……なるほど」


「何か変ですか?」


「いや」


クラウスレイは首を横に振った。


「お前の言う通りかもな」


マメッドが小さく息を吐いた。


「それなら、離れた方がいいんじゃ……」


ブエンテロが振り向く。


「逃げるのか?」


マメッドは少しだけ身を縮めた。


「いえ、そういうわけでは……」


「敵の拠点へ行くためにここまで来たんだ。ここで逃げたら、それこそ連中の思う壺だ」


「でも、敵がこっちを誘導しているなら――」


「だから突破するんだ」


ブエンテロは前を向いた。


「俺達がここで止まっていたら、本当に連中の思い通りになる」


クラウスレイは否定しなかった。ただ、ブエンテロの横顔を見ながら考えていた。


確かに、その考え方には筋が通っている。だが、正しいことと、今すぐ実行していいことは同じではない。


「班長」


「何だ?」


「前進するなら、私が先にルートを確認します」


「頼む」


クラウスレイが動き出す。ソブラウも続こうとした。


「僕も――」


「お前はここにいろ」


「でも」


「お前は射撃しろ」


「……分かりました」


ソブラウは素直に伏せ直した。


その直後、銃声が一発響いた。


ソブラウのすぐ横の土が弾ける。


「狙撃!」


ゴルムが叫んだ。全員が地面へ伏せる。


クラウスレイは動かなかった。いや、動けなかった。撃たれた方向を確認するより先に、別方向から2発目が飛んできたからだ。


「……狙撃手が2人いる」


クラウスレイが呟いた。


「違う」


ソブラウが答えた。


「3人です」


「どうして分かる?」


「今の3発、音が違いました」


クラウスレイが一瞬だけソブラウを見る。


その直後、遠くで狙撃音が響いた。


敵の射撃が止まった。ソブラウが笑った。


「今のは味方です」


「ローレライか班長か?」


ゴルムが言った。


「たぶん」


ソブラウは答えた。




同じ頃、セイレーン班ではローレライがスコープから目を離していた。


「敵の狙撃手、1人撃破」


「確認しました」


シリングが答える。


ラスタは別の方向を見ていた。


「まだいます」


「分かってる」


ローレライは冷静だった。


「シリング、左の林を見て」


「はい」


「ラスタは右。敵の歩兵が狙撃位置へ近づいている」


「了解」


シリングが照準を移す。そこで、敵兵の姿を確認した。


「3人。こちらへ向かっています」


「撃たない」


「え?」


「まだ」


ローレライは敵兵の動きを追った。


敵は狙撃手を直接狙うのではなく、セイレーン班が移動できる方向を一つずつ塞いでいる。


「……やっぱり」


ローレライが呟いた。


「私達を狙っているんじゃない」


シリングが振り向く。


「では?」


「私達を動かしたい」


ローレライは地図を確認した。


「敵は私達の射撃位置を追いながら、少しずつ移動させている」


ラスタが静かに息を呑んだ。


「俺達が移動した先に、別の部隊がいる?」


「その可能性が高い」


ローレライは銃を構え直した。


「だから動かない」


シリングは頷いた。


ローレライの判断に迷いはない。その横顔を見ながら、シリングは改めて思った。この人は、敵を撃つことだけが上手いのではない。敵が何をしようとしているのかを考えながら撃っている。


北海道奪還作戦のとき、初めてローレライの狙撃を見た瞬間から抱いていた憧れが、今になって別の意味を持ち始めていた。




フォックス班では、コルガンが無線を聞いていた。


「セイレーンから情報が入った。敵は狙撃班を動かそうとしている」


「やっぱりか」


グイダが言った。


ジミーは黙ってスコープを覗いていた。


「ジミー」


「分かってる」


「まだ何も言ってない」


「どうせ、勝手に動くなって言うんだろ」


「なら話が早い」


「……分かったよ」


ジミーは照準器から目を離さなかった。


その直後、遠方の木陰から敵兵が顔を出した。


ジミーが銃口を動かす。


「待て」


グイダが制した。


「今のは囮だ」


「分かってる」


「なら撃つな」


「撃たない」


ジミーは答えながら、別の場所へ照準を移した。


そこに敵兵はいない。しかし、そのさらに奥にある岩陰に、わずかな動きが見えた。


「……いた」


「何が?」


「敵の観測員」


ジミーの声が変わった。


「こいつが俺達の位置を送ってる」


コルガンがスコープを覗く。確かにいた。


「撃てるか?」


「もちろん」


ジミーが引き金を引く。


敵兵が倒れた。


同時に、フォックス班の別方向から銃撃が始まった。


「来た!」


グイダが叫ぶ。


敵は観測員を失ったことを理解したらしい。狙撃班の位置を特定するため、今度は直接攻撃へ切り替えてきた。


「移動するぞ」


コルガンが命じる。ジミーとグイダが同時に動く。


いつもなら、ジミーは1人で残ろうとする。しかし今回は違った。グイダと同じ射線を維持しながら移動している。


コルガンはそれを確認してから、先へ進んだ。




その頃、アマゾネス班では敵の攻撃が激しくなっていた。


ビービは一度だけ無線を確認した。


「アルバトロス、状況は?」


『敵の圧力が強くなっています』


クラウスレイだった。


『こちらを前へ押し出そうとしているようです』


「こちらも同じ」


『やはり、同じ目的でしょう』


「たぶんね」


ビービは前方を見た。


「敵は私達を一つの場所へ集めようとしている」


『ならば、そこに何かあります』


「そう思う」


無線の向こうで、クラウスレイが答える。


『ブエンテロ班長が前進を提案しています』


「……でしょうね」


ビービはため息をついた。


「アルバトロス班は私達より少し右へ回して」


『了解』


「敵の思惑どおりに進む。ただし、敵が用意した道をそのまま歩かない」


『分かりました』


通信を終える。


ビービはスライスを見た。


「右へ移動する」


「敵の正面を抜けるんですか?」


「抜けるんじゃない」


ビービは銃を構えた。


「横から殴る」


アマゾネス班が動いた。


敵はすぐに反応した。正面から撃っていた帝国兵が後退し、右側へ回り込もうとする。


それを待っていたかのように、キーラが射撃した。


敵兵が倒れる。


「進むよ!」


ビービの声とともに、アマゾネス班が斜面を駆け上がった。


その瞬間、山中に重い音が響いた。砲撃だった。


アマゾネス班とアルバトロス班の中間へ砲弾が着弾する。土砂が吹き上がり、木々が折れた。


「砲撃!」


キーラが叫ぶ。


ビービは咄嗟に地面へ伏せた。


次弾が着弾する。今度はアルバトロス班の後方だった。


「……やっぱり」


ビービは土煙の向こうを睨んだ。


敵はGASTの位置を把握している。


歩兵が追い立て、狙撃手を動かし、そこへ火力支援を合わせている。つまり、最初から一つの作戦として組み立てられていた。その事実を理解した瞬間、無線へクラウスレイの声が入った。


『ビービ班長、敵の火力支援位置を推定しました』


「どこ?」


『我々の北西、およそ1.5キロ。恐らく迫撃砲です』


「分かった」


『ですが、問題があります』


「何?」


『その射撃位置を潰すためには、我々の現在位置からさらに前進する必要があります』


ビービは黙った。


敵は、GASTに前進させるために歩兵を投入している。そして、前進した先には火力支援が待っている。そこまで分かれば、やることは一つだった。


「アルバトロス班」


『はい』


「火力支援を潰す」


返事はすぐには来なかった。やがて、ブエンテロが答えた。


『了解』


その声には、先ほどまでの焦りとは違うものがあった。


敵がGASTを追い込んでいる。ならば、その包囲の一部を逆に利用する。


ビービはアマゾネス班へ視線を向けた。


「ここからが本番だよ」


遠くで再び砲声が響いた。


その砲弾が次に落ちる場所を、GASTはまだ知らない。だが、帝国軍もまた、GASTがどこへ向かうのかを完全には知らなかった。

登場人物紹介

GASTアマゾネス班

ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム、シャオリン(怪我により離脱中)


GASTアルバトロス班

ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド


GASTセイレーン班

ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、シリング、ラスタ、ベルチャー、シノシック、ファス、ビュー、シェンブリ


GASTフォックス班

コルガン(班長)、ダンタス(副班長)、ジミー、グイダ、カロ、ラーキン 他3名

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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