第265話 防空陣地の死守
シャークとカラーノの援軍によって、イーグル班は辛うじて陣形を立て直していた。しかし、戦況が好転したわけではない。防空陣地の各所ではなおも有翼種との白兵戦が続き、上空からは敵ヘリコプターが絶え間なくロケット弾を撃ち込んでいる。
ヒーゾは息を整える暇もなく、地面へ転がっていた91式携帯地対空誘導弾を拾い上げると、再び肩へ担ぎ直した。その周囲ではラウネーンとスタンも陣地に散乱した装備を回収し、次々と照準器を空へ向けていく。白兵戦によって寸断されていた防空陣地が、ようやく本来の役割を取り戻し始めていた。
「目標、右前方!」
ラウネーンが空を指差した。
「敵ヘリ1機、低空侵入!」
ヒーゾは照準器越しに機影を捉えた。ロケット弾を撃ち終えた敵ヘリは旋回しながら、再び攻撃態勢へ入ろうとしている。
「今度は逃がさないのだ~」
ヒーゾは静かに引き金を引いた。
発射されたミサイルが白煙を引きながら上昇し、旋回中のヘリへ吸い込まれるように迫っていく。防空陣地では、倒れていた発射機を起こして照準器を覗き込む隊員の姿も増えていた。空からの攻撃を受けながらも、自衛隊は防空能力を取り戻しつつあった。
その様子を上空から見下ろしていたセドリック・ファーファン中尉は、眉をひそめた。白兵戦へ持ち込んでいた防空陣地の一角では、対空ミサイルを担いだ隊員が再び空へ照準を向け、さらに駆け込んできた兵士達が有翼種を押し返し始めている。
「敵さん、立て直しに来たな」
ファーファンはそう呟くと、無線機へ手を伸ばした。
「バエー大尉、地上の状況は?」
『こちらバエー。予定より手間取っている。敵に増援が入り、近接戦闘の練度も高い』
「増員の数は?」
『2匹だが、普通じゃない。こちらの前進を止められている』
ファーファンは小さく舌打ちした。想定よりも自衛隊の抵抗が強い。
「時間を稼がせないようにお願いします。降下部隊が着地するまで陣地を制圧し続けて下さい」
『了解した』
ファーファンは後続の空挺兵へ視線を向けた。
「後続は降下を急げ。高射火器が復活する前に橋頭堡を広げるぞ」
「了解」
命令を受けた後続の空挺兵達は、編隊を維持したまま急降下を開始した。白い翼が一斉に開き、防空陣地を目掛けて幾筋もの軌跡を描いていく。
カラーノです。私は地上の敵を相手にしている最中、頭上から白い翼が次々と舞い降りてくるのを見ました。後続の空挺部隊です。地上だけを見て戦えば、あっという間に頭上を取られます。
「ラウネーン、91式携帯地対空誘導弾が残り少ない。補充を急ぐのだ~」
ヒーゾ班長の声が飛びます。
防空陣地では隊員達が弾薬箱を運び、91式携帯地対空誘導弾の補充を急いでいました。しかし、その作業を待ってくれるほど敵は甘くありません。
目の前へ飛び込んできた有翼種の銃剣を受け流し、そのまま脇腹へ蹴りを叩き込みます。相手が体勢を崩した隙に小銃を撃ち込みましたが、倒した直後には別の敵が上空から降下してきました。
「シャークさん! 右です!」
「分かってる!」
シャークさんも別の敵と斬り結びながら答えます。
地上の敵を押し返したと思えば、今度は頭上から新たな有翼種が降りてくる。空へ照準を向ければ足元が疎かになり、地上へ意識を向ければ空から飛び込まれる。私達は常に二方向から圧力を受けながら戦っていました。
後続の空挺部隊は、その状況を見逃さなかった。シャークとカラーノへ攻撃を集中させることで2人を迎撃に追わせ、イーグル班を再び白兵戦へ引きずり込んでいく。その結果、防空陣地の対空火器は再び沈黙した。
それでも、自衛隊は崩れなかった。各所では小火器による反撃が続き、強襲支援中隊の前進も思うようには進んでいない。
ファーファンは上空からその光景を見つめながら、険しい表情を浮かべた。
「何故だ。数ではこちらが多く、優位のはずだ。なのに、戦況が膠着している……」
対空火器を封じれば、防衛線は雪崩を打って崩れる。ファーファンはそう踏んでいた。しかし、現実には自衛隊は陣地を維持したまま粘り続けている。
地上で戦うバエーも、同じ違和感を抱いていた。
「これは、誰かを待っているようだ。まだまだ伏せている戦力があるのか……?」
バエーは周囲を見回し、さらに声を張り上げた。
「総員、攻勢を強めろ! 目の前の敵を潰せば、秘策があっても意味がない」
戦場全体で帝国軍の攻撃がさらに激しさを増していく。
「班長、敵の圧力は増しました」
スタンの報告に、ヒーゾは敵を見据えた。
「何としても耐えるのだ~」
再びカラーノです。敵の圧力が明らかに増しているのを感じていました。私達は相変わらず二方向から挟み撃ちにされ、防空陣地は至る所で白兵戦へ移っています。
「左から回り込まれます!」
ラウネーンさんの声が響く。
「抑えるのだ~!」
ヒーゾ班長は叫びながら敵兵を撃ち倒します。しかし、1人を倒しても、その後ろから次の敵が飛び込んできました。
私も目の前の敵兵を殴り倒しましたが、その勢いのまま別の有翼種が銃剣を突き出してきます。咄嗟に身を捻ってかわしたものの、肩口を浅く切り裂かれました。
「カラーノ!」
シャークさんが横から敵を撃ち抜き、私との間へ割って入ります。
「まだ動ける?」
「はい!」
返事をした直後、また別方向から敵兵が迫ってきました。撃っても斬っても敵の数が減っているようには感じられません。
(このままでは押し切られる……)
そう思った、その時でした。
後方から重い銃声が連続して響き、イーグル班へ迫っていた敵兵が次々と倒れていきます。
「援軍だ!」
スタンさんが声を上げました。
煙の向こうから現れたのは、ピットブル班とタイガー班でした。
先頭を走るBJ班長が散弾銃を撃ち込み、その後ろでは教授班長が冷静に周囲へ指示を飛ばしています。さらに左右へ展開したピットブル班とタイガー班の面々が、間を置かず戦列へ加わりました。
「待たせたな。」
BJ班長が言います。
「こちらの仕事は終わった。これからは君達の防空を維持する。」
教授班長もそう告げました。
それまで押され続けていた戦線が、そこで初めて止まります。
ピットブル班とタイガー班が戦列へ加わったことで、防空陣地の空気は一変しました。これまで押し込まれていたイーグル班は一歩ずつ前へ出始め、地上戦を引き受けたBJ班長の後ろでは、ヒーゾ班長が再び91式携帯地対空誘導弾を構えていきます。
「ラウネーン、照準急ぐのだ~。今度は空を取り返すのだ~」
「了解!」
イーグル班は再び防空任務へ戻ろうとしていました。
その光景を見たバエーは、初めて表情を険しくした。
「……地上戦だけでは押し切れないか」
防空陣地を奪い切れなければ、後続の降下部隊は着地するたびに迎撃を受けることになる。帝国軍は攻勢を維持しているにもかかわらず、戦場の主導権は少しずつ自衛隊側へ傾き始めていた。
登場人物紹介
GASTイーグル班
ヒーゾ(班長)
スタン
ラウネーン
GASTピットブル班
BJ(班長)
シャーク(副班長)
カラーノ
GASTタイガー班
教授(班長)
セドリック・ファーファン……第25空挺降下連隊 第96空挺降下中隊長
エシェマリ・バエー……第25空挺降下大隊 強襲支援中隊長




