第264話 空挺降下
上空ではなおも、迎撃ミサイルと敵飛翔体が激しく交錯していた。
敵ヘリコプターは対地攻撃を繰り返しながら高度を変え、防空部隊の射撃を分散させようとしている。その間にも攻撃型ドローンが低空から侵入を試みており、門司上空の防空網は休む間もなく迎撃を続けていた。
「右前方、敵飛行機械接近!」
「対空火器、射撃開始!」
対空火器が一斉に射撃を開始し、門司上空は爆煙と曳光弾によって埋め尽くされていく。迎撃ミサイルが空を駆け、敵の飛翔体がその間を縫うように接近する。ヘリから放たれたロケット弾が防衛線前方へ着弾するたびに、地上からも新たな爆煙が立ち上った。
その混乱の中で、コンドル班の副班長マキシが空を見上げた。
「待て……あれは!」
マキシは空を指差した。
ヘリの編隊から少し離れた位置を、無数の黒い影が滑るように高度を下げている。彼らは飛行機械の陰へ身を隠し、防空網の死角を巧みに利用しながら接近していた。
「敵空挺部隊です!」
その報告を聞いたグリフィンは双眼鏡を構えた。
「やっぱりそっちが本命か」
敵は飛行機械による攻撃で防空部隊の注意を引きつけ、その隙を利用して有翼種部隊を侵入させようとしている。航空攻撃そのものが目的なのではない。防空陣地を上空へ釘付けにし、その頭上から兵士を送り込むことこそが、敵の狙いだった。
「コンドル班、全員迎撃開始。降ろしたら終わりだ」
「了解!」
グリフィンの号令と同時に、コンドル班の対空火器と狙撃銃が一斉に火を吹いた。接近する有翼種へ向けて射撃が集中し、何人かの空挺兵が進路を乱す。しかし、敵はそれでも降下を止めようとはしなかった。
一方、少し離れた陣地ではヒーゾも敵ヘリコプターを捕捉していた。
「こっちは任せて~」
ヒーゾは肩へ91式携帯地対空誘導弾を担ぎながら笑った。
「飛んでいる間は、好きにはさせないよ~」
照準器の中へ、一機の飛行機械が映り込む。
ヒーゾは静かに引き金を引いた。
その頃、敵ヘリから放たれたロケット弾が防衛線前方へ降り注ぎ、爆発が連続して起こっていた。爆煙によって地上の視界が閉ざされると、その煙に紛れるように有翼種たちが一斉に高度を下げ始めた。
第25空挺降下大隊は、輸送ヘリの後方を滑空していた。
大隊長ノミー・エクウィア陸軍少佐は翼を大きく広げながら、門司方面を見下ろしている。眼下では迎撃ミサイルが次々と炸裂し、味方のヘリや攻撃型ドローンを狙って曳光弾が飛び交っていた。
「計画通りだ。敵の防空火力は地上へ向いた。その間に我々が降りる」
エクウィアは冷静に呟いた。隣を飛ぶ副官が頷く。
「各中隊、降下開始位置へ到達します」
「第96中隊は西側防衛線を突破しろ。第97中隊は高射火器を制圧、第98中隊は司令部方向への進撃路を確保する。強襲支援中隊は降下地点の敵の掃討。陸空で挟み撃ちだ!」
「了解!」
命令は瞬く間に各中隊へ伝達されていく。
白い翼を持つ空挺兵たちは編隊を崩すことなく飛び続け、爆煙へ紛れながら高度を落としていった。エクウィアは双眼鏡越しに地上を見据える。自衛隊の迎撃は激しく、上空へ向けられた火力も決して弱くはない。しかし、その大部分は依然としてヘリや飛来するミサイルへ集中している。
「あと数10秒だ」
エクウィアは静かに息を吐いた。
「その瞬間、我々は敵陣の頭上にいる」
その言葉どおり、ヘリから放たれたロケット弾が防衛線前方を爆煙で覆った。視界が閉ざされた一瞬を逃さず、100名程の兵士が高機動車から飛び出す。
着地すると同時に隊形を整え、彼らは一直線に自衛隊陣地へ向かって駆け出した。
「強襲支援中隊、目的地に到着」
第2歩兵科旅団・第25空挺降下大隊・強襲新中隊長、エシェマリ・バエー大尉からの報告がエクウィアへ届いた。
「よし」
エクウィアは即座に命じる。
「降下予定地域を制圧しろ。」
「了解!」
強襲支援中隊は街道沿いに隊形を広げながら前進を開始した。先頭を進む分隊は遮蔽物を巧みに利用し、防空陣地との距離を一気に詰めていく。その後方では重火器班が射撃位置を確保し、対空火器が並ぶ陣地へ制圧射撃を浴びせ始めた。
「高射火器を優先して潰せ!」
バエーの号令が戦場へ響く。
その瞬間、重機関銃が唸りを上げ、防空陣地の土嚢が次々と砕け散った。空を見上げていた隊員たちは、今度は目の前から迫ってくる地上部隊にも対処しなければならなくなる。
「敵地上部隊!」
第8高射特科群の隊員が叫んだ。
迎撃ミサイルの装填を続けていた隊員たちは慌てて姿勢を低くする。しかし、激しい射撃に押され、空へ向けていた火力を地上へ向けざるを得なくなった。
「第3陣地、応戦します!」
「負傷者発生!」
「衛生員!」
防空部隊は、飛来する敵航空戦力への迎撃と、地上から侵入してくる空挺部隊への対応を同時に迫られていた。
その隙を逃さず、上空で旋回していた有翼種部隊が徐々に高度を下げ始める。
エクウィアはその様子を見上げ、小さく頷いた。
「予定通りだ。」
地上部隊が防空陣地を圧迫する一方で、空からは第25空挺降下大隊が降下を開始する。敵は、門司の防空網を上下から同時に崩そうとしていた。
「班長! 上空の有翼種が降下開始!」
ラウネーンの叫びに、スタンが空を見上げた。
「速い!」
第25空挺降下大隊は降下開始と同時に、猛スピードで防空部隊へ向かっていた。
91式携帯地対空誘導弾を構えていたヒーゾを見つけた1人の空挺兵は、真っ先にその陣地へ急降下した。対空兵を排除すれば後続が降りやすくなる。その判断に迷いはなく、銃剣を突き出したまま一直線にヒーゾへ襲い掛かった。
「くぅ~なかなか強いのだ~」
ヒーゾは銃剣を受け止めた。
翼で勢いを乗せた一撃に数歩押し込まれるものの、そのまま鍔迫り合いを続けることはしなかった。相手の力が抜けた瞬間に半歩だけ体を開き、銃口を喉元へ向ける。
空挺兵は声もなく崩れ落ちた。
「流石、班長」
スタンが声を上げる。
ヒーゾは倒れた敵を見ることもなく、次々と降下してくる有翼種へ視線を向けた。
「次が来るのだ~。対空ミサイルは一旦後回し。まずは降りてきた敵を止めるのだ~」
イーグル班の陣地もまた、白兵戦へ持ち込まれていた。
これを勝機と見た第96空挺降下中隊長のセドリック・ファーファン中尉は、一気に攻勢を強める。
近接戦闘でも高水準のGASTイーグル班だったが、この状況では分が悪かった。対空火器を運用しながら、同時に空から降下してくる敵を相手に白兵戦を続けなければならない。
「ぐわっ」
ブレナンが胸を斬り裂かれ、その場へ崩れ落ちた。
「副官!」
スタンが叫ぶ。
副班長のブレナンが倒れたことで、イーグル班の陣地に動揺が走った。
その機会を逃さず、ファーファンが叫ぶ。
「今だ! 一気に押し込め!」
号令とともに有翼種たちが次々と降下し、イーグル班の陣地へ殺到する。
イーグル班も決して弱くはない。対空戦闘だけでなく近接戦闘も想定した訓練を積んでいる。しかし、本来の任務は空を守ることだった。対空火器を運用しながら空挺降下部隊を相手に白兵戦を続けるには、負担が大きすぎる。
スタンがブレナンへ駆け寄ろうとする。しかし、その前へ別の空挺兵が降り立ち、行く手を塞いだ。
ヒーゾは新たな敵を撃ち倒したものの、次の瞬間にはさらに2人が間合いへ飛び込んでくる。
「くぅ~数が多すぎるのだ~」
敵はイーグル班を足止めするだけでも十分だった。
その間にも上空では有翼種たちが次々と降下を続け、防空陣地の各所へ散開していく。門司の防空網は、空から迫る航空戦力だけでなく、頭上へ直接降りてくる空挺部隊によって、その機能を少しずつ削られていた。
「ヒーゾ班長!」
助っ人に現れたのは、ピットブル班のシャークとカラーノだった。
カラーノが敵を吹き飛ばしてヒーゾを救出し、シャークは負傷したブレナンを後方へ引きずる。
「助かったのだ~あと少し遅かったら危なかったのだ~」
相変わらず間の抜けた声と喋り方だったが、その目は笑っていなかった。
班の解体も覚悟したほどの状況だったのである。
シャークはブレナンを安全な位置まで運ぶと、ライフルを構え直した。
「衛生班へ引き継ぐ。こっちは私達が受け持つ」
カラーノも敵兵を牽制しながら前へ出る。
「ヒーゾ班長、防空任務へ戻って。空を止めるのはイーグル班の仕事でしょ」
ヒーゾは倒れた携SAMを拾い上げた。
「恩に着るのだ~」
イーグル班は素早く陣形を立て直し、再び空へ照準を向ける。
地上ではシャークとカラーノが接近する敵を食い止め、その間にヒーゾたちは本来の防空任務へ戻った。
しかし、その頃も上空では第2陣の空挺兵がなおも降下を続けていた。
「まだ終わってないのだ~」
ヒーゾが照準器を覗いた瞬間だった。
新たなヘリ編隊が、門司上空へ姿を現した。
登場人物紹介
ノミ―・エクウィア
種族・性別:天使族の男性
所属・階級:陸軍少佐、マコンベリムト北部方面軍・第2歩兵科旅団・第25空挺降下大隊長
エシェマリ・バエー
種族・性別:ダチョウ型鳥人族の女性
所属・階級:陸軍大尉、同大隊・強襲支援中隊長
セドリック・ファーファン
種族・性別:天使族の男性
所属・階級:陸軍中尉、同大隊 第96空挺降下中隊
GASTイーグル班
ヒーゾ(班長)
ブレナン(副班長)
スタン
ラウネーン
GASTコンドル班
グリフィン(班長)
マキシ(副班長)
GASTピットブル班
シャーク(副班長)
カラーノ




