第263話 防空戦
――門司区 自衛隊拠点地――
敵軍接近の報告が入ってから間もなく、門司区の空気は一変していた。塹壕には隊員たちが配置され、車両は偽装網の下で待機している。地上部隊は、それぞれの持ち場で敵を迎え撃つための準備を着々と進めていた。
だが、最初に襲いかかってきたのは歩兵でも戦車でもなかった。
「レーダー反応多数!」
第8高射特科群の指揮所に、緊張した声が響く。
「筑紫野方面より高速目標接近! 数10……いや、100以上です!」
第8高射特科群司令部に緊張が走った。
表示されたレーダー画面には、筑紫野方面から門司へ向けて接近する無数の目標が映し出されている。これだけの数が一斉に接近している以上、偶然の飛来ではない。
「敵ミサイルと判定」
群長の舎楽々 兼樹一等陸佐は、即座に命じた。
「全中隊、迎撃準備。門司上空へ通すな」
「了解!」
指揮所では各中隊へ命令が伝達され、それぞれの迎撃態勢が整えられていく。
一方、その頃、水陸機動団特科大隊では家気 雄信二等陸佐が砲撃計画を確認していた。
「空は高射特科に任せる。我々は地上から来る連中を止めるぞ」
家気は作戦図へ視線を落とした。
筑紫野方面から接近している敵主力は相当な規模に達している。防衛線へ到達する前に、可能な限りその戦力を削らなければならない。
「各砲中隊へ伝達。予定射撃地点へ移動開始。敵先鋒が射程に入り次第、阻止射撃を実施する」
「了解」
その直後、門司上空の彼方で閃光が走った。
第8高射特科群による迎撃が始まったのだ。
レーダー画面には依然として無数の目標が映し出されている。敵が放ったミサイルは一方向から接近しているわけではなかった。複数の経路を取って門司へ向かっており、その飛翔経路からは、明らかに防空網を飽和させようとする意図が見て取れる。
「第一波接近!」
「発射!」
号令と同時に、迎撃ミサイル|が次々と空へ飛び出した。
夜明け前の空へ白い尾を引きながら上昇した迎撃ミサイルは、接近する飛翔体の群れへ向かっていく。やがて両者が交錯した瞬間、門司上空で連続的な爆発が発生した。
いくつもの火球が空中に生まれ、迎撃されたミサイルの残骸が燃えながら海へ落下していく。
「撃墜を確認!」
「第2目標も消失!」
指揮所へ次々と報告が入る。
しかし、レーダー画面から脅威が消えたわけではない。撃墜された目標の後方から、なおも複数の飛翔体が接近を続けている。その一部は低空へ降下しながら、防空網を抜けようとしていた。
「突破目標あり!」
「方位170、高度低下中!」
舎楽々は即座に判断した。
「第2中隊に引き継げ。低高度目標を逃がすな」
「了解!」
迎撃態勢を維持したまま、各中隊が新たな目標へ対応していく。防空網は一層の緊張に包まれていた。
その頃、門司の空では、ミサイルとは別の動きも始まっていた。
GASTイーグル班とコンドル班もまた、敵航空戦力の接近を捉えていた。
「ヒーゾ班長、敵航空戦力を確認」
スタンの報告を受け、ヒーゾは双眼鏡を覗いた。
雲の切れ間から複数の飛行影が姿を現している。
その中には、ヘリのような乗り物も確認できた。
「空挺降下部隊だね~。あの飛行機械も厄介だよ。あれが降りてきたら塹壕の後ろを荒らされるよ~」
ヒーゾは空を見上げたまま、小さく呟いた。
敵もまた、この戦いに本気の戦力を投入してきたらしい。
「グリフィン班長に連絡。空挺部隊が来るよ~」
『既に見えている』
無線の向こうからグリフィンが答える。
『こちらで空挺を引き受ける。お前は飛行機械|を潰せ』
ヒーゾは口元を歪めた。
「了解。お任せあれ~」
門司上空では迎撃ミサイルが飛び交い、その下では有翼種の空挺部隊が降下の機会を窺っている。一方、地上では特科部隊が射撃準備を進めており、門司へ迫る帝国軍主力への阻止射撃を開始しようとしていた。
『こちらコンドル班。敵航空戦力、なお接近中』
グリフィンの声が無線から響く。
『予想より数が多い。降下地点を絞り切れん』
「こっちも飛行機械を確認してるよ~」
ヒーゾは双眼鏡を下ろした。
敵は防空網を突破しようとしている。その一方で、有翼種部隊は地上への降下を狙い、ヘリはその空挺部隊を運びながら門司へ接近していた。
ミサイルが空を飛び交う中、GAST各班はそれぞれの目標へ向けて動き始める。
そして地上では、特科部隊が敵主力を迎え撃つため、射撃準備を整えていた。
門司区防衛戦は、地上だけの戦いではなかった。
空からもまた、帝国軍の攻撃が始まろうとしていた。
登場人物紹介
グリフィン……GASTコンドル班(対空班)の班長
ヒーゾ……GASTイーグル班(対空班)の班長
スタン……GASTイーグル班所属
家気 雄信……水陸機動団 特科大隊長
舎楽々 兼樹……第8高射特科群長




