第257話 敵の足元
「大分方面の報告です」(アイブル)
会議室で斥候班の隊員が地図を広げた。
「敵は大規模な集積所を複数建設しています。確認できただけでも燃料タンク群、弾薬庫、それに補給車両の駐車場です」(アイブル)
浪城は地図へ視線を落とした。
「戦闘部隊は?」
「少ないです。警備部隊らしき連中はいますが、筑紫野方面で見たような大規模戦力は確認できません。ただし車列の規模が異常でした」(アイブル)
アイブルは写真を机へ並べる。そこに写っていたのは戦車ではなく、荷台を積んだ車列だった。
「敵は大分を前線基地ではなく、補給拠点として利用している可能性があります」(アイブル)
「なるほど」
浪城は腕を組んだ。
「敵主力を支えている後方基地か」(浪城)
「おそらくな。これで大分方面が補給拠点である可能性は高まった」(桂)
桂も頷く。
「筑紫野の敵を叩く前に、その補給線を断つ方が効率的だ。だが敵の全容はまだ見えていない。追加の偵察を継続しろ」(桂)
「了解」
「補給を断てば、筑紫野の敵も動かざるを得なくなる」(浪城)
「焦る必要はない。まずは敵の足元を崩す」(桂)
数日前に決定された作戦は、既に実行段階へ移っていた。
門司区の自衛隊拠点地では、車両整備や物資の積み込みが昼夜を問わず続いている。隊員達もまた、来るべき出撃へ向けて準備を進めていた。
次の目標は大分方面。敵が戦線を維持するための後方拠点だった。
出撃当日の未明、車列は静かに門司区を出発した。ヘッドライトは使用しない。誘導灯だけを頼りに各部隊が進んでいく。
ローレライは車窓から流れる夜景を眺めていた。
誰もカバナーの名を口にはしなかった。
しかし、その不在だけは誰もが意識していた。車列のどこにも、あの班長の姿はない。数週間前なら当たり前にいた存在が消えている。その現実だけが、重く胸に残っていた。
「九州北部を奪還する」
誰かが呟いた。その言葉に反論する者はいない。
夜明け前、偵察部隊から無線が入る。
『目標地域を確認』
『敵集積所を視認』
『攻撃開始位置に到達』
桂は地図を見つめた。
「始めろ」
その命令と同時に、前線の迫撃砲陣地が一斉に火を吹いた。大分方面攻略戦が始まった。
夜明け前の空へ砲弾が吸い込まれていく。
数秒後、遠方の地平線で閃光が連続して走った。続いて爆発音。敵集積所周辺から黒煙が立ち上る。
『着弾確認』(シャウブ)
『目標地域で火災発生』(ハン)
『敵部隊、混乱中』(ロスタ)
無線が次々と流れた。
浪城は双眼鏡を下ろす。
「前進開始」
その命令を待っていたかのように車列が動き出した。
九州奪還作戦は新たな段階へ入る。標的は筑紫野の主力ではない。その主力を支える後方拠点だった。夜明けと共に、自衛隊は大分へ進軍を開始した。
登場人物紹介
アイブル……GASTリッチ班の副班長
浪城 激……第一空挺団第2普通科大隊長
桂 蘭次郎……九州奪還作戦の最高司令
シャウブ……GASTスネーク班(火力支援班)の班長
ハン……GASTスネーク班所属
ロスタ……GASTスネーク班所属




