第255話 不意打ち
監視塔に辿り着いた。そこでは、水機団がベリンゴンの保護をしていた。
「ベリンゴン!」(カバナー)
カバナーは速足でベリンゴンに駆け寄る。
「すまなかったな…」(カバナー)
「いえ、あの状況では仕方ありません。班長の選択は間違っていません」(ベリンゴン)
カバナーは見捨てる決断をしたことを悔やんでいた。任務上、仕方がない事とはいえ、生きている者を見捨てたのだ。だが、こうして生きている。カバナーに安堵の色が浮かんだ。
スパイダー班は、タックの遺体も回収した。タックの下半身は見つかることはなかった。認識票を回収し、撤収作業を行う。
ベリンゴンは、ユノラフの死に落胆し、怒りが湧く。首を刎ねる必要があったのか理解に苦しんだ。
水機団も被害がなかったわけではない。共に佐賀関の海軍基地を墜とした、楽慎司陸士長は戦死した。
「水機団はこの戦いで終わりだな。もう駒が揃ってない……それでも最後まで戦うがな」(秋口)
秋口の周囲には、出撃時より明らかに少ない隊員しか残っていなかった。しかし、秋口は前を見据えた。
高機動車も何台かやられていたが、戦死者を乗せなければ全員が乗れた。遺体はここで埋葬しなければならなかった。
「残念だが、生きている者が優先だ…」(カバナー)
カバナーは拳を強く握りしめる。彼らを家族のもとへ帰せない悔しさを滲ませていた。
「うう…」(ベリンゴン)
ベリンゴンは痛みから、呻き声をあげる。すぐに病院へ搬送する必要があった。
「頑張れ、もうヘリは門司に着いたそうだ。」(サカラ)
「班長、義足が出来たら、また戦線に戻りますからね。足一本失ったくらいで、逃げるわけにはいきません」(ベリンゴン)
「そうか、まずはリハビリをしっかりすることだ」(カバナー)
ベリンゴンは軽口を叩いているが、呼吸が荒い。運転をしているサカラは、アクセルを無意識に強く踏んでいた。
この時サカラは、いや、この車に乗る者全員がミスを犯していた。
敵巡回兵のルートを搭載したタブレットを誰も見ていなかったのだ。早くベリンゴンを搬送させたい――気持ちが逸り、最短ルートで辿り着く選択をしてしまった。そして、敵と遭遇する。
サカラが異変に気付いたのは、道路脇の瓦礫が僅かに動いた瞬間だった。しかし警告を発するより先に銃声が響く。フロントガラスが砕け、弾丸が額を貫いた。カバナーがサカラの異変に気付いた時には既に遅かった。道路脇から飛び出した兵士が肩に担いだ筒状の兵器を向けている。今度は小銃ではなく、RPGだった。
「車から出ろ!」(カバナー)
カバナーは叫んだ。高機動車から脱出こそ出来たが、爆風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「うぐっ!」
自身は助かった。しかし、ベリンゴンが無事なのかは分からない。彼は片足を欠損し、痛みに耐えていた。迅速に動けたかは疑問だ。爆炎の向こうに、ベリンゴンが乗っていた車両が見えない。
「皆は無事なのか?」
しかし、他人を心配している余裕はなかった。カバナーの周りを帝国兵が囲んでいる。第39市街地警戒連隊の残存兵だった。彼らは、カバナーを舌なめずりしながら見つめていた。
「(気持ち悪い…)」
レズビアンのカバナーにとって、男が向ける下心は不快でしかなかった。殺意が芽生えたが、だが、まともに戦える状態ではない。地面に叩きつけられた時、肋骨が折れてしまっていた。さらには、高機動車から脱出した時に、小銃を取るのを忘れていた。彼女の武器は、拳銃とナイフだけだ。援軍も期待できない、絶体絶命の状況である。
「面白い、GAST班長の力を甘く見るなよ?」
カバナーは拳銃を構えた。絶対に生き残るという信念と共に。
登場人物紹介
カバナー……GASTスパイダー班の班長
ベリンゴン……GASTスパイダー班所属。生死不明
秋口 将光……第一水陸機動連隊所属の陸曹長
※ワールドカップ疲れで更新頻度が落ちます。すみません。
殉職した隊員
サカラ:本名:家根敷 雄松
生年月日:1988年6月16日 / 出身:滋賀県
階級:一等陸曹 / 所属:GASTスパイダー班
享年:34歳
楽 慎司
生年月日:1999年8月20日 / 出身:大阪府
階級:陸士長 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊
享年:23歳




