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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第254話 諦めなかった

司令室での戦闘が終結し、スパイダー班は唐津湾分屯地司令部を制圧した。メルコ・スアキロン海軍中佐は戦死。司令部機能も停止した。これで基地は堕ちた。しかし、その代償は決して小さくなかった。


「戻るぞ……」


カバナーは短く言った。タックは既に戦死している。そしてユノラフもまた帰らぬ人となった。サカラは首のないユノラフの遺体を背負っている。テレルは回収した首を無言で抱えていた。誰も口を開かなかった。勝利の実感などなかった。ただ任務が終わったという事実だけがそこにあった。


司令部の廊下を進きながら、カバナーは周囲へ視線を向ける。


帝国兵の抵抗は既に止んでいた。指揮系統を失った兵士達は武器を捨てる者もいれば、その場で呆然と立ち尽くす者もいる。


「行くぞ。特戦群と水機団の状況を確認する」


カバナーはそう言って歩き出した。




司令部の外へ出たカバナー達を迎えたのは、銃声の減った戦場だった。先程まで激しく撃ち合っていた港湾部は静まり返りつつある。黒煙だけが風に流されていた。


「終わったのか……?」


ナルクンが呟く。


「まだ分からん。警戒を緩めるな」


カバナーは周囲を警戒した。


散発的な発砲音は聞こえる。しかし大規模な戦闘は既に終息へ向かっているようだった。




コーカーは倒れた人魚兵を見下ろしている。致命傷ではない。だが、その兵士は立ち上がれなかった。乾いた地面の上で荒い呼吸を繰り返している。


「妙だな」


ダコタが呟いた。


「撃った覚えはないぞ」(ダコタ)


「干上がっている」(コーカー)


コーカーは短く答えた。港湾施設は燃え、基地の加湿設備も止まっている。水棲種にとって、この戦場そのものが毒だった。




第23海中警備大隊は徐々に後退し始めた。


小隊長の1人であるナイティコも身体が乾燥し、声が掠れている。バリアブル軍曹はなおも戦線を維持しようとしていたが、兵達の動きは明らかに鈍くなっていた。


ナイティコは、ふと周囲を見渡す。倒れている兵士達の多くは致命傷ではなかった。だが唇は乾き、鱗はひび割れ、皮膚は白く変色している。加湿設備を失った基地で、長時間の陸戦を強いられた結果だった。


ワニ族であるバリアブル軍曹だけは最後まで戦い続けていた。乾燥した地面の上でも、その動きに大きな衰えはない。しかし海中警備大隊の大半は違った。人魚族も半漁族も、本来は水辺で戦うために進化した種族である。基地機能を失い、海からも引き離された今、彼らは敵の銃弾ではなく環境そのものに追い詰められていた。


「もう……駄目だ……」(ルゲティ)


シェイボ・ルゲティ一等兵は、その場に崩れ落ちた。身体が完全に乾ききり、海まで歩くことが出来ない。バリアブルは、干上がった水棲種を助けようとはしない。リザードマンやラミア族等、水陸両用で動ける兵士達は、仲間の救護ではなく、戦闘を指示される。


コーカーは容赦しなかった。干上がって動けなくなった水棲種兵へ照準を合わせ、確実に止めを刺していく。戦場では、生存者を残す余裕などなかった。ガッキー・ナイティコ、シェイボ・ルゲティも動けなくなった所を仕留められた。


バリアブルはなおも小銃を構えていた。


「まだ戦える! 陣地を維持しろ!」


怒号を飛ばす。しかし、その命令に応じる兵士はほとんど残っていなかった。


第23海中警備大隊は既に戦闘能力を失っていたのである。残された兵士達は負傷者を抱え、海岸方向へ後退していく。


「軍曹、撤退だ!」


上官達に肩を掴まれ、バリアブルはなおも抵抗しようとした。


「離せ! まだ終わっていない!」


しかし、既に戦場は決していた。




コーカーは双眼鏡を下ろした。


「終わったな」


「司令部方向の銃声も止まりました」(ダコタ)


「ならスパイダー班も成功したか」


コーカーがそう呟いた直後だった。瓦礫の向こうから数人の隊員が姿を現す。先頭を歩いていたのはカバナーだった。


「コーカー中隊長!」(カバナー)


「生きていたか」(コーカー)


コーカーは周囲を見回した。サカラが首のない遺体を担いでいることに気付いた。そして、ユノラフの首を抱えているテレルの姿も。


カバナーは少しだけ沈黙した。表情が僅かに曇る。しかし、すぐに現実へ戻った。


「ベリンゴンは?」


カバナーは首を横に振った。


「生きてる可能性は?」(コーカー)


「0ではないと思います」(カバナー)


そう答えるしかなかった。片足を失った状態で、敵がいる中に置いてきた。死んでいる可能性が高いが、それでも生きているのなら…


『コーカー中隊長』(秋口)


その時、無線から連絡が来た。


「秋口か、どうした?」(コーカー)


『監視塔付近で生存者を発見』(秋口)


「(まさか…)」(カバナー)


『ベリンゴンだ』(秋口)


一瞬だけ沈黙が流れた。


「生きているのか?」(テレル)


『ああ』(秋口)


カバナーは静かに息を吐いた。ベリンゴンと別れた時、生き残れる可能性は低いと思っていた。監視塔周辺は敵地のど真ん中だったからだ。


「運が良かったな」(ナルクン)


「違う」


カバナーは首を振った。


「生き残ったのは、あいつが最後まで諦めなかったからだ」


片脚を失いながらも、最後まで戦うと言った男の顔をカバナーは思い出していた。


黒煙の向こうに監視塔が見える。ベリンゴンと最後に別れた場所だった。あの時は死を覚悟して置いていった。しかし、その男はまだ生きていた。カバナーは小銃を構え直した。


「迎えに行くぞ」


登場人物紹介

GASTスパイダー班

カバナー……GASTスパイダー班の班長

テレル……GASTスパイダー班の副班長

サカラ

ナルクン


特戦群第2中隊

コーカー(中隊長)

ダコタ(副中隊長)


コール・バリアブル……第23海中警備大隊所属の鬼軍曹

秋口あきぐち 将光しょうこう……水機団所属の曹長

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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