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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第253話 唐津湾の終幕

メルコ・スアキロン海軍中佐は躊躇なく前へ出た。


「下がれ」


部下達へそう命じると、自ら小銃を構える。カバナーは照準を合わせた。司令官を討てば終わる。そう判断した。しかし次の瞬間だった。スアキロンの姿が消えた。


「――っ!」


反射的に銃口を向ける。だが遅い。


ガキィンッ!


激しい金属音が司令部内へ響いた。スアキロンの銃剣が目前まで迫り、カバナーは咄嗟に自らの銃で受け止めていた。


「(速い!)」


カバナーは目を見開く。想定より1歩早い。いや、1歩ではない。2歩、3歩先にいる。先程戦ったシックよりも速い。


スアキロンが膝を上げた。


「ぐっ!」


前蹴りが腹部へ突き刺さる。カバナーの身体が後退した。息が詰まる。だが休む暇はなかった。スアキロンはそのまま踏み込み、銃剣を首元へ突き出す。カバナーは反射的に上体を逸らした。鋭い刃先が鼻先を掠める。次の瞬間だった。足元を払われる。視界が反転した。倒れたカバナーにスアキロンは発砲するが、銃口を読んでギリギリでかわす。


「(危なかった…)」


かろうじて攻撃を凌ぐカバナーだったが、スアキロンの近接戦闘は想定以上の強さだった。


「(距離を取れ)」


カバナーは後退した。本来なら10mも離れれば終わる。射撃技術では自分に分がある。しかし――スアキロンは離れない。1歩下がれば1歩踏み込む。2歩下がれば2歩踏み込む。常に銃剣の間合いを維持していた。


「ちっ……」


カバナーは舌打ちした。この男は分かっている。自分が射撃戦で勝てないことを。


カバナーは一瞬だけ視線を部下達へ向けた。近接戦闘では分が悪い。ならば連携で仕留めるしかない。しかし、その考えはすぐに打ち消された。


テレル達もまた余裕がなかった。吹き抜けの回廊や階段から撃ち込まれる帝国兵の射撃を抑えるだけで精一杯だったのである。サカラは遮蔽物の陰から応戦し、ナルクンは負傷した腕を庇いながら銃を撃っている。誰もが目の前の敵を相手にすることで手一杯だった。


「ちっ……」


カバナーは舌打ちした。この戦いは自分で何とかするしかない。


スアキロンもまた周囲へ視線を走らせた。近接戦闘では優位に立っている。しかし決着が長引くのは好ましくない。水棲種である彼は、陸上で戦い続けることを前提に生まれてはいない。基地の加湿設備は既に停止し、司令部へ運び込ませた簡易プールも十分な代用にはならない。このまま消耗戦になれば、先に不利になるのは自分の方だった。


「ならば、ここで終わらせるだけだ」


スアキロンは低く呟くと、一気に間合いを詰めた。床を蹴る音が響く。次の瞬間には、再びカバナーの目前だった。銃剣が横薙ぎに振るわれる。カバナーは咄嗟に小銃で受けた。


ガキィンッ――


火花が散る。だが、それで終わらない。スアキロンは銃剣を引き戻すと同時に銃床を振り上げた。鈍い衝撃がカバナーの頬を打つ。視界が揺れた。


「くっ……!」


後退しようとした瞬間、今度は膝蹴りが飛んでくる。カバナーは腕で受けたが、その衝撃だけで体勢を崩された。完全に主導権を握られている。スアキロンは追撃の手を緩めない。軍人というより、まるで獲物へ喰らいつく捕食者だった。


「どうした?」


スアキロンが冷たく言った。


「貴様等は、この基地を壊滅させた精鋭ではなかったのか」


銃剣が突き出される。カバナーは身体を捻って回避した。刃先が肩口を掠める。制服が裂け、血が飛び散った。それでもカバナーは倒れない。


「十分だ」(カバナー)


カバナーは口元の血を拭った。荒い呼吸を整えながら答える。


「敵を知れれば殺し方も見える」」(カバナー)


スアキロンの目が細くなった。


「お前が私を? 笑わせるな」(スアキロン)


2人は再び向かい合う。司令部内の銃声も、兵士達の怒号も、その瞬間だけ遠く聞こえた。


再び激突した瞬間だった。カバナーは違和感を覚えた。


速い。


だが先程より僅かに遅い。銃剣を受け流しながら観察する。スアキロンの首筋には乾いた鱗が浮かんでいた。


「そういうことか」


カバナーは笑った。スアキロンの表情が僅かに曇る。


「陸はお前の戦場じゃない」


「お前の墓場だ!」


カバナーは銃口をスアキロンではなく背後へ向けた。


タタタタン!


簡易プールが砕ける。水が床へ流れ出した。スアキロンの顔色が変わった。


「き、貴様…」


状況が変わった。半魚人であるスアキロンは陸では30時間しか活動できない。水に入らずにどれくらいの時間が経っていただろうか。部下には小まめに簡易プールに入るよう命令を下していたが、自分が入るのを後回しにしていた。


「(終わりか…)」


スアキロンは最後の突撃を仕掛けた。だが僅かに踏み込みが浅い。カバナーは銃剣を受け流し、そのまま至近距離から引き金を引いた。銃声が司令部へ響く。


スアキロンの身体が揺れた。それでも中佐は倒れない。目はまだ死んでいない。


「下等生物が…」


小銃を握り直し、カバナーへの発砲を試みるが、引き金を引く力は残っておらず、小銃を床へ落とした。


唐津湾分屯地司令、メルコ・スアキロン海軍中佐は静かに絶命した。




「将軍、唐津湾の海軍基地が堕ちました」


「そうか、まあ奴らは良くやった。敵はどうした?」


「半壊といったところでしょうか。ところで将軍…」


「なんだ?」


「私が奴等を始末してよろいしでしょうか?」


「構わん、許可する」


「了解」


男は不敵に笑った。


登場人物紹介

カバナー……GASTスパイダー班の班長

メルコ・スアキロン……第1領海警備隊唐津湾分屯地の司令

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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