第252話 ようやく
スパイダー班は、目前にいるメルコ・スアキロン海軍中佐の前に飛び出した。
カバナーはスアキロンの背後にある簡易プールに気付いた。
「(あれで乾きを補うつもりか)」(カバナー)
直後、その簡易プールから人魚族の兵士が飛び出した。
「司令、ここはまず私が!」
まず立ちはだかったのは、副官のアレイア・シック海軍中尉。スアキロンの右腕として、長く支えていた尉官だ。
シックはまず、カバナーに向けて発砲する。
パシュ! パシュ!
「くっ…」(カバナー)
カバナーは慌てて身を隠す。
「(あれが指揮官だな。なら私が倒す。)」
シックは、他の隊員には目もくれず、カバナーをターゲットに絞った。
「お前等は、残りの雑魚を片付けろ!」(シック)
シックは、部下に命令を下すと、カバナーに接近する。
パシュ! パシュ!
水銃がカバナーを隠す遮蔽物に撃ちつけられ、削られていく。カバナーは、ここでじっとしていると、いずれ被弾する事を悟った。
「隠れてないで、いい加減出てこい!」(シック)
徐々に近づいていくシック。そこから動けないカバナー。その時…
「お前、油断しすぎだ」(ユノラフ)
シックの背後をユノラフが取った。しかし、シックは焦っていない。
「お前がな」(シック)
シックは不敵に笑い、尾鰭でユノラフを弾き飛ばした。
「ぐわあっ」
「ユノラフ!」(カバナー)
ユノラフは壁に叩きつけられ、気を失ってしまう。後頭部を打ったようだ。
「くそ……」(テレル)
テレルは、自身の作戦ミスを悔やんだ。シックはカバナーにしか目が行っていなかった。だからこそ、隙が出来る。そう踏んでユノラフを向かわせた。しかし、その結果は失敗に終わった。人魚の尾尾鰭にあれだけの威力がある事は想定外だった。あれでは近づけない…。
ユノラフは、付近にいた兵士に軍刀によって心臓を突かれ、更には首を刎ねられて絶命した。
「ユノラフ!」
カバナーが叫ぶ。ユノラフの首が床を転がる。シックはそれを見下ろした。
「馬鹿な奴だ。背後から仕掛けるなら、もっと確実にやれ」
そう言いながらカバナーに銃口を向ける。
だが、その瞬間だった。
パンッ――
シックの肩が弾けた。テレルだった。
「班長!」
叫ぶ。シックは即座に振り向く。だが今度はカバナーが動いていた。遮蔽物から飛び出し、一気に距離を詰める。
「なっ――」
シックが銃を向ける。しかし遅い。カバナーの銃弾が胸部へ命中した。続いて2発、3発。シックの身体がよろめく。それでも倒れない。
「司令……」
シックは血を吐きながら振り返った。ずっと隣で支えてきた。唐津湾分屯地がまだ平穏だった頃から。
「申し訳……ありません……」
それが最後だった。
シックの身体が床へ崩れ落ちる。司令部にいた帝国兵達の表情が変わった。誰もが知っていた。あの男が司令の右腕だったことを。その時、メルコ・スアキロン海軍中佐が一歩前へ出た。
「下がれ」
静かな声だった。兵士達が振り返る。スアキロンは小銃を構えた。
「ここから先は私がやる」
カバナーはその姿を見据える。ようやく辿り着いた。この基地の中枢に。
登場人物紹介
アレイア・シック
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:海軍中尉、第1領海警備隊唐津湾分屯地司令部
備考:スアキロンの副官。今話で名前が判明
カバナー……GASTスパイダー班の班長
テレル……GASTスパイダー班の副班長
メルコ・スアキロン……第1領海警備隊唐津湾分屯地司令
殉職したGAST隊員
ユノラフ:本名:凛珠 啓史
生年月日:1993年5月1日 / 出身:新潟県
階級:二等陸曹 / 所属:GASTスパイダー班
享年:29歳




