第251話 司令部突入
敵の包囲網を突破したスパイダー班は、ついに司令部棟の目前まで到達していた。司令部周辺には、倒れた帝国兵と砕けた土嚢が散乱している。燃料施設から立ち上る黒煙が流れ込み、視界も悪い。だが、それでも司令部棟だけは生きていた。窓という窓には銃口が並び、入口周辺には即席の防御陣地まで構築されている。
「ここで時間を使えば意味がない」
カバナーは入口を見据えた。
「突入する。先頭は私とテレル。ナルクンとユノラフは左右を警戒。サカラは最後尾だ」
「了解」
隊員達が短く答える。カバナーは壁際へ身を寄せた。入口までは約10m。近いようで遠い距離だった。その間にも銃声は響き続けている。
「行くぞ」
カバナーは3本の指を立てた。
「1…2……3!」
同時に全員が飛び出した。
「敵襲!」
入口付近の帝国兵が叫ぶ。しかし反応が遅かった。カバナーの射撃が先頭の兵士を倒す。続いてテレルの連射が2人目を薙ぎ払う。ナルクンとユノラフも左右へ射撃を浴びせた。土嚢の陰にいた帝国兵が悲鳴を上げて崩れ落ちる。その隙にスパイダー班は入口へ到達した。
「中へ!」
カバナーが叫ぶ。隊員達が雪崩れ込むように司令部へ突入する。その時だった。2階吹き抜けの回廊から怒声が響いた。
「撃て!」
指揮を執っている半魚人の軍人が見える。周囲の兵士達が即座に反応した。
「敵司令官か」
カバナーは照準を向けた。だが相手も素人ではない。半魚人の士官は部下へ指示を飛ばしながら柱の陰へ移動する。同時に複数の帝国兵がその前へ飛び出した。まるで盾になるかのように。
「厄介だな」
カバナーは小さく呟いた。少なくとも、あの男がこの基地の中枢であることだけは間違いなかった。
敵が司令部に侵入した。だが、メルコ・スアキロン海軍中佐は慌てた様子はない。むしろ、この状況を想定していた。燃料施設は失われた。港湾設備も破壊された。艦艇も炎上している。だが、それでも司令部は残っている。敵がここまで到達することは想定済みだった。
だからこそ吹き抜けの回廊や各階の窓際には射撃陣地を構築し、侵入者を一歩ずつ削り取る防御網を整えていたのである。
「冷静に動けば問題ない。お前達の力を信じろ」(スアキロン)
侵入を許し、パニックになっていた部下に優しく声をかける。敗北が近いことは理解している。しかし、降伏するつもりはなかった。スアキロンは軍帽をかぶり直す。
「燃料は燃えた。艦艇も沈んだ。だが司令部は残っている。ならば戦える」
スアキロンは小銃を握り直した。
外では、第23海中警備大隊が奮戦していた。包囲網が崩れてもバリアブルはすぐには負けない。
「後退するな!」
「陣形を立て直せ!」
軍曹が怒鳴る。海中警備大隊は何度も押し返されるが、その度に再編される。
ナイティコは必死に命令を飛ばし、ルゲティは弾薬を運び続ける。特戦群も一気には突破できない。互いに瓦礫を取り合いながら戦線は膠着していた。
その様子を見ながら、バリアブルは残弾を確認した。弾薬は想定以上に減っている。それでも軍曹は表情を変えない。司令部が持ちこたえるための時間を稼ぐ。それが今の自分達の役目だと理解していた。
その頃、司令部の上階ではスアキロンが銃を構えていた。吹き抜けの下では銃声が響き続けている。部下達が倒れる声も聞こえた。それでも海軍中佐は動じない。
敵は来る、必ずここへ来る。だから待つだけだった。
「司令殿、下がってください」
副官が言う。スアキロンは首を振った。
「司令官が最後まで残る。それだけだ」
その時、下階から激しい銃声が響いた。続いて悲鳴は聞こえ、そして沈黙した。スアキロンはゆっくりと階段へ視線を向ける。
やがて普通の足音が聞こえた。その足音は確実にこちらへ近付いている。スアキロンは照準を合わせた。
「班長、敵司令官が見えました」(ユノラフ)
「奴を討ち、この戦いを終らせるぞ!」(カバナー)
スアキロンは、声を張り上げながら進軍してくるスパイダー班を見つめ、小さく呟く。
「来るか」
登場人物紹介
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
ユノラフ
第23海中警備隊
ガッキー・ナイティコ……半漁族の若き海軍少尉
コール・バリアブル……ワニ族のベテラン鬼軍曹
シェイボ・ルゲティ……人魚族の若手隊員
メルコ・スアキロン……唐津湾分屯地の司令




