第247話 失われた一人
カバナーが駆け寄った先にいたのはタックだった。かろうじて生きている。しかし、助からないのは明らかだった。敵のRPG相当の武器を受けたのだろう。彼女は腰から下が無くなっていた。辺り血溜まりが出来ており、かなりの量の出血もしていたようだ。
「……タック」
助からないのは目に見えていたが、それでも声をかけずにはいられなかった。
「おい、しっかりしろ」
返事がない。何か呟いているようだ。
「拓…」
プラングリーの本名だった。
「会いたい……」
「もうすぐ、会えるかな……」
蚊の鳴くような声だったが、そう言い残し、タックこと、波瀬咲蘭三等陸曹は息を引き取った。
感傷に浸っている場合はない。カバナーは黙ったまま、タックの無線を確認した。タックの無線も壊れていた。
「(仕方ない。このまま進むか…)」(カバナー)
「う、ああああ……」
その場から離れようとしたとき、誰かの呻き声が聞こえた。
「この声は…」(カバナー)
カバナーは、この声に聞き覚えがあった。彼女は、また嫌な気分になった。
「ベリンゴン…」(カバナー)
そこには右足を失ったベリンゴンの姿があった。かろうじて止血はしてある。しかし、かなりの重傷なのは見て分かった。
「は、班長…タック、タックは……?」
「死んだ」
「そ、そうですか…タックは……」
「タックは死んだ。お前ももう、戦えない。挟撃されて後送も出来ない。この意味が分かるか?」
非情な決断だと思った。しかし、この状況では、そうせざるを得なかった。ヘリを出せば、筑紫野の部隊にも気付かれる。ベリンゴンも”死んだ者”として扱うしかなかった。
「…はい。」
ベリンゴンも全てを察したようだ。
「私の無線は壊れている。お前のは無事か?」
ベリンゴンは、何も言わず無線を差し出した。とはいえ、ベリンゴンはただで死ぬつもりはない。弾倉を装填し直す。遮蔽物に身を隠し、激痛に必死に耐えた。
カバナーは無線を受け取った。背後では銃声と爆発音が途切れない。目の前にはタックの遺体が横たわり、少し離れた場所ではベリンゴンが銃を構えている。どちらも自分の部下だった。だが今は立ち止まれない。生きている者を指揮することこそ、自分に残された仕事だった。
雑音が流れた後、ようやく通信が繋がった。
『こちらスパイダー02! 応答してください!』(テレル)
「私だ」
『班長! 無事だったんですね!』
テレルの声に安堵が混じる。
「状況を報告しろ」
『私もユノラフも軽傷で済んでます。ですが、特戦群第2中隊も損害が出ています』
「タックの戦死、ベリンゴンの重傷を確認した。サカラとナルクンは無事か?」
『こちらスパイダー03、サカラ。無事です。ナルクンも』(サカラ)
「敵砲撃部隊の位置は分かるか?」
『北東約八百メートル。市街地外縁部です。このままでは押し返されます』(テレル)
カバナーは地図を思い浮かべた。敵は基地救援のために増援を送り込んだのではなく、砲撃でこちらの攻勢を止め、その間に海軍基地の守備隊を立て直そうとしている。そう推測した。
「家気大隊長、聞こえますか?」
『こちら家気。カバナー、無事でよかった』(家気雄信:二等陸佐)
※水陸機動団特科大隊長
「家気大隊長、砲撃座標を送ります。後方の増援部隊を、中SAMで潰せますか?」
『可能だ。ただし連続射撃はできん。基地との距離が近い』
「十分です」
カバナーは即答した。
「敵を止めてください。我々は基地を落とします」
『了解。敵増援へ射撃を開始する』
「スパイダー班、聞いていたな」
『了解』(テレル)
「進路変更なし。目標は海軍基地司令部だ」
カバナーは炎上する港湾施設へ視線を向けた。タックは死んだ。ベリンゴンも戦線から脱落した。それでも任務は終わっていない。敵の増援が到着する前に、この海軍基地を沈黙させる必要があった。
登場人物紹介
家気 雄信
生年月日:1980年1月14日 / 出身:熊本県
階級:二等陸佐 / 役職:水陸機動団 特科大隊長
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
テレル(副班長)
ユノラフ
ベリンゴン
殉職したGATS隊員
タック:本名:波瀬 咲蘭
生年月日:1997年12月3日 / 出身:静岡県
階級:三等陸曹 / 所属:GASTスパイダー班
備考:敵のRPG相当の攻撃を受け、死亡
享年:25歳




