第246話 唐津湾強襲
夜明けと同時に、唐津湾の海軍基地への攻撃が始まった。最初に火を吹いたのは水陸機動団特科大隊だった。轟音と共に放たれた砲弾が沿岸砲陣地へ着弾する。土煙と炎が立ち上がり、監視塔の一つが傾いた。
「着弾確認!」
「第2射、用意!」
ドオォンという大きな爆音が響いた。砲撃が続く中、スパイダー班は基地外周へ接近していた。監視塔から照明が伸びる。しかし、それより早くタックの銃弾が監視兵の頭部を撃ち抜いた。兵士は悲鳴を上げる暇もなく転落する。
「監視塔制圧」(タック)
『了解。前進を継続する』(カバナー)
「お前のそのデカさで、よく相手に見つからないよな」(ベリンゴン)
「うるさい、私語は慎め」(タック)
タックは、「またか」というウンザリした気持ちになったが、自分の背が高いのを妬んでいるだけだと思えば、多少は気が楽になる。逆に男性なのに低身長のベリンゴンには同情する。確かに自分の身長では、斥候に不向きかもと考えたことはあるが、こうしてやれているのだ、問題ない。
基地内部では既に混乱が始まっていた。上陸阻止大隊の兵士達が持ち場へ走る。海中警備大隊の水棲種達も港へ集まり始めていた。
特戦群第2中隊が港湾施設へ突入し、倉庫周辺で激しい銃撃戦が発生する。砲撃で生じた突破口へ一気に突入していた。
「本当に暴れてるな」(テレル)
GASTは特戦群5中隊という位置づけだが、各中隊との折り合いは良くない。対グーリエ星人において、GASTが最精鋭という位置づけが気に入らないらしい。また、特例で陸士長以下の階級、且つレンジャー資格を持っていなくても加入できる制度に、納得がいっていない者も多いと聞く。特戦群の鼻息が荒いのは、こういった影響もあるのだろうか。テレルは、呆れたような、感心したような何とも言えない感情になる。
ユノラフはコンテナの陰から身を乗り出した。照準の先では敵兵が仲間へ指示を飛ばしている。引き金を引く。目の前の敵兵は胸を押さえ、そのまま崩れ落ちた。
「右側の倉庫を制圧!」(ユノラフ)
「了解!」(テレル)
状況は優勢だった。敵は抵抗しているものの、防御態勢のまま奇襲を受けた影響が大きい。港湾施設の半分以上が既に自衛隊側の制圧下にあった。
その時だった。カバナーの無線機へ緊迫した声が飛び込む。
『こちら後方敵増援!』
雑音混じりの声だった。
『敵増援を確認!』
カバナーの表情が変わる。
『博多を巡回していたと思われる部隊が接近中! 数は不明!』
「何だと……」(カバナー)
唐津湾基地だけではなかった。福岡市西部で発生した戦闘は、確実に敵へ伝わっていたのだ。
遠くで何かが発射された音が響く。
ヒュォォォォ――
タックは反射的に顔を上げた。次の瞬間だった。
「RPG!?」(ベリンゴン)
「伏せろ!」(ベリンゴン)
ドオォン!
誰かの叫び声と共に、凄まじい爆発が周囲を飲み込んだ。
「ぐ、ぐわああ…足が…俺の足があ!」(ベリンゴン)
ベリンゴンは、直撃こそ免れたものの、自身の右足を失っていることに気付いた。
「タック…タックいるか?」(ベリンゴン)
ベリンゴンは、共に行動していたタックを呼んだが、反応はない。
ヒュォォォォ――
「またかよ!」(ベリンゴン)
ドオォン!
「うぐっ!」(ベリンゴン)
幸い、直撃は免れた。しかし、片足を失った彼に逃げ場はない。破片が背中は腰に突き刺さる。
カバナーは、瓦礫の隙間から身を乗り出し、状況把握に努めた。額を切ったようで、血が流れている。目に入って視界が滲む。周りに仲間の遺体はない。しかし、あの砲撃で無傷でいられるわけがない。
「……」
ふと、敵兵の遺体が目に入った。敵増援部隊は、味方もろとも吹き飛ばしていた。任務のためなら味方をも巻き込む姿勢は、自衛官として理解できない部分であるが、それが牙となって襲ってきている。
カバナーの無線は故障していた。これでは仲間の状況を確認できない。だが、慌てない。自身に何かあった時は、副班長のテレル、その次は特戦群2中隊長のコーカーと次席指揮は決まっている。任務に支障はない。自分の足で仲間を探すことにした。
砲撃は基地外周を中心に放たれたようだ。血や肉片、火薬の匂いが混じった不快な匂いが嗅覚を刺激する。今のところ、仲間の死は確認できていないが、誰とも遭遇していない。それが無事である証拠なら、どれだけ良かっただろうか。管制塔付近に着いたとき、彼女は見たくないものを見てしまった。
登場人物紹介
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
テレル(副班長)
タック
ベリンゴン
ユノラフ




