第245話 静かなる侵攻
―福岡市西部―
夜の街を、自衛隊部隊が静かに進んでいた。先頭を進むのはスパイダー班。その後方に特殊作戦群第2中隊、水陸機動団の部隊が続く。唐津湾へ到達するには福岡市西部を抜ける必要があった。
「思ったより静かですね」
テレルが小声で言う。
カバナーは周囲の建物を見回した。
「静かすぎる。敵も馬鹿じゃない」
ネイマンの報告では、博多周辺には軍事施設こそ存在しなかった。しかし巡回兵の存在は確認されている。敵もまた、自衛隊が南下してくる可能性を考えているはずだった。その時だった。
前方で赤外線双眼鏡を覗いていたテレルが手を上げる。
「停止」
隊列が止まった。
「どうした?」(カバナー)
「前方300。敵巡回部隊です」
全員が身を低くする。路地の向こうを十数名の帝国兵が横切っていた。
「夜間巡回中か」
カバナーが呟く。兵士達は何かを警戒するように周囲を見回している。ネイマンの報告を受けて、警戒態勢を強化しているのかもしれなかった。
「迂回しますか?」
テレルが尋ねる。
カバナーは地図を思い浮かべた。ここで時間を使えば夜明けが近付く。だが、戦闘になれば基地全体へ存在が露見する。数秒考えた後、彼女は決断した。
「排除する」
隊員達が静かに頷いた。次の瞬間、消音銃の発砲音が夜闇に溶ける。先頭の帝国兵が音もなく崩れ落ちた。
「はあ、夜間の哨戒は辛いな」(グネ・メブラ上等兵)
「まったくだ。終わったら、飲みにでも行こうぜ」(クビレン・モノ上等兵)
「その前に睡眠だろう…眠くてたまらん…ふあっ」(メブラ)
「こら、集中しないと駄目よ。いつ敵と遭遇するか…」(セギンヌ・ジャヴァガ上等兵)
消音銃の発射音は、ほとんど聞こえなかった。先頭を歩いていた兵士が突然膝をつき、そのまま前のめりに倒れる。隊列の後方から戸惑いの声が上がった。
「どうした?」(ネブラ)
「おい、立て」(ネブラ)
返事はない。近くにいた兵士が駆け寄る。倒れた兵士の肩を掴んだ瞬間、その手が血で染まった。
「なっ……」(ネブラ)
額には小さな穴が開いていた。
「ジャヴァガ!?」(ネブラ)
その叫びが夜の街に響く。
「敵襲だ!」(ネブラ)
叫び声と同時に帝国兵達が散開する。だが、その頃にはスパイダー班は既に次の遮蔽物へ移動していた。
「3時方向、2体」(べリンゴン)
消音銃が火を吹く。路地へ飛び込もうとした兵士がその場に崩れ落ちた。
「撃ってくる方向が分からん!」
「建物の中だ!」
「いや、屋上だ!」
「増援を呼べ!」
混乱する帝国兵達に対し、自衛隊側は必要以上の交戦を避けていた。カバナーの目的は殲滅ではない。唐津湾へ到達することだった。
「追撃される前に離脱する。後続へ伝達しろ」(カバナー)
無線が次々と繋がる。後方の特殊作戦群第2中隊も進路を変更しながら前進を続けた。その頃には、帝国軍側も異変に気付き始めていた。
「敵の数が分からん!」
「少数じゃないぞ!」
「増援を呼べ!」
―第39市街地警戒連隊第2大隊本部―
「西部地区で戦闘発生」
「敵規模不明」
「進行方向は西」
報告を受けた大隊長、ステイル・スクウィット少佐が眉をひそめる。
「西だと?」
唐津湾の位置を思い浮かべる。
「海軍基地か」
翌未明、唐津湾海軍基地
海から吹く風を受けながら、スパイダー班は基地を見つめていた。
遠くには監視塔、沿岸砲陣地、そして港湾施設。
「ここを落とすのか」(タック)
「ここからは、俺達も暴れていいんだな?」(パリジャン)
「もちろん」(カバナー)
パリジャンは不敵に笑った。
「気を引き締めていくぞ」(カバナー)
登場人物紹介
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
テレル(副班長)
タック
べリンゴン
パリジャン……特戦群2中隊所属
第39市街地警備連隊第2大隊の皆さん
ステイル・スクウィット……大隊長、陸軍少佐、猫型獣人族の男性
セギンヌ・ジャヴァガ……上等兵、リザードマンの女性
グネ・ネブラ……上等兵、ゴブリン族の男性
クビレン・モノ……上等兵、ゴブリン族の男性




