第243話 三つの脅威
スパイダー班
唐津湾の海軍基地を偵察。想像以上に小規模だった。港湾施設の周囲には沿岸砲陣地と監視塔が配置され、厳重に警戒している。海中にも兵を忍ばせているだろう。だが――
「攻勢に出る気配がないな」(カバナー)
カバナーは双眼鏡を下ろした。
「ですが、放置はできませんよ。奴らの機動力なら関門海峡を狙える」(テレル)
「ああ。戦力は小さいが、位置が悪い」(カバナー)
『班長、博多湾付近に海軍施設らしき建物はありませんが、巡回中の敵兵多数』(キーラ)
「了解だ。やはり、博多に軍事拠点はなし、唐津湾基地は防御態勢。十分だろう」(カバナー)
「(放置できないのは面倒だ)」(カバナー)
カバナーは周囲を見回した。
「必要な情報は揃った。撤収するぞ」
『了解』
スパイダー班は静かにその場を離れた。
リッチ班
「こりゃあ、参ったな…」(ネイマン)
ネイマンは双眼鏡を下ろした。筑紫野周辺には野営地がいくつも築かれている。
戦車部隊、砲兵陣地補給車列……さらに上空では有翼種の哨戒部隊が巡回していた。
「班長…」(マッキー)
「ああ」
ネイマンは苦い顔をする。
「北九州から逃げた敗残兵だけで説明できる数じゃない」
視界の先では、補給部隊がひっきりなしに物資を運び込んでいた。つまり、この軍は撤退中ではなく、これから戦うために集結している。
「(有翼種も多い。戦闘ヘリも確認できる。しかも補給線まで生きている)」
ネイマンは眉をひそめた。
「(一個師団どころじゃないな)」
「どうします?」(マッキー)
「決まってる」
ネイマンは無線機を取り出した。
「すぐ報告だ。こいつは俺達だけで抱える問題じゃない」
布袋班
大分方面では大規模移動こそ確認されていない。しかし、補給物資の集積が続いていた。
「こちらも軍がいる」
弁慶はそう結論付けた。
「ただし今すぐ動く気配はない」
――門司区 臨時会議室――
スパイダー班、リッチ班、布袋班が持ち帰った情報が地図へ書き込まれていく。会議室の空気は重かった。
写真には砲兵陣地や戦車部隊、延々と続く補給車列が映っていた。さらに筑紫野周辺には複数の野営地が確認される。桂陸将は地図の前に立ったまま口を開く。
「まず唐津湾だ」
指揮棒が地図を叩く。
「海軍基地の規模は小さい。攻勢準備の兆候も確認されていない」
スパイダー班のカバナーが頷いた。
「はい。現状は守勢です。ただし海上戦力は保持しています」
「つまり放置は危険だが、最優先目標ではない」
桂はそう整理した。続いて指揮棒が筑紫野へ移る。室内の視線が自然と集まる。
「問題はここだ」
リッチ班が撮影した写真が机へ並べられる。
砲兵陣地、戦車、補給車列、野営地。
どれも明らかに大部隊だった。
「敗残兵の集まりではありません。補給も機能している。反攻を前提とした戦力集結です」(ネイマン)
桂は写真を見ながら静かに頷いた。
「私も同意見だ」
そして最後に大分方面へ視線を移す。
「こちらは判断材料が不足している」
布袋班の弁慶が説明を引き継ぐ。
「活動は確認していますが、戦力規模は把握できていません」
「だが存在することだけは確実だ」(柄垣)
柄垣が腕を組んだ。
「問題は大分方面です」(教授)
教授は地図上の大分へ視線を向けた。
「筑紫野の戦力は確認できました。しかし大分には何がいるのか分からない。最悪なのは、筑紫野方面軍が北上を開始したタイミングで、大分方面軍も同時に動く場合です」
「挟撃か」(浪城)
「ええ。その可能性は否定できません」(教授)
会議室が静まる。それが全員の頭にあった。北九州を確保したとはいえ、自衛隊の補給線は壇之浦海峡一本に依存している。もし南北から圧力を受ければ、逆に自衛隊側が包囲される危険すらあった。桂はしばらく地図を見つめていた。やがて口を開く。
「敵もこちらの動きを見ている」
その声は落ち着いていた。
「ならば我々も、敵の出方を待つだけではない」
桂は地図上の唐津湾を指した。
「まず唐津湾の海軍基地だ」
その場にいた水陸機動団の指揮官が姿勢を正す。
「規模は小さい。しかし関門海峡の安全を確保するためには排除する必要がある」
桂は続いて筑紫野へ指揮棒を移した。
「こちらが主戦場になる可能性が高い」
会議室の空気が引き締まる。
「各普通科連隊の増援が到着次第、防衛線を再編する。北九州の確保を優先しつつ、敵主力の動向を監視する」
そして最後に大分方面を見た。
「布袋班は引き続き監視を継続。敵が動けば即座に報告しろ」
「了解」(パーキー)
桂は全員を見渡した。
「若松で勝利したことは事実だ。しかし敵はまだ健在だ」
誰も反論しない。今回の偵察で分かったのは、北九州攻略戦が終わったということではない。その先にある九州奪還へ向けた戦いが、ようやく姿を現したという事実だった。
登場人物紹介
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
テレル(副班長)
キーラ
GASTリッチ班
ネイマン(班長)
マッキー
GAST布袋班
パーキー(副班長)
弁慶
※布袋班の班長は、シルビアが兼任しています
教授……GASTタイガー班の班長
桂 蘭次郎……九州奪還作戦の最高司令
浪城 激……第一空挺団 第2普通科大隊長
柄垣 獅導……同 第3普通科大隊長




