第240話 取り残された気分
段場 隼人です。
GASTが九州へ向かい、半年がたった。今日から新年度(2022年4月)だ。新年度になり、負傷離脱していた35普連の2中隊の皆が戻ってきた。今日から、2中隊も訓練に参加できる。
鈴木太陽陸士長、矢戸聡士陸士長、曽我郁人陸士長、富貴彪雅三曹、家泉興図三曹、鮫島玲生三曹、善最大河二曹、日下部樹一等陸士…。益子一士はまだ謹慎中だ。
だいぶ人が減ってしまった。
異動や新人で数を補っても、連隊の質・量が落ちているのが、専らの評判だ。そんな状況で杏南や諏訪陸士長が異動している。今はとにかく、訓練を重ねて力を付けていくしかない。
僕は来年のレンジャー合格を目指して訓練を続けている。しかし現状は頭打ちだった。特級の基準を超える日もあれば届かない日もある。数字は伸びているはずなのに、確かな成長を実感できない。だから今年は受験を見送った。あの時の判断は間違っていなかったと思う。だが、それと不安が消えることは別問題だった。来年の今頃、自分は本当にレンジャーへ挑戦できる位置に立てているのだろうか。そんな考えが、訓練の合間に何度も頭をよぎっていた。
訓練場では、今年レンジャー教育を受ける隊員達の準備が進められていた。その中には同期の小城聖太の姿もある。
小城は元々体力が高く、射撃成績も安定していた。訓練に対する姿勢も真面目で、幹部からの評価も悪くない。その小城は、オペレーション・ミネルヴァで不思議な力が覚醒し、その時に負った怪我も早く回復し、一つ一つの能力が劇的に向上していた。少なくとも数字だけを見れば、レンジャー合格の可能性は高いと思う。
今年のレンジャーを辞退した判断に後悔はない。あの時点の自分では通用しないと思ったからだ。それでも同期が前へ進む姿を見ると、取り残されたような感覚を覚えることがあった。来年こそは受ける。そのために訓練を続けている。だが、本当に届くのかという不安だけは消えなかった。
「小城…」(隼人)
「ん?」(小城)
「レンジャー、頑張れよ」(隼人)
「ああ」(小城)
僕は小城に声をかけた。小城の表情に緊張は見えなかった。むしろ、これから始まるレンジャー教育を楽しみにしているようにさえ見えた。
小城はレンジャーへ進む。杏南は九州で戦っている。GASTも前線で戦果を重ねている。それに比べて自分は守山で訓練を繰り返している。必要なことだと理解している。理解しているのに、それでも、自分だけが取り残されているような感覚だけは消えなかった。
登場人物紹介
段場 隼人……本編の主人公。久しぶりの登場
小城 聖太……隼人の同期




