第239話 失われた名前
―門司区―
九州に上陸していた部隊が集まった。若松の陸軍基地を制圧した、ネイマン率いるリッチ班、教授率いるタイガー班、そして47普連1中隊の損耗が激しく、これ以上の進軍は不可能を判断した。一度、組織を再編する必要があった。
拠点の一角で、アイブルは集まってきた隊員達の顔を見回していた。ウェイドがいないことに気が付いた。
「ウェイドはどうしうた?」(アイブル)
ルッテンが静かに答えた。
「……死んだ」(ルッテン)
「ウェイドは上陸中に負傷した。だが後送できる状況じゃなかった。そのまま戦闘を続けて戦死した」(ルッテン)
「そっちこそ、ヒュームさんが…」(ルッテン)
「ヒュームは戦闘中に左腕を欠損。そのまま離脱した。戦線復帰は難しいだろう」(アイブル)
ルッテンは黙って頷いた。勝利の報告より先に、失った仲間の話ばかりが出てくる。それが今回の作戦の現実だった。
あたりに沈黙が広がる
「班長は集まれ、会議を行う。」(シルビア)
―臨時の会議室―
室内には各班の班長と、第47普通科連隊、特殊作戦群の指揮官達が集められていた。まず、最初に行われたのは戦況報告ではなく、損害確認だった。
「アイアン班、タハ班長はどうした?」(BJ)
質問を受けたガジがゆっくり顔を上げる。その表情を見た瞬間、何人かは察した。
「タハ班長ですが……」
ガジは一度言葉を切った。
「壇之浦で負傷後、医療班に救助されました」
室内は静まり返る。誰も口を挟まない。
「その後、病院へ搬送されましたが、死亡が確認されました」
沈黙が落ちた。タハは生死不明だった。だからこそ、どこかで助かっていると思いたかった者も多かった。しかし、その希望は消えた。北九州地図の脇には戦死者一覧が貼られていた。そこにタハの名が追加された。
「会議を続ける」(シルビア)
シルビアは壁に貼られた地図へ視線を向けた。
「まず現状を整理する」
北九州一帯を示す地図には、自衛隊の制圧地域と未制圧地域が記されていた。
「若松の陸軍基地、佐賀関の海軍基地は制圧。門司方面の敵戦力も大きく後退している」
教授が腕を組む。
「北九州の主導権はこちらに移った、と見ていいでしょう」
「概ねその認識で構わない」
シルビアは頷いた。
「ただし敵が消滅したわけではない」
そう言って鳥栖周辺を指差す。
「偵察情報によれば、生き残った帝国軍は鳥栖方面へ撤退を開始している。しかも潰走ではない。各部隊が一定の秩序を保ったまま後退している」
柄垣が口を開く。
「門司に現れた有翼種や、若松に現れたという狙撃手か。敵の後退は統制されていた。それが気になるな。」(柄垣)
「まだ我々が把握できたのは北九州と佐賀関近辺のみだ」(シルビア)
シルビアは地図の南側へ視線を移した。
「博多以南については依然として情報不足だ。敵がどれだけの戦力を保持しているのかも分かっていない」
教授が口を開く。
「博多に軍がいたら、再び本州に上陸される恐れがあります。博多を偵察すべきでしょう」
「敵は後退している。だが潰走しているのか、計画的に再編しているのか判断できない」(シルビア)
ネイマンが腕を組む。
「つまり、まず目が必要ってことですね」
「そういうことだ」(シルビア)
シルビアはネイマンを見る。
「リッチ班には先行偵察を任せたい。敵地深くへの潜入能力はリッチ班が最も高い」
「予想してた」
ネイマンは淡々と答えた。
「ただし無理はさせない」
シルビアは地図上の門司と壇之浦を指した。
「関西方面隊から増援を受け入れる。到着した部隊は北九州の警備、補給路の防衛、残敵掃討を担当する」
そして博多方面へ指を滑らせる。
「その間に我々は敵の実態を探る。次の戦いが博多になるのか、それとも別の場所になるのか、それすらまだ分かっていない」
会議室にいた者達は静かに頷いた。若松と佐賀関を制圧したことで橋頭堡は築かれた。しかし彼らが手にしたのは九州のごく一部に過ぎない。
登場人物紹介
シルビア……GAST中隊長
アイブル……GASTリッチ班の副班長
BJ……GASTピットブル班の班長
ガジ……GASTアイアン班の副班長
柄垣 獅導……第一空挺団第3普通科大隊長
教授……GASTタイガー班の班長
ネイマン……GASTリッチ班の班長
戦死したGAST隊員
ウェイド:本名:政堂 花鈴
生年月日:1995年12月10日 / 出身:岡山県
階級:三等陸曹 / 所属:GASTリッチ班
備考:九州上陸中に負傷。上陸後の戦闘で戦死
享年:26歳
タハ:本名:上下田 楽
生年月日:1983年9月29日 / 出身:福井県
階級:二等陸尉 / 所属:GASTアイアン班長
備考:敵狙撃手により狙撃され、搬送先の病院で死亡
享年:38歳




