第24話 反撃の狼煙
―陸上自衛隊座間基地 現テリムト参謀支部・座間基地 通信室―
ゾーリー・ゴア作戦参謀長は、各作戦の立案に追われていたが、それが一段落したところだ。大月の戦況を確認するべく、座間基地へ足を運んだ。
「状況は?」(ゴア)
座間基地の通信室へ入るや否や、開口一番に戦況を聞く。
「アスゲニフ少佐が敵指揮官を討ち取りました。」
ゴアは静かに頷く。
「十分だ。作戦を第2段階へ移す。」
「アイトンダ大佐。手筈通りに。」
『了解した。第3砲兵大隊、射撃準備。』
『…承知しました。』
「ジェア、聞こえるか? 作戦第2段階へ移行する。3大隊は、重火器をセットしておけ。」
『了解だ!』
※シムバッド・ジェア陸軍中佐、大月市攻略隊第3砲兵大隊長
『アスゲニフ少佐、応答せよ。』
ジェアに作戦の移行を伝えた後、アイトンダはアスゲニフに同様の指示を送る。
「こちら、アスゲニフ。大佐、どうされました?」
『そこにいる特殊作戦部隊は、敵補給路を断て。』
「まだ、全員屠ってませんが?」
『構わん。今のままでも次の作戦に支障はない。2大隊がそちらに着いた。いつでも奇襲できる。』
「…了解しました。」
この時アスゲニフは、部隊後方で戦っているイビレイタや、エイエスの支隊も巻き添えになる事を悟った。任務を全う出来なかった自業自得――そう割り切る事も出来た。だが、隊長として部下を見殺しにする命令を、平然と受け入れられるほど、彼女は冷酷ではなかった。
(まあ、エイエスは死んでくれていい。)
―自衛隊、山梨方面隊・後衛部隊 ―
「敵が退却します!」
「追いますか?」
「いや、追わなくていい。一度、状況を整理しよう。」
※多田 恵晤郎一等陸佐、第12高射特科隊長
「怪我人の手当と遺体の回収を行え。」
後衛の残っていた第12特科隊隊長の多田 恵晤郎一等陸佐、第13普通科連隊長・武石 哲也一等陸佐の2人は、戦死した門唐代わる、次席指揮官を決めるべく、意見を交わしていた。
「指揮継承順位に基づき、本来は桐谷一佐ですが、前衛で交戦中です。現状では多田一佐が最上位になります。」
「いや、ここは武石一佐が適任だ」
「私ですか?」
「ああ、ここは山岳地帯。13普連隊長である武石一佐が相応しい。山岳レンジャーの恐ろしさを見せてやるには、貴方以上の適任はいない」
「しかし…。」
武石には葛藤があった。彼は、2年前の道志山塊攻防戦に参戦していない。当時、13普連隊長だった、梶尾 稔一等陸佐の戦死を受け、その後任となった。梶尾は、門唐陸将補、桐谷一等陸佐、別当一等陸佐と共に、道志山塊攻防戦で指揮官として参戦し、勝利に貢献した1人であった。その偉大な前任者の後継として、自身では力不足だと感じていた。
(偉大なる前任者の影を、俺はまだ超えられていない。隊員たちも、俺を真の指揮官として認めてはいないだろう…。)
(いや…)
脳裏に梶尾の姿が浮かんだ――あの男ならどう動く?
……迷いなど見せないだろう
(そうだな…)
彼は決断した。
「…分かりました。奴らに山岳レンジャーの恐ろしさを見せてやります」
武石は、迷いを振り払うように決断した。この戦いで、前任者の影から脱却し、自分自身の指揮官としての道を示すしかない、と。
― 自衛隊、山梨方面隊・前衛部隊 ―
ここでは、大脇 和夫一等陸曹が、イルターニと対峙し、銃剣と軍刀で火花を散らす鍔迫り合いを繰り広げる。
「ぐ…。」(大脇)
(こいつ…できる。)(イルターニ)
「ココ! イルを援護しろ! 俺はあいつを仕留める!」
「了解!」
イルターニが苦戦していると知るや、イビレイタは、部下のココ・プリケリマ伍長に援護するよう命令する。イ-0対象者の大脇が、自分ではなくイルターニに向かっていったのは誤算だったが、プリケリマと挟撃すれば問題はないと判断した。
(来る…。)(津曲)
イビレイタの突撃に身構える津曲。
「大丈夫だ、津曲! 援護する!」
※嶋 要人三等陸曹、第31普通科連隊第1中隊所属
「1人で戦う必要はない! 俺たちがついてる!」
※天売 進士朗三等陸曹、同上
「はい!」
津曲が銃剣でイビレイタの突撃を受け止め、嶋が蹴りを入れる。イビレイタが津曲から離れた隙に、長谷川 春風陸士長が発砲した。
「痛ぇなちくしょう。」
長谷川の銃弾はイビレイタを捕えるが、ボディアーマーに阻まれる。
「味方への誤射だけは気をつけろ!」(大脇)
「了解!」(長谷川)
「うおおおおおお!」
※美村 丹三等陸曹、第31普通科連隊第1中隊所属
「死ねぇ!」
※江田 翠仙一等陸士、同上
イビレイタと対峙している隊員は6名。一人ひとりは大した事はないと感じている。しかし、1対6ともなると、流石に鬱陶しさを感じていた。
(クソが、まだイ-0を誰も殺してない。だが、イ-0以外の奴も面倒だ。ただの雑草だと侮っていた…。)(イビレイタ)
「うがぁっ」
森の奥から放たれた一発が、イルターニの肩口を貫いた。
「ぐっ……!」
軍刀が手から滑り落ちた。よろめいた隙を、大脇は逃さない。
「終わりだ!」
銃剣が喉元を突き抜けた。
「イル! クソが…。」
(撤退か? 撤退すべきなのか…。いや、撤退の命令は出ていない。ここで逃げたら、帝国兵の恥。例え死しても任務を遂行するのみ!)
命を賭しても、任務を遂行する――決死の覚悟でいるイビレイタだったが、まさか本当に死期が近づいているとは思ってもみなかった。
―2020年9月23日 6:20 大月市内―
「アイトンダ大佐殿、装填完了した!」
『…よし、打て!』
「打てー!!」
ジェアの号令により、帝国軍の重火器が火を噴く。
イルターニを撃破した大脇班だったが、その時、遠くから低い轟音が響いた。
「はっ!?」(美村)
「伏せろーー!」(美村)
「チクショウ!」(大脇)
「そんな…。」(プリケリマ)
「アイトンダ大佐、俺達を捨て駒にする気か!」(イビレイタ)
イビレイタの悲痛の叫びと共に、轟音と閃光が炸裂した。
前方から放たれた砲弾は、大地を抉り、木々を根こそぎ薙ぎ倒していく。これまで特殊作戦部隊との小競り合いに慣れていた自衛隊員たちは、その圧倒的な破壊力に、ただ身を伏せることしかできなかった。そして、後方でも、空から有翼種の部隊が砲撃。立て続けに爆発音が響く。その砲撃の合図で、帝国軍の第2歩兵大隊が後方部隊に襲いかかる。
「伏兵!?」
武石は、空からの砲撃と、後方から迫る敵の大軍に、一瞬、絶望を覚えた。しかし、彼はすぐにその感情を押し殺す。
(ここで俺が臆すれば、全滅だ。俺は、梶尾一佐のようには出来ないだろう。だが、俺には、俺のやり方で、こいつらを守る義務がある!)
「13普連、地形を活かして遮蔽に逃げろ! 爆風を逃がせ!」
帝国軍は、ついに切り札を切った。暗殺戦は終わりを告げる。ここから始まるのは、軍と軍が真正面から激突する総力戦だった。
登場人物紹介
武石 哲也
生年月日:1974年7月15日 / 出身:富山県
階級:一等陸佐 / 役職:13普連連隊長
備考:2年前の道志山塊攻防戦で殉職した前任者と自身との能力のギャップに苦しむ。
梶尾 稔
生年月日:1968年4月3日 / 出身:長野県
階級:一等陸佐 / 役職:前13普連連隊長
備考:故人。2年前の道志山塊攻防戦で振るった采配により、勝利することが出来たが戦死してしまう。
享年:50歳
※ストーリーに関する補足
神奈川方面部隊が、大月方面での戦闘を把握したのは、隊を二手に分ける際に報告はしていましたが、末端の隊員が把握したのが、6時台になってからでした。




