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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第24話 それぞれの思惑

若手隊員たちを中心に、暗殺者6体を討ち取った前進部隊。しかし、勝利の空気はどこにもなかった。討ち取った暗殺者のうち3体は、既に自衛隊員の姿に化けていた。それはつまり――3人の仲間が、既に殺されていたということだった。だが、その亡骸は見つからない。残されていたのは、血に濡れた3枚の認識票だけだった。


桐谷は静かに歩み寄り、その前に膝をつく。覆面越しでも分かるほど、表情は硬い。その奥には、静かな怒りが宿っていた。桐谷は認識票を一枚ずつ見つめる。


「……木原」


「……中村」


「……吉森」


短く名前を呼ぶ。そして、低い声で言った。


「お前たちの死は、無駄にはしない。」


「この作戦は必ず成功させる。そして――必ず、借りは返す。」


その声は怒鳴り声ではない。だが、張り詰めた夜の空気に鋭く突き刺さった。



一方、後退する部隊でも、戦闘が始まっていた。


「敵発見! 1体!」


麻生が即座に指示を飛ばす。


「撃て!」


銃声が山中に響いた。数秒の銃撃、そして悲鳴。


「ぐあっ!」


敵は倒れた。麻生教之(あそう のりゆき)三等陸尉は周囲を見回す。


「討伐完了。だが油断するな。この近辺に、あと2体は潜んでいる可能性が高い。」


その時、後方の若い隊員が声を掛けた。


「……麻生三尉。なぜ、一体だと分かったんですか?」




平野亮平(ひらの りょうへい)二等陸士。まだ実戦経験の浅い新人だった。麻生はわずかに振り返る。


「足跡、枝の折れ方、呼吸の音、匂い、そして気配。全部合わせれば、大体の数は分かる。」


淡々と答える。


「経験だ。」


お前たちも、そのうち分かるようになる。」


若い隊員たちは息を呑んだ。それは訓練ではなく、戦場で積み重ねた経験だった。


「敵1体を発見!」


「戦闘開始!」(麻生)


「うわぁ!」


「討伐完了。」(相木康広(あいき やすひろ)陸士長)


「よくやったぞ、相木。見事だ。」(麻生)


「ありがとうございます。ですが、情報ではあと1体いるはずです。まだ油断は出来ません。」


「その通りだ。上条、怪我の状態は?」(麻生)


「……若手がこれだけやれてるのに。」


上条直武(かみじょう なおたけ)二等陸曹が苦笑する。


「中堅の俺がこのザマじゃ、情けないな。」


麻生は即座に言った。


「馬鹿言うな。お前は俺の相棒だ。」


麻生は上条の肩を叩く。


「若手には勢いがある。だが、経験はない。その経験を持ってるのが、お前だ。」


麻生は真っ直ぐ上条を見る。


「この作戦で一番頼りにしてるのはお前だ。だから弱気になるな。」


上条は小さく息を吐いた。


「……了解です。」



「敵もう1体発見、五十嵐曹長の班が交戦中!」


無線からは、新たな敵兵の発見と、別部隊が戦闘開始したという報告が入る。


「やれやれ、休ませてくれないな。」(麻生)


「上条、お前は無理するな、と言いたいところだが、敵がどこに潜んでいるか分からない以上、無理をしてもらう。」(麻生)


「了解です。大丈夫ですよ。」(上条)


上条は己を奮い立たせ、立ち上がって麻生の後を追った。




一方、思い通りに暗殺任務をこなせない帝国軍特殊作戦部隊では、混乱が広がっていた。


「どうなっている? パージの支隊と連絡が取れない。アウスト少尉の班ともだ!」(ガロウ・イビレイタ少尉)


「敵に作戦を見破られているみたいだ…。誰かヘマしたか?」(イビレイタ)


「…」(エイエス)


「少尉殿…。」(リオーザ・リボー軍曹)


何かを言いたそうなリボーに気付いたイビレイタ。何かを察した様子。


「エイエス、お前何か心当たりあるのか?」(イビレイタ)


「……」(エイエス)


リボーが口を開く。


「少尉殿、報告します。」(リボー)


「我々の班が敵斥候3匹を発見しました。しかし――1匹取り逃がしました。」(リボー)


その瞬間、空気が凍る。イビレイタの目が鋭くなる。


「……貴様。」(イビレイタ)


エイエスを睨みつけた。


「なぜ、それをすぐ報告しなかった!」(イビレイタ)


エイエスは顔を歪める。


「たかが1匹だ。問題ないと思っただけだ。」(エイエス)


「問題ないだと?」(イビレイタ)


イビレイタの声が低くなる。


「その1匹のせいで、作戦が見破られた可能性があるんだぞ!」(イビレイタ)


「少尉殿、落ち着いて下さい。」(イル・イルターニ軍曹)


怒りを隠せないイビレイタを宥めるイルターニ。


「この件は、部隊長殿に報告させてもらう。」(イビレイタ)


「…。くそっ。」(エイエス)


ビレイタは無線を取り、部隊長へ報告を送った。




「…という事ですが、いかがなさいますか?」(ラランワ・アスゲニフ少佐:テリムト特殊作戦部隊部隊長)


イビレイタからの報告を受けた、部隊長のアスゲニフから、指揮官のアイトンダにこの報告が入る。アイトンダは、慌てる様子はなく、冷静に状況確認を行った。


「各支隊の状況はどうなっておる?」(アイトンダ)


「現在、敵の前方部隊の方には、エイエスとイビレイタの支隊が残っています。後方の部隊には、私の支隊と他は…。」(アスゲニフ)


「作戦の本筋は変えない。だが、敵後方へは第2大隊を援軍に出す。気付かれないよう、接近させ敵側面を取らせろ。」(アイトンダ)


アイトンダは、すぐさま後方部隊への大規模な増援を決定した。これは、暗殺戦から本格的な戦闘へのエスカレーションを意味する。


「敵前方への作戦は変えなくていい。ただし、エイエスは戻せ。あの班は、リボーとシャプライでやれ。以上だ。第2大隊には俺が伝えておく。お前は特部隊に伝えろ。」(アイトンダ)


「了解しました。」(アスゲニフ)



アイトンダからの指示を部下へ伝えるアスゲニフ。


「…というわけだ。我々は作戦の継続だ。」(アスゲニフ)


「おい、ふざけるな! 俺は残るぞ。俺のミスだというなら俺が取り返す!」(エイエス)


「おい、貴様、上官の命令に逆らうのか?」(アスゲニフ)


「だから何だと言うんだ? 俺以上に暗殺の腕がある奴がいるってのか?」(エイエス)


「(イラっ)」

「(自惚れやがって…)」


エイエスは、自身のミスを自覚していたが、彼が自衛隊を下等生物と見下し、作戦遂行に支障はないと判断していた。エイエスは怒っていた。自身のミスに、そして、自分より劣っていると常日頃から思っていた、イビレイタに叱責されているのを我慢出来なかった。


エイエスの横暴な態度に、苛立ちを見せる特殊作戦部隊の隊員達。部隊の中に亀裂が走った瞬間でもあった。


「おい、エイエス!上官の命令に逆らうのか!命令違反は死罪だぞ?」(イビレイタ)


エイエスは、イビレイタを睨みつけた。


「…うるせぇな。俺の信条は、結果が全てだ。俺がここで結果を出せば、少佐だって文句は言わねえだろ!」(エイエス)


「(結果云々ではなく、下がれと命令が下ってるのだが、冷静さを失っておるな。)」(アスゲニフ)


イビレイタや他の隊員たちからは、侮蔑と怒りの視線が向けられる。彼らにとって、エイエスの振る舞いは許し難いものだった。しかし、それは同時に、彼らが「力こそが正義」という軍の思想を共有している証拠でもあるのだが。 


「少尉殿、ここは命令に従って…。」(アノ・シャプライ軍曹)


「うるせぇ、俺に指図するんじゃねぇ!」(エイエス)


激高したエイエスは、シャプライを殴りつけた。イビレイタにも殴りかかろうとした瞬間、イルターニが素早くエイエスを組み伏せる。


「うぐ…、貴様…。」(エイエス)


「申し訳ありません。少尉殿。」(イルターニ)


「助かったぞ、イル。」(イビレイタ)


「いえ…。しかし、エイエス少尉殿には困ったものです…。」(イルターニ)


「隊長、こいつはどうしますか?」(イビレイタ)


イビレイタは直属の上官であるアスゲニフに判断を仰いだ。


「捨て置け。命令を無視する無能に構う時間はない。それよりも、作戦を続行するぞ。」(アスゲニフ)


アスゲニフは、気を失いその場に横たわるエイエスを、ゴミを見るような目で見つめ、そう語る。


「了解しました。おい、行くぞ。」(イビレイタ)


「了解しました。」(イルターニ)


その時、一人の隊員から無線が入る。


「部隊長、アイフ曹長の支隊が、敵の要人を一匹仕留めたようです。」(セルチュク・ガー軍曹)


アスゲニフの顔に、それまで張り詰めていた緊張が緩み、不敵な笑みが浮かんだ。



一方、指揮官・門唐のもとへ、血相を変えた通信士が駆け込んできた。


「門唐陸将補!」


「五十嵐曹長との通信が途絶しました!」


門唐が振り向く。


「何だと?」


通信士は息を荒げながら続ける。


「直前の音声に……」


「激しい金属音と――」


「叫び声が混じっていました。」


その場の空気が凍りつく。門唐の顔が険しくなる。


「五十嵐がやられた……?」


近接戦闘のスペシャリスト。その男が。門唐は即座に命令を飛ばす。


「各班、再警戒! 敵の本命は、まだ潜んでいる!」


門唐の背中に、嫌な汗が流れる。暗殺者を炙り出したはずの自分たちが、いつの間にか別の「刺客」の射程圏内に入っていたのではないか。その予感は、すぐに現実のものとなる。




「…ほう。これで、流れは変わるかもしれんな。敵の指揮官は私が殺ろう。上空部隊や2大隊が待ちくたびれておる。」(アスゲニフ)


アスゲニフはニヤリと笑う。彼女の頭の中では、すでに新たな勝利への道筋が描かれていた。暗殺による陽動作戦は終わり、これより本格的な殲滅戦が始まろうとしていた。

登場人物紹介

麻生あそう 教之のりゆき

生年月日:1987年6月17日 / 出身:静岡県

階級:三等陸尉 / 所属:13普連1中隊

備考:2年前の道志山塊攻防戦で戦果を挙げた隊員。


平野ひらの 亮平りょうへい

生年月日:1999年3月26日 / 出身:群馬県

階級:二等陸士の新人隊員 / 所属:31普連3中隊所属


相木あいき 康広やすひろ

生年月日:1999年9月10日 / 出身:長野県

階級:陸士長 / 所属:13普連1中隊

備考:13普連の成長株


上条かみじょう 直武なおたけ

生年月日:1990年4月2日 / 出身:長野県

階級:二等陸曹 / 所属:13普連1中隊

備考:若手の成長に焦りを感じている。


ガロウ・イビレイタ

種族・性別:狼型獣人族の男性

所属・階級:陸軍少尉、特殊作戦部隊の支隊長の1人


イル・イルターニ

種族・性別:狼型獣人族の男性

所属・階級:陸軍軍曹、特殊作戦部隊で、イビレイタの支隊に所属。


リオーザ・リボー

種族・性別:エルフ族の男性

所属・階級:陸軍軍曹、特殊作戦部隊で、エイエスの支隊に所属。


ラランワ・アスゲニフ

種族・性別:ハイエルフの女性

所属・階級:陸軍少佐、テリムト特殊作戦部隊の部隊長。


アノ・シャプライ

種族・性別:エルフ族の女性

所属・階級:陸軍軍曹で、エイエスの支隊に所属。


セルチュク・ガー

種族・性別:ハーフエルフの男性

所属・階級:陸軍軍曹、特殊作戦部隊でアスゲニフの支隊に所属。


桐谷きりたに 法征のりと……12偵の大隊長

中村なかむら 未来斗みきと……前話で帝国特殊作戦部隊により、暗殺されていた隊員。

アルファー・エイエス……帝国特殊作戦部隊支隊長の1人。我が強い。

ペーリ・アイトンダ……帝国軍の大月攻略隊の野戦指揮官。

パージ・イブラ……帝国特殊作戦群支隊長の1人。前話で赤松に仕留められていた。

ノーマン・アウスト……帝国特殊作戦部隊支隊長の1人。前話で、村西班に仕留められていた。



※エイエスとイビレイタは、同じ少尉という階級ですが、軍学校の幹部候補生コースを卒業しているイビレイタとは対照的に、エイエスは一般応募で二等兵から少尉まで上り詰めた叩き上げの兵士です。エイエスは、任務をこなす過程で、軍学校の幹部候補生のエリート然とした態度が気に入らず、同じ時期に特殊作戦部隊の試験を受けた、軍学校幹部候補生コース卒のイビレイタをライバル視していました。


特殊作戦部隊での働きぶりは、連携を重視して動くイビレイタとは対照的に、エイエスは個で敵を仕留めることにステータスを感じているため、個として討伐数が自分より少ないイビレイタを格下と認識していました。また、数えて8階級昇進している自身と、軍学校を卒業後、少尉のままのイビレイタを比較して、自身の方が優れていると感じていたようです。イビレイタはイビレイタで、普段から敵意剥き出しで突っかかってくるエイエスを疎ましく感じており、今作戦での衝突は、普段のうっ憤も爆発してしまったのかもしれませんね。

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