第232話 足手まとい
『敵司令部区画に動きあり』(モンソン)
無線の向こうでキーボードを叩く音が聞こえた。
『代理司令官らしき女性将校を確認。基地機能の一部を維持してる』(モンソン)
天使族の女性将校。ネイマン班長の言った通り、立て直しにかかっている。
「逃げてないね」(チェール)
『むしろ立て直そうとしてる』(モンソン)
数秒の沈黙。そして無線の向こうからネイマン班長の声が聞こえた。
『なら、そこが最後だ。E地点に合流し、叩きに行く』(ネイマン)
炎に照らされた若松基地を見つめながら、私、マッキーは静かに息を吐いた。
「琴子濵一尉と崔一曹は、子津を探しに、他はE地点へ向かう」(チェール)
「了解!」
私は子津将吾といいます。現在、マッキー班と逸れてしまい、目下、敵に囲まれています。敵の銃弾を何とか躱しながら、逸れた仲間を探していますが、こう敵に囲まれては、地図で弾薬庫を調べる余裕はありません。
タタタタン! タタタタン!
敵の銃弾が止まりません。私もタイミングを見て発砲しますが、当てることが出来ません。自分でも冷静さを欠いているのが分かります。手が震えて焦点が定まりません。
「(落ち着け、落ち着け…訓練を思い出せ)」(子津)
そう自分に言い聞かせますが、震えが止まりません。敵地で囲まれては、逃れることは難しい。死ぬのも時間の問題かな…最期まで足手まといだった。
そう思った時でした。突然心臓が熱くなったかと思えば、その後、ぐっすり寝た後のような爽快感が襲ってきました。そして――
「(震えが止まった。今なら)」(子津)
私は正面の敵に焦点を合わせ、発砲。すると、さっきまでが嘘のように、当たりだしたのです。
「当たった! この調子なら…」(子津)
タタタタン! タタタタン!
「あの下等生物、急に当たりだしたぞ」
「何故だ、さっきまで震えていたのに…」
まるでGASTの隊員のようです。身体が軽い、弾が当たる…。
敵が動揺しているのも分かりました。今なら、ここの敵兵を殲滅できそうな気もしてきました。ですが、スピード重視のこの作戦で、そんな事をしている余裕はありません。
「とにかく、ここからは脱出できそうだ。急いで、マッキーさん達を探さないと」(子津)
私は速足で駆けます。
「子津!」(崔)
「崔一曹! 琴子濵隊長!」(子津)
思いのほか、早く仲間と合流出来ました。
「無事でよかった」(琴子濵)
「申し訳ありませんでした」(子津)
「気にするな。戦場だ、想定外の事が起きて当たり前なんだ」(琴子濵)
「一尉、急ぎGASTと合流しましょう。」(崔)
「私に任せて下さい。この失敗を挽回します。」(子津)
「どうした? えらい自信じゃないか」(崔)
「身体が軽いんです。さっきまで見えていなかったものまで見える気がする。もう皆さんの足手まといにはなりません」(子津)
「凄い自信だな……」(崔)
「…」(琴子濵)
子津に何が起きたのか、琴小濱には思い当たる節があった。だが、子津の様子を見て危惧していた。「過信していないか?」と…。GASTですら命を落とすこの戦場で、己を過信することは死に繋がる。
「油断するなよ、子津」(琴子濵)
「任せてください。今なら戦えます」(子津)
マッキー班は急ぎ、E地点へ向かった。向かう途中、ネイマン班長と行動していた大垣優陸士長の遺体があった。やはり、犠牲は避けられない。それでも、マッキーはネイマン班長を責めるつもりはない。誰がいつ死ぬのが分からないのが戦場だからだ。
「班長!」(マッキー)
E地点に到着した。ネイマン班とルッテン班は、既に到着していた。しかし、全員が揃ったわけではなかった。ルッテン班は、大垣陸士長のほか、安斉大夢三曹の姿もない。
「班長、安斉三曹は…」(マッキー)
ネイマン班長は、無言で首を横に振った。
「うちも、ここに来る途中、御手洗陸士長が殉職した。狙撃手にこめかみを撃ち抜かれた。てっぱちなんて関係なしだ…」(ルッテン)
「マッキー、47普連組は…」(教授)
「琴子濵一尉と崔一曹は、逸れた子津二士を探しに行きました。無事、合流して、こちらに向かっています。」(マッキー)
「そうか。無事だったか。それは良かった」(教授)
「だが、彼らが来るのを待っている時間はない。彼らには先に進むと伝えておこう」(教授)
私達は、司令官代理の天使族を仕留めに、先へ進みます。
琴小濱達がE地点へ向かう途中、基地中央部は既に大混乱となっていた。
燃え続ける弾薬庫、崩壊した通信施設、各所から上がる黒煙。基地は確実に崩れ始めていた。
「急げ!」(崔)
その時だった。
タタタタン――
側面建物から機関銃弾が降り注ぐ。
「伏せろ!」(琴小濱)
全員が咄嗟に身を伏せる。だが一人だけ遅れた。崔だった。敵機関銃が完全に崔を捉えている。次の瞬間、子津が飛び出した。
「崔一曹!」
タタタタン!
銃声が響く。
子津の身体が大きく揺れた。それでも彼は倒れながら発砲した。
タタタタン!
敵機関銃手が崩れ落ちる。
「子津!」(崔)
駆け寄った時には遅かった。胸部へ数発被弾していた。
「なんで飛び出した!」(崔)
崔が叫ぶ。子津は苦笑した。
「だって……先輩、撃たれそうでしたから……」
呼吸が苦しい。それでもどこか満足そうだった。
「足手まといじゃ……なかったですよね?」(子津)
崔は答えられなかった。琴小濱が静かに頷く。
「立派だった」(琴子濵)
その言葉を聞いて、子津将吾は小さく笑った。そして二度と目を開かなかった。
登場人物紹介
安斉 大夢
生年月日:1997年10月13日 / 出身:岐阜県
階級:三等陸曹 / 所属:47普連1中隊
備考:通信施設へ侵入する直前に戦死
享年:24歳
大垣 優
生年月日:1999年11月3日 / 出身:愛媛県
階級:陸士長 / 所属:47普連1中隊
備考:爆破した壁を突破する際に銃弾に倒れる
享年:22歳
御手洗 天傑
生年月日:2000年4月22日 / 出身:広島県
備考:E地点へ到達する前に戦死
享年:21歳
子津 将吾……47普連1中隊所属の新人、崔を庇って戦死。享年19歳
チェール……GASTタイガー班の副班長
マッキー……GASTリッチ班所属
ネイマン……GASTリッチ班の班長
ルッテン……GASTリッチ班所属
モンソン……GASTファルコン班所属のホワイトハッカー
琴小濱 大成……47普連1中隊の中隊長代理
崔 勇太……47普連1中隊所属
※子津将吾の葛藤
子津は、生き残った隊員の中で、唯一の新人隊員で、これが初陣でした。その状態で、苛烈な九州奪還作戦に参戦。同じ連隊の仲間が次々と死んでいく中、自分が足手まといになっていることを痛感していました。(もちろん、死の恐怖もあります)
謎の力が覚醒した時、子津はこれまで迷惑をかけた分を挽回できると喜び、そして力になろうと決意を新たにします。しかし、戦場とは残酷な場所。「その力=生き残る」わけではありません。
ちなみに、子津を訓練で一番叱っていたのは、崔でした。子津にとっては崔は怖い先輩で、話しかけるのも緊張してしまう関係です。そんな先輩のですが、最期に命を救った事で、彼は満足して逝きました。




