第231話 三方向攻撃
「この作戦は、3手に分けて行う。戦力の分散は得策ではないが、時間をかけると敵は立て直す。時間との闘いだ。同時に攻める」(教授)
「少数で動いて大丈夫でしょうか?」(子津 将吾:二等陸士)
新人隊員が不安そうに尋ねた。
「大丈夫だ。少数精鋭の方が生存率は高い」(ネイマン)
「は、はぁ…」(子津)
新人は納得したような、していないような返事をする。
「(ホントかよ…)」(琴小濱 大成:一等陸尉)
琴小濱中隊長代理も呆れているではないか。
「(それは、班長だけ…)」(ルッテン)
「(また適当な事を言って……)」(マッキー)
ネイマン班長は、自分を基準に物を考える癖がある。敵基地へ単独潜入して司令官を暗殺して帰って来る人なので、一般的な生存率の話はあまり参考にならない。
「優先順位をつけるなら、通信の破壊だろ? なら、俺が行こう。ルッテン、マッキー、俺達は基地内部を把握しているから、3手に分かれよう。」(ネイマン)
けれど、ネイマン班長は適当な事を言っているようで、不思議と結果だけは出す。だから誰も反論しない。
「了解。」(ルッテン、マッキー)
「(班長とは離れて行動か。緊張するな…)」(マッキー)
いけない、弱気になるな。私だって班長の側で技術を盗んできた。大丈夫、自分を信じろ。「少数精鋭の方が生存率は高い」んでしょ? 班長!
「隊を編成する…」(教授)
教授は地図上へ3本の線を引いた。
一本は通信施設、一本は非常電源設備、そして最後の一本が弾薬集積所だった。
「ネイマン班長は通信施設。ルッテン班は非常電源。マッキー班が弾薬集積所だ。僕は、ルッテン班に入る。琴小濱一尉、マッキー班の指揮を頼みます。」(教授)
私・マッキーは、チェール、ティムール、ギラード、琴小濱一尉、崔勇太一曹、子津二士の7人で、弾薬集積所を潰すことになった。
私は地図を覗き込む。この基地は思った以上に広い。正面から攻めるなら、とても十数人で攻略できる場所ではなかった。だからこそ、今回は正面から戦わない。
「では出発する」(教授)
隊員達が立ち上がる。私は弾倉を確認した。
残弾良し、爆薬良し、無線良し、問題ない。その時だった。
「マッキー」(ネイマン)
振り返る。ネイマン班長が壁にもたれながら立っていた。
「はい」(マッキー)
「死ぬなよ」(ネイマン)
それだけだった。励ましでもなく、気休めでもない。事実確認みたいな口調だった。けれど私は少しだけ笑った。
「班長こそ」(マッキー)
「俺は死なん」(ネイマン)
即答だった。
「……そういう所ですよ」(マッキー)
「そうか?」(ネイマン)
「そうです」(マッキー)
周囲から小さな笑いが漏れる。緊張が少しだけ和らいだ。生き残る根拠はない。だが、ネイマン班長が言うと本当にそう思えてしまう。だから困る。
そして――3つの部隊が、それぞれ別方向へ動き出す。
基地周辺にはあっという間に着いた。基地周辺には放棄された工場群が広がっていた。隠密行動には好都合だが、防衛側から見れば死角の塊だ。なぜ敵がこの環境を放置したのか、私には分からない。周辺に敵は多い。1個大隊以上の敵兵がいる。だが、今は相手にはしない。
「とは言っても、この人数を躱せるのか?」(琴小濱)
「戦わないと無理だぞ?」(崔)
「でも、戦ったら…」(子津)
「弱気になるな。」(ティムール)
「策はあるのか?」(琴小濱)
その時だった。
ドオォン!
基地を囲う壁の一部が爆発した。
「何事だ!?」
敵兵の注意が逸れる。更に――
ドオォン!
もう一か所でも爆音が響いた。
「穴が開いた! 進むぞ!」(チェール)
「罠じゃないのか?」(崔)
「あれは、ネイマン班長と教授が開けた穴だ!」(チェール)
「なら安心か……いや、安心して良いのか?」(琴小濱)
「多分駄目です。」(ギラード)
「どっちなんだよ!」(崔)
「でも、進むしかない!」(ギラード)
決して安全とは言えない。ただ、ネイマン班長の事。周りの敵を掃討して、道を作っているはずだ。
『こちらファルコン02。監視網の一部を乗っ取った』
無線から不機嫌そうな声が聞こえる。モンソンだった。
『西側監視塔の映像をループさせてる。5分以内に通過しろ』(モンソン)
「相変わらず愛想が無いな」(チェール)
『うるさい。仕事中だ』(モンソン)
爆発によって生まれた混乱は長く続かない。敵が立て直す前に目的地へ到達しなければならなかった。
「敵襲!」
敵も当然、私達に気付く。
「戦闘は控え、進ことを優先しろ!」(チェール)
タタタタン! タタタタン!
敵銃弾が飛び交う中、私達は、ただひたすら進んだ。
「子津と逸れてしまった。」(崔)
崔一曹が、焦った表情で伝えた。
「悪いが、探しに行く暇はない。まずは、作戦の遂行だ。」(チェール)
「分かっている。だが、爆破が成功したら、奴を探しに行かせてくれ。可愛い後輩なんだ」(崔)
「崔、気持ちは分かるが……」(琴小濱)
そう言う琴小濱一尉だったが、子津を心配する気持ちは彼も同じ。崔一曹の肩に置いた手が震えているのを見逃さなかった。
「琴子濵一尉、崔一曹、爆破後になら探しに行ってください。それまでは、彼を信じましょう」(チェール)
「…ありがとう。」(琴子濵)
弾薬集積所は基地北側の倉庫群だった。幸い、警備兵の多くは先ほどの爆発へ引き寄せられている。私達はコンテナの陰を移動しながら目標へ接近した。
「爆薬設置開始」(チェール)
「了解」(ティムール)
崔一曹と琴小濱一尉が周囲を警戒する。私もライフルを構えながら入口を見張った。
その時だった。無線が鳴る。
『こちらネイマン。通信施設制圧完了』
全員が顔を上げる。続いて別の声。
『教授だ。非常電源設備を確保した。そっちはどうだ?』
「今から終わらせます」(チェール)
チェールさんが起爆装置を握る。私達は全力で離脱を始めた。
数秒後――
ドォォォォン!!
夜空を揺らす轟音と共に、巨大な火柱が若松基地中央部から立ち上った。最初の爆発だけでは終わらない。倉庫群に積み上げられていた砲弾や弾薬が次々と誘爆を始める。爆炎が連鎖し、基地全体が震えた。若松基地の夜空が赤く染まる。もはや隠密作戦ではなかった。誰の目にも分かる。基地そのものが崩壊し始めていた。
『命中だな』(ネイマン)
『監視システムが復旧し始めた。あと2分だ、急げ』(モンソン)
モンソンから無線が届いた。
「敵に気付かれる前に離れましょう」(マッキー)
私は燃え上がる火柱を見上げる。通信は潰された。非常電源も失われた。それでも基地そのものは残る。だが、弾薬庫が吹き飛んだことで防衛能力そのものが失われた。
登場人物紹介
琴小濱 大成
生年月日:1983年2月25日 / 出身:広島県
階級:一等陸尉 / 所属:47普連1中隊の中隊長代理
備考:中隊長は戦死した
崔 勇太
生年月日:1988年3月12日 / 出身:京都府
階級:一等陸曹 / 所属:47普連1中隊
子津 将吾
生年月日:2002年6月27日 / 出身:島根県
階級:二等陸士 / 所属:47普連1中隊
ネイマン……GASTリッチ班の班長、優秀な斥候であり、暗殺者
マッキー……GASTリッチ班所属で、ネイマンの技術を盗むべく、日々奮闘中
ルッテン……GASTリッチ班所属
教授……GASTタイガー班の班長、作戦立案には定評あり
チェール……GASTタイガー班の副班長
ティムール……GASTタイガー班所属
ギラード……GASTタイガー班所属
モンソン……GASTファルコン班所属、優秀なホワイトハッカー




