第230話 攻略計画
――若松市某所・廃工場――
人気の無くなった工業地帯の一角。かつて機械の稼働音で満ちていた工場は、今では窓ガラスの多くが割れ、鉄骨には錆が浮いていた。その工場内部で、数名の隊員達が地図を広げている。
GASTタイガー班だった。
「来ました」(ギラード)
入口側を警戒していたギラードが小さく呟く。次の瞬間、暗闇の奥から3人の人影が現れた。GASTリッチ班だ。3人とも埃と血で汚れていたが、大きな負傷は見当たらない。
「生きてたんですね」(チェール)
「勝手に殺さなないでくれ」(ネイマン)
「班長、死にそうなことばっかりしてますからね~」(マッキー)
「むしろ、よく3人とも戻って来られたな」(フランキー)
「俺もそう思う」(ルッテン)
疲れ切った顔で答える。教授は椅子へ座ったまま視線を向けた。
「それで、無線で言ってた事ですが…」(教授)
ネイマンは近くの机へ鹵獲した地図を広げた。
「ああ、司令官は殺した。」(ネイマン)
空気が一瞬止まる。
「……本当に?」(チェール)
「本当だ」(ネイマン)
「司令部へ潜入したら、たまたま会議中だった」(ネイマン)
「たまたま?」(フランキー)
「たまたまだ」(ネイマン)
教授が額を押さえた。
「貴方って人は本当に……運だけで生きてますね」(教授)
「否定できませんね」(マッキー)
「毎回そうですから」(ルッテン)
ネイマンは気にした様子もなく続ける。
「司令官の名前は知らん。隙だらけだったので、背後から喉を切り裂いた。」(ネイマン)
「そのあとに、部屋にいた士官連中も始末した。」(ネイマン)
沈黙。
「……そんなことして生きて帰ってきたと?」(カン)
「帰って来た」(ネイマン)
「奇跡ですね」(ギラード)
「違うな」(教授)
全員の視線が集まる。
「奇跡は1回だ。でも、ネイマン班長の場合、それが何度もある。それは、もう病気だ」(教授)
工場内に小さな笑いが起きた。だが教授はすぐ真顔へ戻る。
「で、その後は?」(教授)
「副官らしい女性将校が生き残った。天使族だ。司令官が死んだ直後に指揮権を引き継いでいた。名前は知らん。」(ネイマン)
「有能?」(教授)
「少なくともパニックにはなっていない。基地封鎖と通信網再構築を指示していた」(ネイマン)
教授は地図へ視線を落とした。
「なるほど。有能ですね。敵も立て直しに入ったか」(教授)
「ああ」(ネイマン)
「司令官を失った軍隊は2種類に分かれる。崩壊する軍隊と、代わりが出てくる軍隊です。今回は後者らしい」(教授)
チェールが頷く。
「副官が即座に指揮を継承したなら、最低限の統制は維持されていますね」(チェール)
「そう。だから時間を与えてはいけない」(教授)
教授は基地中央部へペン先を置いた。
「敵は今、混乱している。しかし3時間もあれば落ち着くでしょう。6時間後には再編が終わる。24時間経てば、防衛線が完成するでしょう」(教授)
フランキーが眉をひそめる。
「つまり今が一番脆いってことか」(フランキー)
「そういうことだ」(教授)
教授は若松基地の地図へ赤鉛筆を走らせた。
「司令官を殺したのは良い仕事でした。ですが、それだけでは基地は落ちません。代わりの指揮官が現れるだけです」(教授)
ネイマンは静かに頷いた。
「だから次は基地そのものを殺します」
教授は地図上の3箇所へ印を付ける。
「第一目標、通信施設」
「第二目標、非常電源設備」
「第三目標、弾薬集積所」
カンが地図を覗き込む。
「全部潰せば?」(カン)
「潰れる」(教授)
教授は即答した。
「通信を失えば指揮系統が死ぬ。非常電源を失えば基地機能が止まる。弾薬を失えば反撃能力が消える」(教授)
チェールが小さく笑った。
「つまり基地を落とすんじゃなくて、基地が勝手に死ぬ状態を作るんですね」(チェール)
「その通り」(教授)
教授は赤鉛筆を置く。
「敵の指揮官は優秀だろう。だからこそ、正面からは勝てない。なら、戦わせなければいい」(教授)
「明日の朝には、若松基地は司令部として機能しなくなる」(教授)
工場内が静まり返る。ルッテンが嫌そうな顔をした。
「やっぱりろくな作戦じゃない」
「褒め言葉として受け取っておくよ」(教授)
登場人物紹介
チェール……GASTタイガー班の副班長
ギラード……GASTタイガー班所属
フランキー……GASTタイガー班所属
カン……GASTタイガー班
ネイマン……GASTリッチ班の班長
マッキー……GASTリッチ班所属
ルッテン……GASTリッチ班所属




