第229話 代理司令官
――若松陸軍基地・地下通信指令室――
「こっちだ!」(フォンボス)
フォンボスはエウクリッズを引き連れ、地下区画へ飛び込んだ。背後では未だ銃声が続いている。誰が撃っているのかも分からない。敵なのか、味方なのか…。それほど司令部は混乱していた。
厚い防爆扉が閉鎖される。
ガンッ――
重い金属音が地下通路へ響いた。フォンボスはようやく息を吐く。だが安堵する暇は無かった。
「各部隊との通信は!」(フォンボス)
「現在確認中です!」(セルジ・ゴーン陸軍伍長)
※第13電子戦大隊・第1小隊所属
「第16機械化歩兵連隊は?」(フォンボス)
「指揮系統が確認されているのは、2小隊のみです。」
「第41市街地警戒連隊は?」(エウクリッズ)
「現在、交戦中です。」(ゴーン)
「第40市街地警戒連隊とコンタクトは取れるか?」(エウクリッズ)
「連絡が途絶えています!」(ゴーン)
報告を聞くたびに顔色が悪くなる。想像以上に被害が大きい。
ヒアカッペ、ヤバタノボシ、メンケント、ラキトゥス
指揮官クラスの4名が一気に失われた。もはや誰が生きているのかすら把握出来ない。
「フォンボス大佐殿、一体何が…」(オリィ・カペラー陸軍少佐)
※第13電子戦大隊長
誰も続きを言わない。言う必要が無かった。この情報だけが共有されていた。
ガストン・ヒアカッペ准将は討たれた。
フォンボスはゆっくり息を吸う。そして決断した。
「第8北九州統治軍司令官、ガストン・ヒアカッペ准将は戦死した。戦時指揮継承規定に基づき、本時刻をもって私、ステッラ・フォンボス大佐が代理司令官を引き継ぐ」(フォンボス)
誰も異論を唱えなかった。唱える余裕がなかった。司令官は殺され、司令部内部へ敵特殊部隊が侵入している。今必要なのは議論ではなく指揮だった。
「まず司令部の安全確保を行う」(フォンボス)
「全館封鎖。出入口を閉鎖しろ」(フォンボス)
「通信兵、全警備部隊へ非常警戒を発令。敵はまだ基地内にいる」(フォンボス)
その言葉に全員が緊張する。フォンボス自身もそう考えていた。あの暗殺者達は。まだどこかでこちらを見ている。
「敵の狙いは司令部だけではない」(フォンボス)
室内が静まり返る。フォンボスは戦況図へ歩み寄った。
赤い光点が各地で点滅している。
小倉南区、門司区、若松区、市街地各所。
戦況図は、まるで出血する傷口のようだった。
「敵は我々の指揮系統を切断した。しかし、それだけで終わるなら司令官暗殺など不要だ」(フォンボス)
フォンボスは戦況図の一点を指差した。若松陸軍基地。
「次はここへ来る」(フォンボス)
誰かが息を呑んだ。
「司令部を襲撃した特殊部隊は囮だ。本命は基地機能そのものの破壊だろう」(フォンボス)
エウクリッズが頷く。
「確かに連中ならやりかねません」(エウクリッズ)
「ならば迎え撃つ」(フォンボス)
フォンボスは迷わなかった。
「基地守備隊を再配置しろ」(フォンボス)
「第13電子戦大隊は非常通信網を再構築」(フォンボス)
「エウクリッズは、41市街地警戒連隊を再編成しろ」(フォンボス)
「了解しました」(エウクリッズ)
「全部隊へ通達。若松基地は放棄しない」(フォンボス)
震える余裕がなかった。ヒアカッペは死んだ。今ここで崩れれば、第8北九州統治軍そのものが崩壊する。フォンボスはそれだけを理解していた。
「第8北九州統治軍はまだ終わっていない」(フォンボス)
その言葉に室内の空気が少しだけ変わった。だが――誰も気付いていない。天井裏の通気口。その暗闇の中で、ネイマンが静かに笑った。
「なるほどね」(ネイマン)
彼は無線機へ手を伸ばす。
「教授。連中、予想通り立て直しに動いた。ここは、はまだ機能している」(ネイマン)
登場人物紹介
セルジ・ゴーン
種族・性別:猫型獣人族の男性
所属・階級:陸軍伍長、マコンベリムト第13電子戦大隊・第1小隊所属
オリィ・カペラー
種族・性別:ヒト族の男性
所属・階級:陸軍少佐、マコンベリムト第13電子戦大隊長
ステッラ・フォンボス……第8北九州統治軍副群長
コスジェカ・エウクリッズ……第41市街地警戒連隊長
ネイマン……GASTリッチ班の班長




