第228話 泣いてもいい
「佐賀関の方は落ち着いたようだな」(ピート)
「……はい」(シシリア)
私は、シシリアこと綾瀬彩乃です。これが私にとって初めての実戦でした。電子戦隊なので前線へ出る訳ではありません。それでも戦場は戦場です。
正直に言うと。もう帰りたい。出来ることなら全部投げ出して逃げたい。
そんな事ばかり考えていました。
壇之浦で、門司で、多くの戦死者が出ました。そのほとんどが、名前も知らない人達です。
それでも胸が苦しい。もし私が失敗していたら、もっと多くの人が死んでいたかもしれない。そう考えるだけで吐き気がしました。
だから休みたい。逃げたい。端末の電源を落としてしまいたい。
でも――そんな事は出来ません。
今までずっとそうでした。高校でも、防大でも防大でも……GASTに来た時もそうでした。私はいつも流されてきました。嫌だと思っても、怖いと思っても……結局その場に残ってしまうのです。
「辛そうだな。少し休め」(ピート)
「……帰りたいです」(シシリア)
思わず口に出てしまいました。言った瞬間、しまったと思った。
こんな事を言ったら怒られる。
甘えるなと言われる。
役立たずだと叱責される。
そう身構えた。だが――
「そうか」(ピート)
返ってきたのは、予想していた言葉ではありませんでした。
「班長は帰りたくならないんですか?」(シシリア)
「なるぞ」(ピート)
「え?」(シシリア)
私は思わず顔を上げた。
「毎回なる」(ピート)
「戦場なんて好きな奴の方が少ない」(ピート)
「怖いし、疲れるし、死にたくない」(ピート)
「だから帰りたいと思うのは普通だ」(ピート)
ピート班長は当たり前の事のように言いました。私は返事が出来なかった。
普通。
その言葉が妙に引っ掛かった。
高校でも、防大でも、幹部候補学校でも、私は怒られている記憶の方が多かった。
足りないと言われた。
遅いと言われた。
要領が悪いと言われた。
だから、弱音を吐く事も駄目なのだと思っていた。
「だから気にするな」(ピート)
「ここには私達しかいない。辛い時は吐き出していい」(ピート)
その瞬間だった。視界が滲んだ。慌てて拭おうとしたが間に合わない。ポタポタと、涙がキーボードへ落ちた。
「お、おい。そこまで泣くな」(ピート)
「す、すみません……」(シシリア)
「謝るな。泣くのは別に規則違反じゃない」(ピート)
私は何も言えなかった。ただ涙だけが止まらなかった。
「ああそうだ、郡長がいる時は我慢しろよ? あの人には冗談が通じない」(ピート)
「は、はい…」(シシリア)
「間違っても『帰りたいです』なんて言うなよ?」(ピート)
「……死にます?」(シシリア)
「死にはしない」(ピート)
「半殺しにはされるかもしれん」(ピート)
「は、ははははは…」(シシリア)
やっぱり、帰りたい。
登場人物紹介
シシリア……GASTファルコン班所属。自己肯定感が低く、流されやすい性格
ピート……GASTファルコン班の班長。面倒見の姉貴分




