第227話 理不尽
第3領海警備隊・第11上陸阻止小隊に”所属していた”、トゥルン・サザーサ二等兵は、必死の形相で別府湾から太平洋沿岸を泳いでいた。目的はただ一つ。日向灘に造られた「第2領海警備基地」へ援軍を要請すること。上官の命令ではない。戦況をひっくり返すには、第2警備隊に援軍を募ることが確実と考えたからだった。電波を妨害され、自身の無線も故障していた。
海へ逃げる際に、狙撃手に狙われ、何人もの仲間が討たれた。自身が被弾しなかったのは幸運以外の何物でもない。敵狙撃手は、指揮官クラスを優先して狙っていたからだ。
サザーサはまだ若く、入隊したその年に地球に派遣された。入隊して5年目、地球へ派遣されて1年目の若手兵士だった。5年も軍にいれば、上等兵くらいには昇進していただろう。だが、移動期間に昇級試験は合格していたが、現地ですぐに戦闘へ入ったため、昇級が見送られた。大きな戦果でも挙げれば良かったのだろうが、二等兵にそのチャンス等、皆無に等しい。
我武者羅に泳ぎ、幸島付近で警備中の兵に会った。
「貴様は?」
警備中の伍長から訝られた。
「第3領海警備隊・第11上陸小隊所属、トゥルン・サザーサ二等兵であります! 第3領海警備隊が壊滅的被害を受け、援軍の要請に参りました!」(サザーサ)
「第3警備隊の事は聞いている。しかし、援軍要請は出ていたか?」
「いえ、出ていません。小官の判断であります」(サザーサ)
「二等兵の判断で動くわけにはいかん。だが、仲間を助けたい気持ちは俺にもある。司令部へ連絡を取ってみる。」
そう言って、伍長は基地へ連絡し、司令部とコンタクトが取れた。
「貴官がトゥルン・サザーサ二等兵か?」(ジーナ・ケイトス海軍大佐)
※マコンベリムト第2領海警備隊長
第2警備隊の隊長が直々に面会をするとは予想外であったが、直接隊長と話せるのは都合が良いと思った。
「第3警備隊の事は聞いている。あのアオシが討たれるとは思いもよらなかった。丁度、今から軍議に呼ばれている。参謀長に具申してやろう。アオシには新人の頃から世話になった。そして貴官の隊を想う気持ちも無下に出来ん」(ケイトス)
「あ、ありがとうございます」(サザーサ)
参謀長に具申することを約束したケイトスだったが、申請は却下される事を想定していた。もし仮に、援軍の申請をするならば、参謀部はもっと早く動いていたはずだ。
「(それに、この危機に第8北九州統治軍が動かないのはおかしい)」(ケイトス)
ケイトス自身、この具申が通るとは思っていなかった。それでも部下の声を上へ届けるのは指揮官の役目だ。少なくとも彼女はそう信じていた。
――熊本城 ※現マコンベリムト南部方面軍詰所――
この城を、司令官のモンセロト・インデペンダン少将はいたく気に入り、改修して詰所兼住居としていた。総督府は、何が魅力だったのか分からないし、興味がなかったので、「勝手にしろ」とだけ言ったそうだ。ケイトス自身も、何が魅力的なのか分からなかった。エレベーターもエスカレーターもない。グーリエ星人の体力なら、上るのに苦労しないが、面倒なのでエレベーターを付けて欲しいと願っている。
「こういう時、有翼種だったらと思ってしまうよ」(ケイトス)
ケイトスは自嘲気味に笑った。
軍議には、南部方面軍の司令、インデペンダン少将の他、ショウウェイ・ショウウェルス参謀長、マイア・パイカルハレ副参謀長など重鎮が勢揃いだ。海軍作戦参謀担当長のエーゲ・オクト少佐もいる。話だけでも聞いてくれそうだ・
「待たせたな」
威圧的で脳に直接響くような声がした。総督府のガジャマウド・マコンベ中将も姿を現した。最悪だ。この人は、気分で物事を進める。だが、帝国のため、仲間のため、引くわけにはいかない。
軍議は始まった。軍議とは言っても、戦闘の事はほとんど話さない。当然だ、北部方面隊とは違い、南部は戦闘経験がほとんどない。最初に制圧した時くらいだろう。中にはガム(北海道)で戦った者もいるが、新たに派兵された者の中には、地球に来てから戦闘経験のない者もいる。
「ケイトス大佐殿、何かご意見は?」(パイカルハレ)
パイカルハレがケイトスに話を振った。ケイトスは件の話をした。
「第3領海警備隊より、援軍要請が届いています」(ケイトス)
室内が白けた空気になった。
「援軍要請したのは誰だ? アオトポヴォジュズか?」(ショウウェルス)
「いえ、私が聞いたのは、トゥルン・サザーサという二等兵です」(ケイトス)
マコンベの眉が吊り上がった。
「おい、テメェはそんな下っ端の言う事を聞くのか?」(マコンベ)
「第3警備隊が壊滅すれば、本州上陸計画に支障が出ます」(ケイトス)
ケイトスがそう言った瞬間だった。マコンベは鼻で笑った。
「支障?」
「雑魚が何匹死のうが知るか。代わりを連れてくれば済む話だろ。それまではテメェ等でカバーしろ」(マコンベ)
「(相変わらず雑な人…)」(ケイトス)
ケイトスは思った。
「第2領海警備隊の範囲が広がり、警備も滞ります。領海警備隊は組織の再編が必要です。新たな派兵を具申します」(ケイトス)
「それは俺が決めることだ」(マコンベ)
マコンベはすぐさま拒否する。
「だいたい、佐賀関なら北部方面隊の仕事だ。何故、ここで話す?」(マコンベ)
「も…申し訳ありません。では、第3領海警備隊の援軍は、北部方面隊へ具申すればよろしいでしょうか?」(ケイトス)
「んなもん、テメェで考えろ」(マコンベ)
マコンベは懐から拳銃を取り出し、ケイトスに銃口を向けた。
「!?」(ケイトス」
「テメェは俺を怒らせた。もう軍に必要ない」(マコンベ)
「な…お待ちください!」(ケイトス)
パン! パン! パン!
ケイトスは何か言おうとした。だが言葉は続かなかった。椅子ごと後方へ倒れた。マコンベは、ケイトスの眉間・心臓・腹部と3発の銃弾を浴びせた。ケイトスは絶命した。
「役に立たたねぇ部下だ」(マコンベ)
「おいオクト、テメェが第2領海警備隊の隊長をやれ」(マコンベ)
マコンベは、ケイトスの遺体を見て絶句するオクトに命令を下す。
「し、しかし…次席指揮官は、副隊長のゴナ・ポイント少佐では?」(オクト)
「隊長がこんだけ無能なんだ、そいつの下でやってた奴を信用できるか。テメェが中佐になれば、問題ねぇだろ。今から中佐だ。」(マコンベ)
「中将殿、お言葉ですが、昇級は人事参謀を通してから…」(ショウウェルス)
パァン!
マコンベは、ショウウェルスの足に発砲する。
「うぐっ!」(ショウウェルス)
「黙れ、俺が決めた事だ。貴様も殺されてぇか」(マコンベ)
「う…申し訳ありません。」(ショウウェルス)
マコンベはオクトにも銃口を向ける。
「テメェも死ぬか?」(マコンベ)
「お許しください。命令に従います…」(オクト)
「ああ、そのサザーサって奴は殺しとけよ。二等兵の分際で、上官に命令したんだ。処分は当然だろ?」(マコンベ)
「……了解…しました…」(オクト)
オクトは、理不尽と分かっていても命令に従うしかなかった。そうでなければ、殺される。これまで、マコンベの気まぐれで殺された兵士は少なくない。マコンベリムトはマコンベの圧政で成り立っていた。
――軍議終了後――
オクトは重い足取りで廊下を歩いていた。中佐になった喜びなど一切無い。先ほどまで第2領海警備隊を率いていたケイトスは、今や冷たい身体となっている。
「サザーサ二等兵を処分しろ、か……」(オクト)
小さく呟く。彼に罪があるとは思えなかった。ただ仲間を助けようとしただけだ。だが、マコンベはそれを許さない。
オクトは窓の外へ視線を向けた。夕暮れの海が赤く染まっている。その色が、先ほど軍議室に流れた血と重なって見えた。
「これが……我々の国か」(オクト)
誰にも聞こえない声だった。
そしてその頃、何も知らないサザーサは、第2領海警備基地の宿舎で疲労のまま眠りについていた。
登場人物紹介
トゥルン・サザーサ
種族・性別:半漁族の男性
所属・階級:海軍二等兵、第3領海警備隊・第11上陸小隊所属
備考:基地から脱出後、第2警備隊に向かう
ジーナ・ケイトス
種族・性別:ラミア族の女性
所属・階級:海軍大佐、第2領海警備隊長
備考:マコンベの理不尽によって射殺される
ガジャマウド・マコンベ
種族・性別:ドラゴン族の男性
所属・階級:陸軍中将、マコンベリムトの総督府
備考:横柄な気分屋だが、グーリエ星内でも屈指の戦闘能力がある
モンセロト・インデペンダン
種族・性別:ドラゴン族の男性
所属・階級:陸軍少将、マコンベリムト南部方面軍司令
ショウウェイ・ショウウェルス
種族・性別:ハイエルフの男性
所属・階級:陸軍少将、マコンベリムト参謀長
マイア・パイカルハレ
種族・性別:ドラゴン族の女性
所属・階級:陸軍大佐、マコンベリムト参謀次長
エーゲ・オクト
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:海軍少佐→中佐、マコンベリムト作戦参謀・海軍担当長
備考:マコンベの気まぐれで、中佐に昇格し、第2領海警備隊長にさせられる
ゴナ・ポイント
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:海軍少佐、第2領海警備隊副隊長
備考:名前だけ登場




