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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第225話 優しさの責任

「助けてくれ!」


「頼む!」


「娘がいるんだ!」


「娘はまだ学生なんだ!」


私は思わず目を背けそうになりました。ですが、その時だった。


「待て」(浪城)


浪城大隊長が口を開きます。BJ班長が足を止める。


「何だ」(BJ)


「少し聞きたい事がある」(浪城)


浪城大隊長は、しゃがみ込み、ウムトラと目線を合わせます。


「お前、調理担当だったな」(浪城)


「そ、そうだ……」(ウムトラ)


「兵士じゃないんだな?」(浪城)


「違う!」(浪城)


ウムトラは必死に首を振る。


「俺は料理人だ! 包丁しか握った事がない!」(ウムトラ)


「戦争なんか関係ない!」(ウムトラ)


その言葉に、浪城大隊長は静かに頷きました。


「そうか」(浪城)


少しだけ希望が見えたのか、ウムトラの表情が緩みます。ですが…


「なら聞く」(浪城)


浪城大隊長の声は冷たかった。


「この基地へ運ばれてきた食料は誰が管理していた?」(浪城)


ウムトラが固まる。


「え……」(ウムトラ)


「答えろ」(浪城)


「お、俺だ……」(ウムトラ)


「その食料を食った兵士は何人いる?」(浪城)


「それは……」(ウムトラ)


「数千人だろうな」(浪城)


ウムトラの顔色が変わる。浪城大隊長は続けます。


「その兵士達が銃を持ち、日本人を殺した」(浪城)


「その兵士達が街を焼いた」(浪城)


「その兵士達が避難民を撃った」(浪城)


「お前は、その兵士達を毎日支えていた」(浪城)


「ち、違う……」(ウムトラ)


ウムトラが震える。


「俺は命令されただけだ……俺は戦ってない……俺は人を殺してない……」(ウムトラ)


浪城大隊長は首を傾げた。


「本当にそうか?」(浪城)


静かな声でした。怒鳴り声ではない。だからこそ重かった。


「弾を運ぶ兵士がいる。砲を整備する兵士がいる。飯を作る兵士がいる。戦争は全員でやるものだ」(浪城)


「お前だけ無関係な訳がない」(浪城)


ウムトラは言葉を失った。私は息を呑んでいた。正直、反論したかった。ですが、言葉が出てきません。ウムトラは確かに銃を撃っていない。人も殺していないかもしれない。けれど……彼が支えた軍隊が人を殺したのも事実でした。


「カラーノ」(浪城)


突然、名前を呼ばれた。


「は、はい」(カラーノ)


「お前は優しい」(浪城)


浪城大隊長は立ち上がる。


「それは悪い事じゃない」(浪城)


私は少しだけ安心しました。ですが、次の言葉で固まります。


「だがな」(浪城)


浪城大隊長は周囲の捕虜達を見渡した。


「優しさの責任まで考えろ」(浪城)


「責任……?」(カラーノ)


「ああ」(浪城)


浪城大隊長は頷く。


「もしこいつらを生かすなら、逃がさない責任がある」(浪城)


「再び武器を持たせない責任がある」(浪城)


「その結果、誰かが死んだ時は、その責任も負う」(浪城)


私は言葉を失った。浪城大隊長は続けます。


「殺すのも重い。生かすのも重い。戦争ってのは、そういうもんだ」(浪城)


「……」(カラーノ)


「全てを受け止めるのは難しいか。だが、綺麗事だけでは解決しない。ここはそういう場所だ」(浪城)


そう言って、浪城大隊長は本部へ連絡を入れました。



「桂司令官より、命令を承った」(浪城)


周囲が静まる。浪城は端末を確認しました。その瞬間、ビービ班長もコルガン班長も表情を変えます。


九州奪還作戦最高司令官・(かつら) 蘭次郎(らんじろう)陸将。その命令は絶対でです。


「内容は?」(ローレライ)


「グーリエ星人捕虜の収容は禁止」(浪城)


「現地指揮官権限において処分を許可」(浪城)


私は耳を疑った。


「そんな……」(カラーノ)


浪城は続ける。


「理由は3つ」


「第1に収容能力不足」


「第2に護送兵力不足」


「第3に脱走及び反乱の危険性」


浪城は一度言葉を切った。


「科学者脱走事件を踏まえた判断だ」


……


ウムトラの顔が青ざめる。


「ま、待ってくれ、俺達は戦えない、武器も持っていない」(ウムトラ)


「頼む」(ウムトラ)


浪城は首を振った。


「お前個人の話ではない」(浪城)


静かな声だった。


「国家の判断だ」(浪城)


「そんな……」(ウムトラ)



「現地指揮官は、二等陸佐の俺という事でいいか?」(浪城)


「ええ」(ビービ)


「異論はありません」(ローレライ)


「……それでいいんですか?」(カラーノ)


誰も答えません。


「本当に……」(カラーノ)


「上官命令だ」(浪城)


誰も反論しなかった。それが正しいからではなく、それが命令だからです。


浪城大隊長は静かに右手を上げる。


「執行」


次の瞬間、銃声が響いた。


タタタタン! タタタタタン!


処分が始まりました。


「ああ…ユーリ、パウ、チェミウ……」(ウムトラ)


ウムトラは、妻の、息子の、娘の名前を呼びながら、銃弾を浴びた。


ウムトラの脳裏に、家族の顔が浮かぶ。


息子のパウは、初任給で新しい包丁を送ってくれた。1週間前の出来事だ。娘のチェミウは、試験で良い成績を取ったと嬉しそうに話していた。妻は、自分のような醜いオーガを受け入れ、家族を作ってくれた。もう二度と会えない。その事実だけが、何よりも辛かった。


オーガは大柄で頑丈な体格をしている。1発や2発の銃弾で死ぬほど軟な身体はしていない。何発も何発も浴び、苦しみながら息絶えた。




カラーノです。私は目の前の光景を直視することが出来ず、目を閉じていることしか出来ませんでした。


銃声と悲鳴が聞こえなくなり、やがて恐る恐る視線を上げます。そこには、拘束されたまま倒れているグーリエ星人達の姿がありました。先程まで話していたウムトラも、その中にいます。誰も声を上げません。勝利したはずなのに、歓声もありませんでした。


コルガン班長やビービ班長は何も言わず、その場から離れます。誰もが慣れている訳ではない。ただ、必要だと判断しただけなのだと、私は何となく理解しました。


それでも――胸の奥に残った重さだけは消えません。


ウムトラは敵でした。その事実は変わりません。けれど同時に、父親でもあり、夫でもあり、料理人でもあったことが分かりました。


私は彼を許せる訳ではない。だからといって、この光景を簡単に受け入れることも出来ませんでした。


戦争は、人を殺すだけではない。人の答えまで奪っていく。私は無意識に、自分の拳を強く握り締めていました。


登場人物紹介

カラーノ……本作のヒロイン、GASTピットブル班所属

BJ……GASTピットブル班の班長

浪城なみしろ げき……第一空挺団・第2普通科大隊長

ローレライ……GASTセイレーン班の班長

ビービ……GASTアマゾネス班の班長

かつら 蘭次郎らんじろう……九州奪還の最高司令官

ウルホ・ウムトラ……オーガ族で、第3領海警備基地の調理責任者

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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