第224話 生殺与奪
カラーノです。今、私達の目の前には拘束されたグーリエ星人が50体程。付近にそれ以上の数のグーリエ星人の遺体が転がっています。
「あの遺体の連中は、抵抗したから殺した」(ファス)
そう答えるのは、セイレーン班のファスさん。
「この50人は投降した奴等だ」(ファス)
「この50人は捕虜にするんですか?」(カラーノ)
「……」(ビービ)
「……」(浪城)
ビービ班長は何も答えません。同じく、浪城大隊長も。
「こいつ等は、ここで殺す」(BJ)
「!?」(カラーノ)
口を開いたのは、BJ班長でした。予想通りの答えでしたが、敵とはいえ、無抵抗の人達を殺す――人道的にもそれは許されない行為に感じます。
「待ってください! 彼らは自ら投降したのですよね? 中には非戦闘員らしき姿もあります。殺す必要があるのですか?」(カラーノ)
「害虫は駆除する。それだけだ。」(BJ)
私の視界に入った、怯える人魚族の女性。彼女は非戦闘員のようです。言葉は分かりませんが、「殺さないで」と懇願しているようです。
「班長、ジュネーブ諸条約を知らないわけじゃありませんよね? 首都圏でも、戦争犯罪に該当しかねない事件がありました。これ以上、事を大きくすると、世論が黙っていませんよ!」(カラーノ)
「馬鹿か。」(BJ)
BJ班長は呆れたといった様子で呟きます。
「こいつらに国際法は通じねぇ。襲ってきたとき、人道回廊を確保したか? 一般市民を逃がしたか? こいつらは老若男女問わず、ここで暮らす者達を虐殺してきた。非戦闘員とて、その片棒を担いできた。何故、こいつらを生かさないといけない?」(BJ)
「でも…」(カラーノ)
その時、キーラさんが私の肩を叩きます。
「グーリエ星人は、そもそも地球外生命体。国際法は通用しない。」(キーラ)
「そうだ。国際法に則る必要はない。」(BJ)
「でも……投降しているんですよ?」(カラーノ)
BJ班長は小さくため息を吐いた。
「科学者脱走事件は知ってるな」(BJ)
私は息を呑んだ。知らない話ではありません。捕虜として収容されていたグーリエ星人科学者が脱走。警備員や民間人を殺害し、多数の犠牲者を出した事件です。
「でも、あれは特殊な例では――」(カラーノ)
「特殊じゃねぇ」(BJ)
即座に否定された。
「あの事件で学んだのは一つだ」(BJ)
BJ班長は拘束された捕虜達へ視線を向ける。
「グーリエ星人を、人間と同じ感覚で扱うな」(BJ)
「俺も反対したよ」(浪城)
「え?」(カラーノ)
「当時はな」(浪城)
浪城大隊長は苦い顔をします。
「捕虜なんだから保護しろってな」(浪城)
「……」(カラーノ)
「結果はあの様だ」(浪城)
私は何も言えませんでした。
「護送部隊は半壊。避難民にも被害が出たわけだ」(浪城)
浪城大隊長は静かに言います。
「だから今の自衛隊は、昔ほど甘くない」(浪城)
「お前の言っている事は正しい。だが、俺達はその”正しさ”で何度も痛い目を見てきた」(浪城)
「……」(カラーノ)
私はふと、隼人の事を思い出しました。隼人は両親をグーリエ星人に殺されている。「仇を討つ」と何度も口にしていたことも。彼のグーリエ星人に対する憎悪は凄まじく、大事な人を奪われた辛さをひしひしと感じました。逆に私は――自衛官になって、お世話になった先輩や、訓練を共に頑張った同期を失う辛さを味わいました。グーリエ星人が憎いのは事実です。ですが、ただ感情だけの殺意を持つことはありませんでした。私の考えは甘いのでしょうか、それとも普通なのでしょうか?
「殺すことに反対はしない」(コルガン)
「同じく…」(ローレライ)
「奪われた領土を取り戻し、これ以上の被害を出さないためだ」(カバナー)
班長達も同意しています。その時、グーリエ星人の一人が、私達に話しかけてきました。
「……日本語が分かる」
私は思わずそちらを見ます。大柄な体格の男です。両手を拘束され、顔には殴打の痕が残っている。
「話せるの?」(カラーノ)
「少しな」
男は小さく頷きました。
「ウルホ・ウムトラだ。マコンベリムト第3領海警備基地の調理担当責任者をしていた」
「調理担当……?」(カラーノ)
私は思わず聞き返していた。軍人ではない。少なくとも戦闘要員ではなさそうです。
「毎日3000食以上作っていた」(ウムトラ)
男はどこか諦めたような顔で続けます。
「兵士用、整備員用、病棟用。忙しかったぞ」(ウムトラ)
「……」
「俺は銃も撃てん」(ウムトラ)
ウルホは苦笑した。
「包丁なら使えるがな」(ウムトラ)
周囲が静まり返ります。私にとっては、初めて聞く種類の話でした。今まで撃ってきた敵、殺してきた敵。その誰もが最初から兵士だった訳ではない。
炊事兵もいる、整備兵もいる、事務官もいる、家族持ちもいる――当然の話でした。
「だったら何故、ここへ来たんですか?」(カラーノ)
ウムトラは少し考えた後、答えた。
「命令だからだ」(ウムトラ)
「それだけですか?」(カラーノ)
「それだけだ」(ウムトラ)
即答でした。
「俺は将軍じゃない。政治家でもない。戦争を始めたのは俺じゃない。だが、始まった以上は従った。それが俺の仕事だった」(ウムトラ)
私は言葉を失った。するとウムトラは視線を落とし、小さく笑います。
「情けない話だな。今は死にたくないと思っている。」(ウムトラ)
「妻もいる。息子も娘もいる……故郷に帰りたい」(ウムトラ)
その声は震えていました。
「頼む、助けてくれ! 何でもする! 料理だって作る! 掃除でも荷運びでもする! だから――」
ウムトラは頭を地面へ擦り付けた。
「死にたくない」
浪城大隊長は黙っています。ビービ班長も何も言いません。ローレライ班長も、コルガン班長も。誰一人として口を開きませんでした。
その沈黙を破ったのはBJ班長でした。ウムトラの頭を踏みつけ、言いました。
「豚が人語を喋ってるんじゃねぇ。豚はブヒブヒ鳴いとけばいいんだよ」(BJ)
「俺達にも家族はいた」(BJ)
ウムトラの身体が震える。
「守りたい相手もいた」(BJ)
「帰りたい家もあった」(BJ)
BJ班長の声は冷たかった。怒鳴りもしない。感情をぶつけもしない。ただ事実を述べている。
「お前達はそれを焼いた」
「殺した」
「奪った」
「俺達は忘れてねぇ」
ウムトラは何も言えない。
「助けてくれ、か」
BJ班長は小さく鼻で笑った。
「今さら遅ぇよ」
「うぎゃあああああああああああああああああああああ」(ウムトラ)
BJ班長は、何の躊躇いもなくウムトラの頭部に刀を突きさします。
「班長!?」(カラーノ)
「ようやく、豚らしくなったな。」(BJ)
BJ班長が、ウムトラにとどめを刺そうとした時…
「待て」(浪城)
浪城大隊長が、班長を止めました。
登場人物紹介
ウルホ・ウムトラ
種族・性別:オーガ族の男性
所属:マコンベリムト第3領海警備基地の調理担当責任者 ※非戦闘員
備考:妻はヒト族で、息子・娘が母親に似て可愛くて仕方ない。朝と夜に家族とTV通話するのがルーティン
ファス……GASTセイレーン班所属
カラーノ……本作のヒロイン、GASTピットブル班所属
BJ……GASTピットブル班の班長、冷徹な性格をしている
キーラ……GASTアマゾネス班所属、グーリエ星人に父と弟を殺された過去を持つ
浪城 激……第一空挺団 第2普通科大隊長
コルガン……GASTフォックス班の班長
ローレライ……GASTセイレーン班の班長
カバナー……GASTスパイダー班の班長
※グーリエ星人学者脱走事件
2009年、北海道にてグーリエ星人(後に科学者だったことが判明)を捕らえることに成功するが、その1か月後、その科学者が収容所から脱走。警備員や民間人等、多くの犠牲者を出した。
この事件で、グーリエ星人は非戦闘員でも高い戦闘能力を持っている事が判明する。




