第222話 第3領海警備隊隊長
カラーノです。
司令区画前通路は、完全に地獄でした。蒸気、硝煙、火花、怒号……閉鎖された隔壁へ銃弾が跳ね、湿った空気の中へ薬莢が散っていきます。
「右押されてる!」(ガーツ)
「下がるな!」(シャーク)
前進する前方の敵に対し。後方の部隊が射線を整理する。負傷兵が出れば、即座に後続が穴を埋める。その中央で、指揮する敵の司令官に手を焼いています。
「前進速度を落とすな」(アオトポヴォジュズ)
低い声でした。ですが、その一言だけで敵防衛隊の動きが変わる。
「……本当に化け物ねぇ」(フロリアン)
「だから隊長なんでしょ」(エルメス)
タタタタン!!
敵側の制圧射撃が走る。私は遮蔽物へ滑り込みながら、再び敵防衛線を見つめました。
護衛の動き、司令官の位置、後方の射線管理。そして――
「また左が空いた……」(カラーノ)
司令官が前進する瞬間だけ、左側護衛線が薄くなる。
「班長!」(カラーノ)
「見えてる」(BJ)
BJ班長は即座に理解しました。
「フロリアン、右を抑えろ! シャークとエルメスで後方を潰せ!」(BJ)
「了解!」(シャーク)
「任せて!」(エルメス)
「任せなさい!」(フロリアン)
その瞬間、ピットブル班の動きが変わります。シャークさん、エルメスさんが低姿勢で側面通路へ走り込み、後方の敵へ連射を浴びせました。
タタタタン! タタタタン!
「ぎゃっ!」
後方の敵が倒れ、途端に、敵右側の射線整理が乱れました。
「今だ!」(BJ)
BJ班長が真正面から突撃します。
タタタタン!!
敵兵達が一斉に発砲。ですが、その瞬間だけ、防衛線中央に僅かな空白が生まれていました。
「っ!」(アオトポヴォジュズ)
初めて、敵司令官の目が僅かに鋭くなる。BJ班長は、その隙へ無理矢理踏み込んでいました。
「邪魔だ」(BJ)
BJ班長は、司令官へ届く唯一の隙間へ無理矢理踏み込みました。日本刀が閃く。護衛兵の一人が胸部を裂かれ、そのまま吹き飛びました。ですが次の瞬間、敵司令官本人が前へ出ます。
ガギィン!!
軍刀同士が激突します。
「……なるほど」(アオトポヴォジュズ)
至近距離。敵司令官は、静かにBJ班長を見つめています。
「貴様が、この部隊の核か」(アオトポヴォジュズ)
「害虫に教える義理はねぇ」(BJ)
次の瞬間、両者が同時に踏み込みます。凄まじい速度でした。軍刀が火花を散らし、至近距離で短機関銃が発砲される。周囲の敵兵達ですら巻き込まれないよう距離を取るしかありません。
「化け物同士ね……」(フロリアン)
ですが、その撃ち合いの中で、私は気付きました。あの司令官は強い。ですが――
「司令官が前へ出たせいで、護衛線が完全に薄くなってる……」(カラーノ)
今なら、防衛線を崩せる。
「ガーツさん! 左護衛!」(カラーノ)
「見えた!」(ガーツ)
ガーツの射撃が左側護衛兵を撃ち抜く。その一発で、防衛線の連携が僅かに途切れた。もしカラーノが綻びを見抜いていなければ、生まれなかった隙だった。
タタタタン!
ガーツさんの射撃が、左側護衛兵を撃ち抜く。さらにシャークさんが飛び込んだ。
「そこ甘いよ!」(シャーク)
短連射。
後方の敵兵が倒れます。その瞬間でした。敵防衛線が、目に見えて崩れ始めたのです。
「なっ――」(ラックス)
射線管理が消える、後退指示が遅れる。敵兵達が、一瞬だけ互いを見合う。その僅かな混乱へ、BJ班長は踏み込みました。
「終わりだ」(BJ)
ガギィン!!
司令官の軍刀が弾き飛ばされます。次の瞬間――
パァン!!
BJ班長の拳銃弾が、敵司令官の胸部を撃ち抜きました。司令官の身体が、ゆっくりと揺れる。周囲が静まり返りました。
「……クソ…海を、守れなかったか。」(アオトポヴォジュズ)
小さな声でした。彼は崩れ落ちながら、それでも最後まで基地司令として周囲を見ていました。
「……皆…済まない……」(アオトポヴォジュズ)
その直後、基地全域の無線が、一気に混乱し始めます。
『隊長が――!』
『司令区画が突破された!』
『撤退!?』
『いや、持ち場を――』
怒号が錯綜する。先程まで統制されていた防衛線が、急激に崩れ始めていました。私は、その光景を見つめながら、小さく息を吐きます。
「……終わった?」(カラーノ)
ですが、BJ班長は首を横へ振りました。
「いや、まだだ」(BJ)
班長は、崩壊し始めた基地内部を睨みます。
「ここからは、掃討戦だ。」(BJ)
登場人物紹介
カラーノ……本作のヒロイン、GASTピットブル班所属
BJ……GASTピットブル班の班長
シャーク……GASTピットブル班の副班長
フロリアン……GASTピットブル班所属、筋骨隆々のオネエ
エルメス……GASTピットブル班所属、アメリカ人と日本人のハーフ
ガーツ……GASTピットブル班所属
アオシ・アオトポヴォジュズ……第3領海警備隊の隊長




