第216話 沈みゆく旗艦
カラーノです。敵海軍基地へ侵入してから、もうかなりの時間が経っていました。この基地は、巨大な要塞でした。相手は海軍です。しかも、この基地自体が“海で戦うため”に最適化されていました。海へ戻る通路、海水循環設備、半水没式ドック。それら全てが、海中戦力を維持するために機能しています。
なので、こちらが一つ制圧しても、別の場所からすぐに反撃が飛んできました。
「左通路、敵増援!」(ノートン)
「数が多い!」(ダルトン)
通路奥から飛び出してきた海軍兵達が、一斉に短機関銃を撃ってきます。湿気を含んだ狭い通路へ曳光弾が走り、蒸気配管へ命中した弾丸が白煙を噴き上げました。
「伏せろ!」(BJ)
私達も即座に遮蔽物へ滑り込みます。ですが、敵も簡単には崩れません。河童や蛙のようなグーリエ星人は、陸戦慣れしていました。低姿勢で遮蔽物を使うのが上手く、こちらの射線を切りながら距離を詰めていきます。
「やっぱ海軍って言っても、普通に強いねぇ」(エルメス)
「上陸戦を想定している部隊だな」(浪城)
浪城大隊長はそう言いながら、躊躇なく小銃を連射します。前進してきた河童の兵士が吹き飛び、後続が慌てて物陰へ退避しました。その直後です。
「ドオォン」という爆発音と共に、基地全隊が揺れました。
「な、何!?」(カラーノ)
「沖合だ!」(ガーツ)
通路脇の窓越しに海を見ると、遠方で巨大な火柱が上がっていました。炎上しながら戦っていた旗艦“荒潮”です。艦首を半壊させたまま砲撃を続けていましたが、ついに中央部から大爆発を起こし、大きく傾き始めています。
「…限界か」(浪城)
沈没し始めている荒潮でしたが、まだ主砲射撃を止めません。轟音と共に放たれた一撃が、沿岸にある砲台へ直撃します。次の瞬間、海岸線側で巨大な爆発が起き、砲塔の一基が崩れ落ちました。
「沈みながらも撃ち続けるなんて……」(エルメス)
「執念だねぇ」(シャーク)
海面では、沈みゆく艦から脱出した乗組員達の救命灯が小さく揺れていました。
「(おそらく、彼らは…)」(カラーノ)
海に落ちた段階で、水棲種の餌食になる。これは、何度も起きてきた事です。
その光景を見たBJ班長は、鋭い声で激を飛ばします。
「止まるな! 通信棟を墜とすぞ!」(BJ)
「了解!」(カラーノ)
私達は再び前進しました。
その頃、基地中央制御区間では、更なる混乱が起きていた。
「第2沿岸砲塔、応答停止!」
「海水循環圧力、さらに低下しています。」
怒号が飛び交う中、マシャーム・ンテス少佐は歯噛みしていた。
「まだ復旧しないのか!」(ンテス)
「駄目です! 燃焼系統そのものが――」
「言い訳をするな!」(ンテス)
ンテスは、制御卓を殴りつけた。
海岸線は既に崩れ始めている。頼みの沿岸砲も沈黙寸前。このまま通信網まで落ちれば、基地は完全に孤立する。そこへ、新たな報告が飛び込んだ。
「西区画突破されました!」
「敵上陸部隊、通信棟方面は進行中!」
「何だと!?」
ンテスは、即座に拳銃を掴む。
「沿岸重砲部隊を回せ! 通信棟を死守しろ!」(ンテス)
一方、地下循環区では、コルカ・オウェル大尉が端末へ齧り付いていた。
「第3循環棟、まだ駄目なの?」(オウェル)
「冷却水位が戻りません!」
「海水供給弁が閉じたままです!」
整備兵達の顔にも、疲労が色濃く浮かんでいた。長時間の陸上活動、しかも高温環境、循環設備まで止まり始めている。限界が近いのは明らかだった。
義足の駆動部から蒸気を漏らしながら、オウェルは唇を噛む。
「こんな所で止まれる訳ないでしょう……! 何とかするわ!」(オウェル)
「しかし、もうこれ以上は…」
「沿岸砲なんて後でいい! 循環が止まれば全員陸で干上がるのよ!」(オウェル)
その時、地下通路奥から銃声が響く。
タタタタン!
「敵襲!」
「敵上陸部隊です!」
「制御区画を押さえろ!」(ベイケル)
「右クリア!」(ノートン)
「左通路制圧!」(ダルトン)
特戦群1中隊の隊員達が、恐ろしい速度で区画を制圧していく。
「くっ……!」(オウェル)
整備兵達が慌てて拳銃を構える。戦況が明らかだった。戦闘職ではない、疲弊しきっていた彼女達に特戦群を止める力は残されていなかった。
「1中隊、クリア!」(ベイケル」
その頃、私達は通信棟直前へ到達していました。
「敵、最後の防衛線を敷いてます!」(ガーツ)
通路奥には、敵が即席バリケードを築いていました。
その中央に立っていたのは、鯱のような姿をしたグーリエ星人でした。巨大な体躯、濡れた軍服、小銃を構えています。
「下等生物が…」(トシュク)
その目には、明確な殺意があります。
「ここは海だ。貴様らの国ではない」(トシュク)
パァン!
「ぎゃっ」
「!?」(トシュク)
次の瞬間、BJ班長が発砲。トシュクの隣にいた敵兵を撃ち抜きました。
「ここは日本、俺達の国だ。てめぇ等、害虫共の巣じゃねぇ」(BJ)
「何を言う。21年も我々が支配していた。ここはもう、我々帝国民の国だ。それも分からんとは、下等生物たる所以だな。」(トシュク)
「21年巣食った程度で、自分の国気取りか。図々しい連中だな」(BJ)
お互いが挑発しあった次の瞬間、双方が同時に引き金を引きました。
タタタタン!
銃声が、湿った基地通路を激しく揺らします。
「こいつは、俺が殺る。お前達は、残りの雑魚を片付けろ」(BJ)
「了解!」
そして沖合では、“荒潮”が完全に横転し、燃える海へゆっくりと沈んでいきました。ですが、その最後の砲撃によって沈黙した沿岸砲台からは、もう2度と砲撃が放たれる事はありませんでした。
登場人物紹介
カラーノ……本作のヒロイン。GASTピットブル班所属
BJ……GASTピットブル班の班長
シャーク……GASTピットブル班の副班長
エルメス……GASTピットブル班所属
ガーツ……GASTピットブル班所属
ベイケル……特戦群1中隊の中隊長
ダルトン……特戦群1中隊所属
ノートン……特戦群1中隊所属
浪城 激……第一空挺団第2普通科大隊長




