第213話 燃える海峡
カラーノです。私達は今、佐賀関にあるという敵の海軍基地へ向かっています。
「ここを墜とすと、四国防衛にも繋がりますよね?」(カラーノ)
「ああ、そうだな。」(BJ)
佐賀関沖の海は、夜にも関わらず明るく、とても不気味でした。海面各所で燃料火災が発生し、炎が明るく照らしています。
最初は、もっと静かな潜入作戦になると思っていましたが、実際は違いました。呉地方隊の第4護衛隊群が敵の海軍と正面から激突していました。
しかし、状況は芳しくないのは遠目からでも分かります。海面では、水柱が何本も立ち上がっていました。敵海軍側の沿岸砲と、ここからでは分かりませんが、海中でも水棲種による攻撃を受けているのは予測できます。
「かなり厳しいですね…」(カラーノ)
崖陰へ伏せながら呟くと、隣で浪城大隊長が双眼鏡を下ろします。
「真正面から殴り合ってるからな。海は向こうの庭だ」(浪城)
その声は冷静でしたが、状況が悪い事は明らかでした。
沖合では、護衛艦が大きく傾いているのが見えます。艦尾側から炎が吹き出し、周囲では救命灯らしき光が海面へ散らばっていました。さらに遠方。巨大な艦影が、鈍く炎上しています。
「あれが旗艦っぽいね……?」(シャーク)
「ありゃ、たぶん“荒潮”だな」(浪城)
艦首側を大きく破損しながらも、なお砲撃を続けています。
その砲撃に合わせるように、海自側護衛艦も主砲を撃ち返す。夜の海へ閃光が走り、数秒遅れて重低音が響きます。
「まだ粘っているけど…時間の問題だね」(シャーク)
「旗艦ってのは、沈まないから旗艦なんだろうね」(エルメス)
「嫌な理論だなぁ……」(シャーク)
そんな会話をしている間にも、海では戦闘が続いていました。
その時、海面が爆発しました。巨大な水飛沫と共に、海自艦隊側面へ何かが突っ込みます。
「魚雷!?」(カラーノ)
「分からん。だが、海中側の制圧権は完全に向こうだ」(アイブル)
その時、BJ班長が声を挙げます。
「おい、俺達の役目はただ見てるだけか?」(BJ)
「あ…」(ビービ)
「海自が粘っているうちに、突入するぞ。今なら隙も出来るだろ」(BJ)
名乗り出たのは、特戦群の1中隊でした。
「ならば、我々が先行偵察しよう。これまで影が薄かったから、見せ場を作りたい」(ベイケル)
「隊長、自分でいいますか、普通?」(ノートン)
「事実だからな」(ベイケル)
「(否定しないんだ…)」(カラーノ)
けど、その直後には、ベイケルさんの表情から冗談めいた色が消えました。
「空挺部隊は、敵戦線が崩れる前に穴へ飛び込む部隊だ。今が、そのタイミングだろう」(ベイケル)
その直後、沖合で再び巨大な爆炎が上がりました。
海自護衛艦の一隻が、炎を噴きながら大きく傾いていきます。しかし、それでも主砲射撃は止まりません。沿岸砲台へ向けて放たれた砲弾が、海岸線の一角を吹き飛ばします。
「今だ! 沿岸監視が砲撃へ引っ張られてる!」(ベイケル)
特戦群の第1中隊員たちが、一斉に立ち上がります。
暗視装置を下ろし、消音火器を確認しながら、崖沿いの斜面へ静かに降下を始めました。
BJ班長も続きます。
「海自が道を開けてる。無駄にするな」(BJ)
「了解」
私も慌てて後を追います。
前方では、なおも海戦の轟音が響き続けていました。燃える海、沈みかけた護衛艦、砲撃を続ける”荒潮”
その全てが、私達を敵の海軍基地へ通すための戦いに見えました。
登場人物紹介
ベイケル……特殊作戦群第1中隊の隊長
カラーノ……本作のヒロイン
BJ……GASTピットブル班の班長
シャーク……GASTピットブル班の副班長
エルメス……GASTピットブル班所属
ビービ……GASTアマゾネス班の班長
アイブル……GASTリッチ班の副班長
浪城 激……第一空挺団第2普通科大隊長
ノートン……特殊作戦群第1中隊所属
※本作に出てくる架空の装備
艦隊旗艦:荒潮……別府湾で戦闘を繰り広げた第4護衛隊群の旗艦




