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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第208話 静かなる狩人

小倉南区の廃墟群は、既に完全な夜戦空間へ変わっていた。崩落した高層ビル群の隙間を、探照灯の白色光が断続的に走る。その下では、機械化歩兵とGASTリッチ班が入り乱れ、断続的な銃声と迫撃砲音が反響していた。その戦場を、ボナーは高層廃墟八階部分から静かに見下ろしていた。


コンクリート壁面へ偽装布を張り巡らせた簡易狙撃陣地。熱源遮断シートも展開済み。外部からは、ほぼ瓦礫の一部にしか見えない。ボナーはスポッティングスコープから視線を外し、小さく息を吐いた。


「……敵、有翼種2。地上歩兵多数。リッチ班、完全に噛まれてますね」(ボナー)


隣では、ローレライが静かに狙撃銃へ頬を当てていた。長大な銃身には消音器が装着され、二脚は崩落コンクリートへ深く固定されている。しかし、その姿勢には力みが無い。まるで、夜景でも眺めているような穏やかさだった。


「でも、よく持ちこたえてるわ」(ローレライ)


「感心してる場合ですか。あと数分遅れてたら全滅してましたよ」(ボナー)


ローレライは苦笑する。


「だから急いだのよ」


その直後だった。上空を旋回していた天使族が、再び降下へ入る。 ボナーは即座に風向計を確認した。


「距離420、横風微弱。高度差マイナス12。撃てますか?」(ボナー)


ローレライは答えない。いや、答える必要が無かった。既に照準は終わっていた。呼吸が止まる。引き金が、静かに絞られる。


バシュッ――。


消音器越しの乾いた発射音。次の瞬間、降下中だった天使族の右翼が弾け飛ぶ。有翼種は空中で大きく姿勢を崩し、そのまま廃墟群へ墜落していった。ボナーは思わず苦笑した。


「……相変わらず無茶苦茶ですね」(ボナー)


「動きが素直だったから、今日は簡単な方だよ」(ローレライ)


ボナーは返答に困った。夜間移動目標への狙撃を“簡単”と言い切れる狙撃手を、彼はローレライ以外に知らない。


ボナーは呆れ半分でスコープを覗き直す。有翼種狙撃。それも夜間、移動目標、しかも降下中。本来なら、狙撃というより曲芸に近い。だが、この人はそれを当然のように成功させる。だからこそ、GAST最強狙撃手と呼ばれていた。


「次はドローンを墜とす。3秒後、こっちに来る」(ローレライ)


パシュッ――


3秒後、狙撃陣地付近を通ったドローンを撃ち落とす。狙撃技術だけではない、視野の広さも、このローレライの特筆すべき点である。


「班長、天使が1体、こちらに向かってきます」(ボナー)


フランカーのベルチャーが銃を構える。


「ラスタ、聞こえる。ケン・ウガーリッヒ(手負いの天使)は貴方が仕留めなさい。」(ローレライ)


「了解」(ラスタ)


ラスタの返答とほぼ同時に、別棟廃墟の上層階から短い発砲音が響いた。


タタタン――。


3点射。


しかし、その射撃は単なる牽制ではない。曳光弾すら用いず、夜闇へ溶け込むように放たれた弾丸が、低空で姿勢を立て直そうとしていたケン・ウガーリッヒの左翼をさらに撃ち抜いた。


「っ、まだいるのか!」(ケン)


ケンは慌てて高度を上げようとする。しかし損傷した翼では揚力維持が追いつかない。高度が不安定になった瞬間、今度は別方向から銃声が重なった。


バシュッ――。


7.62mm弾が、ケンの胸部を正確に貫通する。空中で身体が硬直し、そのまま崩落ビル群の隙間へ墜落していった。ボナーは小さく眉を上げる。


「……早いですね」(ボナー)


「ラスタ、かなり詰めてたから」(ローレライ)


ローレライは穏やかな口調のまま、新たな弾倉を装填する。その隣で、ベルチャーが周辺警戒を続けていた。


GASTの狙撃班は3人1組。狙撃手、観測手、近接警戒。だが実際には、全員がその三役をこなせる。誰か一人が欠けても、班として機能を維持できるよう徹底的に訓練されていた。だからこそ、分散した市街地戦でも生存率が高い。


ボナーはスコープを覗き込みながら、別棟の熱源を確認する。ラスタは既に狙撃位置を移動していた。撃った場所へ留まらない。それはGAST狙撃班における鉄則だった。


「移動も速い。随分鍛えましたね」(ボナー)


「彼は努力家なのよ」(ローレライ)


ローレライはどこか嬉しそうに笑う。その声音を聞きながら、ボナーは少しだけ苦笑した。ラスタがここまで狙撃技術へ執着している理由を、班内で知らない者はいない。


「(態度が露骨だからな)」(ボナー)


初めてローレライを見た日から、あの男は露骨なほど変わった。射撃記録、観測技術、潜伏訓練、風向計算。訓練課程が終わった後も、一人だけ残って射撃を続けていた姿を、ボナーは何度も見ている。


もっとも――。


「本人に言ったら撃ち殺されそうですけどね」(ボナー)


「ふふっ、何が?」(ローレライ)


「いえ、何でもありません」(ボナー)


その直後、ベルチャーが短く無線を入れた。


「北側道路、敵装甲車2両。歩兵随伴多数。こっちの狙撃位置を探り始めてる」(ベルチャー)


「とうとう来たか」(ボナー)


先程から監視ドローンを落とし続けている以上、敵側も狙撃班の存在には気付いている。問題は、いつ位置を割り出されるかだった。


だがローレライは焦らない。静かにスコープを覗いたまま、小さく呟く。


「位置を割られる前に、向こうの指揮系統を崩しましょうか」(ローレライ)


ローレライは会話を続けたまま、照準だけを僅かに上へ修正する。次の瞬間、消音射撃音が夜空へ走った。


旋回していたカズ・ウガーリッヒ(もう一体の天使族)が、突然糸の切れたように失速する。胸部を撃ち抜かれた有翼種は、そのまま崩落した高架道路脇へ墜落していった。


ボナーは思わず息を吐いた。この人はいつもそうだった。戦況が悪化するほど、むしろ静かになる。そして、その静けさのまま、戦場そのものを崩していくのだ。


北側道路では、既に敵装甲車が探照灯を広げ始めていた。白色光が廃墟壁面を舐めるように走り、対狙撃用と思われる監視ドローンも高度を上げつつある。敵側も、ようやく“撃たれている”のではなく、“狙撃班に支配され始めている”事実へ気付き始めていた。


だが、その頃には、セイレーン班は既に次の射点移動準備へ入っている。ベルチャーが装備をまとめ、ボナーは熱源遮断シートを素早く剥がした。ローレライだけが最後までスコープを覗き続けている。


「班長、そろそろ離脱を」(ボナー)


「あと一発だけ」(ローレライ)


穏やかな声だった。直後、市街地中央で指揮を執っていた機械化歩兵士官の頭部が、突然後方へ弾け飛ぶ。周囲の兵士達が一斉に伏せる。怒号と混乱が無線へ溢れ、進軍しかけていた装甲車列が停止した。ローレライは静かに遊底を引き、新たな弾薬を送り込む。


「これで、少しはリッチ班も動きやすくなるかな」(ローレライ)


その声は、まるで誰かを気遣う姉のように穏やかだった。しかし実際には、たった数分で敵中隊の索敵網と指揮系統を半壊させている。ボナーは苦笑しながら装備を担ぎ直した。


「……本当に、敵からしたら悪夢ですね。貴方は」(ボナー)


遠方では、再び重砲撃音が響き始めていた。浪城大隊が、小倉市街地へ本格突入を開始したのだった。


登場人物紹介

ローレライ……GASTセイレーン班の班長。GASTナンバー1の狙撃技術を持つ

ボナー……GASTセイレーン班の副班長

ベルチャー……GASTセイレーン班所属。フランカーとしてローレライを支えた

ラスタ……GASTセイレーン班所属。ケン・ウガーリッヒを仕留める

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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