第205話 小倉夜戦
「敵だ!」
「やはり、潜んでいたか!」(ベリタテウ)
怒号が飛ぶ。だが、その瞬間には既にスパイダー班は動いていた。サカラの消音射撃が、指揮通信車上部の探照灯を撃ち抜く。
バシュッ!
白色光が砕け、周囲が一瞬で闇へ沈んだ。ほぼ同時に、タックが短く連射する。通信アンテナが火花を散らしながら吹き飛び、無線機材から激しいノイズ音が漏れた。
「通信途絶!」
「指揮車両を守れ!」(ベリタテウ)
カバナーは既に車体側面へ滑り込んでいた。履帯の死角へ潜り込み、磁気吸着式爆薬を叩き付ける。
「設置完了。」(カバナー)
直後、車体上部ハッチが開き、機銃手が身を乗り出す。しかし、その喉元へナイフが突き込まれた。
「ガッ――」
悲鳴すら上がらない。カバナーは死体を引き摺り下ろすと、低く呟く。
「起爆まで5秒。総員、離れろ」(カバナー)
スパイダー班が一斉に遮蔽物へ飛び込む。その直後――。
ドゴォォン!!
凄まじい爆炎が指揮通信車下部から噴き上がった。履帯が吹き飛び、数十トン級の車体が大きく傾く。通信機材が火花を散らし、内部から悲鳴と怒号が漏れた。
「指揮車被弾!」
混乱が一気に広がる。
敵兵達が怒号を飛ばしながら周囲へ探照灯を向ける。しかし、直前に主照明を破壊されたことで視界統制は崩れていた。熱源探知も通信障害の影響か反応が安定せず、敵部隊は暗闇の中で半ば手探りの警戒を強いられている。
だが、既にスパイダー班は位置を変えていた。瓦礫陰へ滑り込んだタックが、冷静に次弾を装填する。サカラは別方向へ移動しながら、短く呟く。
「後衛車、旋回開始。」(サカラ)
「早いな」(カバナー)
後衛装甲車が即座に機銃を旋回させ、周囲へ曳光弾をばら撒き始めた。赤い光線が夜の廃墟を切り裂き、瓦礫が砕け散る。
「見つけ次第撃て!」(ベリタテウ)
半壊した指揮通信車から、ベリタテウが姿を現す。顔面へ血を流しながらも、まだ戦意は失っていない。
「散開しろ! 連中は少数だ!」(ベリタテウ)
ベリタテウの判断は迅速だった。だが、既にスパイダー班は包囲圏の内側へ潜り込んでいる。
「ナルクン。」(カバナー)
「撃つ。」
後方へ回っていたナルクンが、携行対装甲弾を発射した。
シュゴォッ!!
後衛車両の履帯が吹き飛び、車体が横転しかける。
「後衛車被弾!」
「伏兵が複数いるぞ!」
指揮通信車を失ったことで、敵小隊の隊形は大きく乱れた。しかし、完全には崩れていない。装甲車両はなおも機銃掃射を続け、歩兵達も散開しながら応戦を始めていた。
その頃、別方向ではリッチ班も動いている。
迫撃砲陣地へ接近していたアイブル達は、崩落した店舗跡の陰から敵警戒兵を観察していた。
「警戒が上がったな。」(アイブル)
「スパイダー班が暴れたせいですね。」(ハウフ)
「だが、その分こちらへ意識が向いていない。」(アイブル)
アイブルが静かにナイフを抜く。
「今のうちに迫撃砲を潰す。」(アイブル)
その瞬間。「ピッ」という小さな警告音。アイブルが目を細める。
「……上か。」
次の瞬間、監視ドローンの赤色センサーが、廃墟上空で点灯した。
「発見――」
言い終わる前に、ハウフの射撃がドローンを撃ち抜く。しかし、遅かった。市街地奥から、新たなエンジン音が響く。一台ではない。
「……増援。」(ハウフ)
アイブルは舌打ちした。
「想像より早いな。」(アイブル)
「こちらアイブル。増援を確認。数は不明、ただし複数車両だ。」(アイブル)
無線越しに舌打ちが聞こえた。
「迫撃砲を止める前に来やがったか……」(浪城)
「大隊長、前線も限界です。敵の展開速度が想定より早い」(竹下)
「分かってる。だから急げと言ってるんだ。こっちだって怪我人が出てんだぞ!」(浪城)
「大隊長、無茶言わんでください。皆、ギリギリのところで戦っているんです!」(竹下)
「こちらスパイダー01。こちらにも敵増援。」(カバナー)
無線越しの報告とほぼ同時だった。
市街地各所で警報灯が点灯し始める。赤色灯が夜の廃墟を照らし、異星語の警戒放送が建物群へ反響していた。遠方では、新たな装甲車両のエンジン音が次々と重なっていく。
「完全に起こしたな……」(竹下)
浪城は暗視装置越しに市街地奥を睨んだ。
探照灯、監視ドローン、増援車列。
敵側も、既に局地戦ではなく“市街地防衛戦”へ移行している。
「総員、第二戦闘配置へ移れ。これより長期交戦を想定する」(浪城)
その直後、遠方の高架道路上で閃光が走った。数秒遅れて、重低音の砲撃音が響く。
「……まだ来るのか」(ハウフ)
小倉市街地は、完全に目を覚ましていた。
登場人物紹介
GASTスパイダー班
カバナー(班長)
サカラ
タック
ナルクン
GASTリッチ班
アイブル(副班長)
ハウフ
浪城 激……第1空挺団第2普通科大隊長
竹下 泰端……第1空挺団第2普通科大隊所属
ピピリ・ベリタテウ……ゴリラ柄獣人の陸軍中尉




