第199話 市外戦突入
カラーノです。
隊員達は着地した直後から動いていました。パラシュートを切り離し、装備を回収し、そのまま市街地側へ前進していく。休憩も整列もありません。戦場へ直接投げ込まれた部隊の動きでした。
「先遣隊は前へ! 市街地入口を確保する!」(浪城)
第一空挺団が、小倉市街地へ向けて進み始めます。私達GASTも、その側面へ付きました。崩れた高速道路の先、市街地中心部が見えます。ですが、そこにあったのは、やはり“日本の街”ではありませんでした。
海風の中を、私達は瓦礫沿いに前進していました。
崩れた高架の向こうに、高層ビル群が見えます。外壁には、見慣れない文字が青白く投影されていました。道路上を走っていた大型輸送車両も、人類のものとは形が違います。
「止まるな。見られるぞ」(BJ)
その声で、私は即座に身を伏せました。次の瞬間、遠くのビル屋上をサーチライトが横切っていきます。
「巡回だ」(秋口)
小倉は、もう日本の街じゃありませんでした。その光は、一定間隔で道路を舐めるように動いていました。監視塔だけではありません。高層ビルの壁面、崩れた商業施設の屋上、高架上――至る所へ監視装置が設置されています。
「監視網が細かいですね……」(カラーノ)
「軍事都市ってやつだ。居住区ごと防衛網へ組み込まれてる」(エルメス)
第一空挺団の先頭が、瓦礫帯を縫うように前進していきます。空挺隊員達は無駄口を叩きません。視線だけで周囲を確認し、遮蔽物から遮蔽物へ移動していく。その途中、道路脇に放置された車両が見えました。日本車とは程遠い形をしています。窓には異星文字の通行証が貼られ、車体横にはグーリエ軍の識別塗装まで追加されています。
破壊して終わりではない。住み着いている。それが伝わってきます。
前方を進んでいた浪城二佐が拳を上げました。全部隊が即座に停止します。
「前方交差点、敵巡回」(浪城)
双眼鏡越しに、私も道路先を確認しました。重武装のグーリエ兵が6名。その中央には、人間より頭一つ大きい鬼のような兵士も混じっています。肩には大型火器。周囲を警戒しながら交差点を横断していました。
「正面からやるか?」(浪城)
「馬鹿、脳筋。ここで撃てば市街地全部に気付かれます。」(竹下泰端:一等陸尉)
「おい、何か余計な言葉が混じってるぞ?」(浪城)
BJ班長は、周囲の建物配置を確認しています。
「ガーツ、右上」
「シャーク、エルメス、裏路地」
「カラーノ、俺と来い」
「了解」(カラーノ)
私達は瓦礫の陰を使い、巡回部隊の側面へ回り込みます。近い。声が聞こえる距離でした。
鬼人族の兵士が、低い声で何かを話しています。意味は分かりません。ですが、警戒しているのは伝わってきました。
その時です。ビル壁面の大型投影広告が切り替わりました。青白い光が、交差点一帯を照らします。私は息を止めました。
「――っ」
鬼人族の兵士が、こちらを向きます。BJ班長の声が落ちました。
「……やるぞ」
次の瞬間でした。
パァン!
ガーツさんの狙撃が、先頭兵の頭部を撃ち抜きます。同時に、BJ班長が瓦礫を飛び越えました。
「制圧!」(BJ)
市街地戦が、始まりました。
タタタタン!
至近距離で銃声が炸裂します。先頭を歩いていた兵士が倒れ込み、残る敵兵が即座に散開しました。遅くありません。訓練された動きでした。
「接敵! 接敵!」(ルスティナ・レグース陸軍兵士長)
虎型の兵士が、鋭い声を飛ばします。同時に、道路脇へ滑り込みながら自動火器を構えました。
「(反応が速い!)」(カラーノ)
「伏せろ!」(BJ)
直後、重火器の連射が道路を抉ります。砕けたアスファルト片が雨のように跳ねました。私は停止車両の陰へ飛び込み、そのまま照準を合わせます。
鬼人の兵士は、既にこちらの位置を読んでいました。大型火器を構えたまま、交差点中央へ出てきます。
「来るぞ!」(秋口)
タタタタタッ!
重い連射音がします。空挺隊員達が即座に遮蔽物へ散りました。撃ち方が荒くありません。制圧しながら、こちらを動かさない射撃です。
「市街地戦慣れしてる!」(楽)
「そりゃそうだ。奴等は20年以上ここを支配してる!」(浪城)
浪城二佐が笑うように吐き捨て、そのまま前へ出ます。
「前進止めるなァ!」(浪城)
「隊長! 出過ぎです!」(竹下)
ですが、空挺団側も止まりません。第一空挺団の隊員達が、左右建物内へ一斉に突入していきます。ガラスが砕け、内部から短い銃声が響きました。建物ごと制圧している。私は呼吸を整え、照準を固定します。
隊長と思われる鬼人の兵士、大型火器を抱えたまま、それでも周囲への指示を止めていません。
「右警戒! 上を取らせるな!」(フランシス・デー兵士長)
その瞬間、BJ班長が低く呟きました。
「カラーノ」(BJ)
「はい」(カラーノ)
「頭を抜け」(BJ)
私は頷きます。件の鬼人が、こちらを向きました。赤い眼。その視線が、真正面から私を捉えます――見つかった。そう思った瞬間でした。
パァン!
私の射撃が、鬼人の額を撃ち抜きます。巨体が、交差点中央へ崩れ落ちました。
「デー支隊長!」(レグース)
虎型の女兵士が叫びます。ですが次の瞬間には、即座に状況判断していました。
「撤退! 北側警戒線へ後退!」(レグース)
「逃がすな!」(浪城)
空挺団が追撃へ動きます。ですが、虎型の女兵士は煙幕弾を投げ込み、そのまま裏路地へ飛び込みました。
「撤退判断が早い…」(カラーノ)
「伝令役を兼ねてたな」(BJ)
BJ班長は煙幕の向こうを睨んでいます。
「もう街全体へ回った。『敵空挺部隊、市街地侵入』――これで隠密行動は終わりだ」(BJ)
その時でした。市街地奥、サイレンが鳴り始めます。低く、不気味な警報音でした。ビル壁面の投影広告が、一斉に切り替わります。そこへ表示された異星文字は読めません。ですが意味だけは分かりました。遠くで金属的な警報音が連続し、高架上では装輪車両の駆動音まで響き始めます。
警戒態勢――小倉全体が、私達を敵として認識しました。
登場人物紹介
竹下 泰端
生年月日:1982年4月30日 / 出身:埼玉県
階級:一等陸尉 / 所属:第1空挺団第2普通科大隊
フランシス・デー
種族・性別:赤鬼型鬼人族の男性
所属・階級:陸軍兵士長で、第8北九州統治軍第41市街地警戒連隊第3警戒中隊巡回第12支隊長
ルスティナ・レグース
種族・性別:虎型獣人族の女性
所属・階級:陸軍兵士長で、同第18支隊長
カラーノ……本作のヒロイン
浪城 激……第1空挺団第2普通科大隊長
BJ……GASTピットブル班の班長
シャーク……GASTピットブル班の副班長
エルメス……GASTピットブル班所属
ガーツ……GASTピットブル班所属
秋口 将光……第1水陸機動連隊第1中隊所属
楽 慎司……第1水陸機動連隊第1中隊所属




