第19話 嵐の前にも嵐
お久しぶりです。段場隼人です。登場するのは、14話以来でしょうか。登場はしませんでしたが、真面目に任務をこなしていましたよ。
9月22日、この日は真鶴一中に兵站拠点を築くべく、付近の哨戒任務を35普連1中隊が、そして、海上からの敵の上陸に備えて、僕ら2中隊が海沿いを哨戒することになった。
僕らは、国道から海上を警戒していた。グーリエ星人の姿は目視出来ないが、波と潮風の強さが頬を叩く。この波の強さなら、海に落ちると水棲種に襲撃されなくとも命を落としそうだ。哨戒任務にも緊張が走る。
「こちら郷。真鶴岬で交戦中。」
無線が叫んだ。
「敵多数!」(郷)
高機動車の中で空気が凍る。
「2中隊、援軍を送れるか。」(片桐)
「可能です。」(和戸一暁一等陸尉)
「段場、苫米地。出るぞ。」(地頭)
真鶴岬へ向かう班に僕と杏南も選ばれた。緊張が走る。グーリエ星人だったら戦闘は免れない。今度は、昨日のようなヘマはしない。
「民間人が遊んでいるなんてことはない。グーリエ星人とみて間違いない。」(地頭)
選ばれた10人の隊員が、高機動車に乗り込み、真鶴岬へ向かう。
「銃声が聞こえますね。」(隼人)
「ああ、こりゃ、戦闘に入ってるな。」(亜久)
僕達は弾倉を装填し、降車後すぐに叩けるよう準備をした。国道135号線から、真鶴半島公園線で僕らは高機動車から降り、速足で自然公園まで向かう。銃声も次第に大きくなり、戦場の喧騒が僕らを包み込む。
「内久保士長!」(隼人)
「向こうには、川田三曹が…。」(杏南)
「もう死んでる…。」(新山)
「行くぞ。これ以上、犠牲者を出すな!」(地頭)
岬が見えてくると、情報小隊とグーリエ星人が戦っていた。相手は、半漁族や河童族のようだ。数では…敵の方が多い…。情報小隊は劣勢…。
「諏訪と段場、苫米地は、怪我人の救護を。残りは戦闘用意だ!」(地頭)
TATATATANG! TATATATANG!
地頭曹長の指示で、僕らは散開し、グーリエ星人へ攻撃を開始する。僕と杏南、諏訪一士は、その隙に怪我人を救護する。
「うう……」(七井)
「頑張ってください…。」(隼人)
僕が救護した七井雄二二等陸曹は、銃弾が脇腹をかすめただけなのに、肉が抉れている。止血をしているが、血が止まらない。
「段場、諦めるな! 七井二曹も戦っているんだ!」(江鹿)
江鹿一曹の激が飛ぶ。僕も必死で患部を圧迫し、止血を行う。僕が、止血に集中しているそんな時、グーリエ星人の叫び声が響き渡った。振り向くと、銀色の閃光が走った。敵の胴体が、斜めにずれて崩れ落ちる。剣を振り抜いて立っていたのは――杏南だった。
杏南は敵から鹵獲した剣を使い、グーリエ星人を数体、切り倒していた。はて、杏南は僕と同じで救護任務だったはずだが?
「すみません、その…成り行きで…」(杏南)
「いや、上出来だ(何だ、あの戦闘能力…。しかし、苫米地のお陰で助かった。)」(亜久)
「今だ!」(地頭)
地頭曹長の号令により、敵の隊長と思わしきグーリエ星人に、一斉射撃を行う。
「ぐわああああ」
「撤退、撤退だ!」
生き残ったグーリエ星人たちは、海へ飛び込み、撤退していく。
「ここまでだ。我々は海中に対応できる武器がない。」(地頭)
「地頭曹長、援軍感謝する。」(郷)
「郷三尉、それよりも、怪我人の救護を急ぎましょう。」(地頭)
僕らは、怪我人の救護と遺体の回収を行った。杏南の驚異的な戦闘力で状況を打開できた。杏南の強さは実戦でも驚異的だった。心なしか上官達も驚いていたように見える。
海中へ逃げたグーリエ星人たちは、海自の新装備、「攻撃・妨害型水中ドローン・剣魚や「作戦遂行型小型無人潜水艦・叢雲」が駆逐していったと、その日の夜に知った。僕が救護した七井二曹は、一命はとりとめるも、まだ意識が戻っておらず、余談は許さない。
今日は、各所でも、グーリエ星人らしき姿が目撃されていたようだが、怪我人が複数出たものの、死者は出なかったとの事だ。僕らが戦った真鶴岬でのみ死者を出してしまった…。
また、この日の21:45、さらに訃報が届く。園山中隊長と、榊原三曹、下葛三曹が搬送先の病院で亡くなったとの知らせが入る。
「なんて…ことだ…。」
誰かが震える声で呟いた。僕の胸にも、鉛を流し込まれたような重い痛みが広がった。また仲間が…。
これで35普連の死者は、7名となった。同じ釜の飯を食う仲間が、こうも容易く命を落とすのは、何度経験しても辛い。
仲間の死の知らせに、若手隊員たちの間にはどよめきが広がり、中には声を上げて泣き出す者もいた。しかし、ベテラン隊員たちはただ黙って、静かに耳を傾けていた。その姿は、まるでこの悲劇に慣れ切っているかのようだ。そのうち慣れるなんて言われるが、果たして慣れるのがいいことなのか……。
片桐連隊長は、2中隊に対して、粛々と指示を出す。近々、新しい中隊長を本部管理中隊から派遣するが、中隊長の代理は当面、和戸一尉が努める、と。
和戸一尉は、普段と変わらぬ冷静さで指示を出していた。しかし、その目の奥には、計り知れない悲しみと、そして重い責任の光が宿っているのが見て取れた。
彼は、僕ら若手隊員の動揺をすべて受け止め、その上で、明日を生き抜くための道を示そうとしている。 和戸一尉の背中が、戦場の厳しい現実に直面し、一回り大きく見えた気がした。僕らは、和戸一尉の背中についていくしかないのだ。彼が僕たちの新たな「中隊長」として、先頭に立つことになる。そのためにも—。
とにかく寝よう。明日も任務は続くのだ。まだまだ序盤で、昨日の小規模戦闘だけで終わるわけがない。休めるうちはとことん休んで、疲労回復に努めないと。
― 2020年9月23日 6:50 ―
遠くで爆発がした。朝食を摂っていた僕らに、緊急の連絡が来た。
「別部隊が、大月で戦闘に入った!?」
食堂の空気が凍りついた。大月――。ここから遠く離れた山間の町だ。
その時の僕らは、まだ知らなかった。この戦いで、仲間を失うことになるとは。
郷 昴流……35普連情報小隊の小隊長
片桐 初……35普連の連隊長
段場 隼人……本作の主人公
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人。強さの片鱗を見せる。
新山 岳……35普連2中隊所属の三等陸曹
七井 雄二……35普連情報小隊所属の二等陸曹。負傷離脱。
内久保 太陽……35普連情報小隊所属の陸士長。戦死する。
川田 大地……35普連情報小隊の三等陸曹。戦死する。
本作に出てくる架空の装備品
攻撃・妨害型水中ドローン・剣魚……先端が鋭く、剣状のため、先端で攻撃も出来る。
作戦遂行型小型無人潜水艦・叢雲……空母から操縦している無人潜水艦。
電光……水中ドローン用の魚雷。小型ながらも素早く、電撃的な攻撃をする。
水燕……小型無人潜水艦用の魚雷。水中を燕のように自在に動き回る。




