第19話 嵐の予兆と山中の血戦
― 時間を巻き戻して、9月22日 22:00 山梨県大月市・菊花山周辺 ―
「なあ、何で俺たちが山なんだよ。」
「斥候だからだ。」
「13普連の方が適任じゃないですか?」
「愚痴は終わりだ。警戒しろ。」
西 友貴陸士長は、同期に愚痴をこぼしていた。今回招集された13普連は、全員レンジャー持ちの精鋭。レンジャー資格のない、自分よりも適任であろうと。
「おい、無駄話をするな。敵に聞かれたらどうする?」
野木 龍悟三等陸曹の忠告に、西は黙って頷いた。夜の山は、昼間とは全く違う顔を見せる。湿った土の匂い、木々のざわめき一つ、風の音一つが、神経をすり減らしていく。視界は月明かりだけ。10メートル先の木立ですら輪郭が曖昧だった。西は、背中に嫌な汗が伝うのを感じていた。そのとき、三笠 恭太陸士長が動きを止めた。
三笠の視線が一点で止まった。ゆっくり拳を上げる。全員が足を止めた。
「……いた。」
月明かりの下。木々の間に、3つの影。人ではない。尖った耳。闇の中で光る瞳。
「…エルフだ。」
野木が低く呟く。彼らの動きは滑らかで、ほとんど気配を感じさせない。まるで森の一部になったようだ。
「距離は?」
「100メートル弱」
「……もう少し引き付ける。」
野木は三笠と視線を交わす。わずかに頷く。2人は音を殺して一歩踏み出した。しかし、その前に夜の闇を引き裂く鋭い銃声が轟いた。
西は反射的に物陰に飛び込む。直後、耳元を「ヒュッ!」と風切り音が通り過ぎ、近くの木に弾丸が食い込んだ音がした。
再び銃声がした。乾いた音。直後、三笠の体が揺れた。
「ぐっ!」
左肩から血が噴き出す。
「くそっ!」
三笠の苦悶の声が聞こえた。西が恐る恐る顔を出すと、三笠が左肩を押さえて座り込んでいた。野木がすかさず応戦する。彼の小銃が火を吹くが、敵の動きは素早い。3つの影は、一瞬にして散開し、木々の陰に身を潜めた。
「三笠、大丈夫か!?」
「西、お前は下がれ。このままじゃ全滅だ。」(三笠)
「本部へ報告しろ。行け!」(野木)
「これは命令だ!」(野木)
西は躊躇した。仲間を見捨てるなど、訓練では習わなかった。だが、野木や三笠の決意に満ちた顔を見て、西はこれ以上ここにいることが、彼等の犠牲を無駄にすることになると悟った。
「…はいっ!」
西は彼らの覚悟を胸に刻み、暗闇の中を駆け出した。背後で、再び応戦の銃声が響く。
西が消えた森を見つめ、男が舌打ちした。
「一匹逃げたか。」
「まあ良い。資料にあった顔じゃない」
月明かりの下、長い耳が影を落とす。
「もっとも、次会ったら殺すがな」
登場人物紹介
西 友貴
生年月日:1998年10月16日 / 出身:新潟県
階級:陸士長 / 所属:第12偵察隊
備考:菊花山で斥候をしていた際に敵兵と遭遇。




