第197話 入口
カラーノです。
敵の対空火器は沈黙しました。これで補給線が繋がり、空挺作戦も実行可能になります。ですが、その前にやるべき事がありました。
「仲間の遺体を集めなさい。ヘリが来れば、家族の下へ帰してあげられる」(ビービ)
岩場の陰へ、47普連の隊員達の遺体が並べられていきます。さっきまで一緒に撃っていた仲間でした。泥と血で汚れた防具。砕けた小銃。海水に濡れた迷彩服。数えて、ようやく気付きます。――7人いない。20名いた47普連は、13名まで減っていました。
「伊原……竹田……曾根……皆……っ、チクショウ……」(蛭子)
蛭子二曹が、認識票を外していきます。声を荒げてはいません。ですが、手だけが震えていました。
誰も立ち止まりません。弾薬、生存装備、通信機。使える物から回収されています。次の戦闘が、もう決まっているからです。
「おい、物部。詩足。お前達は後送だ。その怪我だと、これ以上は無理だ。」(秋口)
「……まだ動ける」(物部匡臣:一等陸曹)
「動けるのと、戦えるのは別だ」(秋口)
物部一曹は何か言い返しかけましたが、結局、黙って視線を落としました。包帯には、まだ血が滲んでいます。
「物部一曹、命令に従いましょう。実際、俺達は足手まといだった…。」(詩足流:三等陸曹)
「……チッ」(物部)
物部一曹は、悔しそうに拳を握りました。ですが、反論はしませんでした。自分でも理解しているからです。ここから先は、動けるだけでは足りない。
後方では、ようやく輸送ヘリの音が聞こえ始めていました。低いローター音が、海風と混じって岩場へ響きます。
「重傷者を先に運べ!」(ビービ)
隊員達が即座に動きます。担架が並べられ、止血帯の確認が行われる。戦闘直後とは思えないほど、全員の動きは機械的でした。慣れている訳ではありません。止まれないだけです。
「弾薬、残数確認!」(BJ)
「5.56、残り7マグ! 狙撃弾、半分切ってる!」(ガーツ)
「こっちもよぉ! グレネード減ってるわぁ!」(フロリアン)
各班が装備を再確認していきます。使える装備は死傷者から引き継がれ、破損した装備は岩場へまとめられていく。戦闘は終わっていません。次が始まるだけです。その時、後方の通信兵が声を上げました。
「対空沈黙を確認! 空挺降下ルート、安全圏確保!」
「来るぞ……空挺だ」(蛭子)
それまで黙っていた隊員達が、空を見上げます。疲労した顔でした。ですが、その目だけが少し変わっていました。
「空挺降下が始まれば、戦線は一気に前へ動く。私達も休めないよ」(ビービ)
「第一空挺団ですか?」(カラーノ)
「それと特戦群1中隊。先行浸透も始まる」(ビービ)
私は小さく息を呑みました。
遠くの空で、輸送機のエンジン音が大きくなっていきます。誰かが空を見上げました。
「来たぞ……」
雲の向こうから、黒い機影が現れます。一機ではありません。次々と編隊を組み、九州本土へ向かっている。
第一空挺団、そして、特戦群第1中隊。対空火器を失った空へ、ようやく増援が入ってくる。ビービ班長が立ち上がりました。
「休憩終わり。次が始まるよ」(ビービ)
私はライフルを持ち直します。戦闘は終わっていません。ようやく、進軍が始まるだけです。
登場人物紹介
物部 匡臣
生年月日:1989年1月3日 / 出身:神奈川県
階級:一等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊
備考:怪我により戦線離脱する
詩足 流
生年月日:1993年11月29日 / 出身:兵庫県
階級:三等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊
備考:怪我により戦線離脱する
カラーノ……本作のヒロイン
BJ……GASTピットブル班の班長
フロリアン……GASTピットブル班所属
ガーツ……GASTピットブル班所属
ビービ……GASTアマゾネス班の班長
蛭子 覚司……47普連所属
秋口 将光……第1水陸機動連隊第1中隊所属




