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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第192話 退路なき上陸

海面は荒れていなかった。だが、安定しているわけでもない。流れは一定ではなく、意図的に乱されているように見えた。


「左舷、接触。数、増えてる!」


低い報告に、秋口将光は視線だけを動かした。


敵は追ってきている。だが、それだけではない。退路側に、もう一群いる。


「……挟まれてるな」(秋口)


誰に向けたわけでもない独り言だった。無線には海自のやり取りが流れている。陽動は成功している。

だからこそ、こちらに圧が寄っている。


「後退ルート、もう使えません。流れも塞がれてます」


「分かってる」(秋口)


本来であれば、水陸両用車が前に出るべき局面だった。だが、数が足りない。揚陸能力は明らかに不足している。その不足を埋めるために、戦闘強襲偵察用(CCRC)舟艇や偵察用ボートが投入されていた。防御力はないに等しい。速さと機動だけで成立している編成だった。


部隊は、CCRCや偵察用ボートから随時脱落していく。視線の先で、小型ボートの一隻が波間に跳ねる。その動きは悪くない。操船も安定している。だが、問題はそこではない。撃たれれば終わり、落ちれば水棲種の餌食になる。それだけの話だった。


「う、うわあぁぁ」


偵察用ボートに乗る、押忍尾(おすお)来魁(こかい)三等陸曹に、スキュラ族の職種が巻き付いた。そのまま海へ引きずり込む算段だ。


「押忍尾!」


同じく偵察用ボートに乗る、林葉(はやしば)(べに)三等陸曹が、ナイフで触手を切り付けるも、背後から侵入してきた兵士に海へ突き落される。


「きゃああああ!」(林葉)


断末魔の叫びと共に落水。瞬く間に、当たりが血の海となった。


「は、林葉ぁ…」(押忍尾)


スキュラ族に巻き付かれた押忍尾もやがて力尽き、海に振り落とされてしまった。


「ボートに穴が開いた!」


「グラップル・ワイヤーで近くの舟に移れ!」


「馬鹿野郎、定員オーバーだ!」


「陽動は成立してる。向こうは確実に引きつけられてる――その分、こっちが削られてるがな」(秋口)


そのはずだった。しかし、足りない装備での陽動は、自分達の首も絞める。


陽動の目的は果たされている。GASTの上陸ルートは確保されつつある。ここでの役割は、すでに半分以上達成されていると言っていい。だからこそ、引く選択肢もあった。しかし、状況が変わった。GASTアイアン班が中央区画を爆破した後、壇之浦を攻めていた敵が後退した。その結果、水機団が挟撃される形となった。


「これでは、引くことも出来ん…」(秋口)


「曹長、このまま押すしか助かる道はないかと…」


その通りだった。しかし、自分達が上陸すると、引き付けていた敵が海自の方へ、もしくは再び壇之浦へ侵攻するだろう。それだけは避けたい。


次の瞬間、左舷側で水柱が上がった。直撃ではない。だが近い。続けて、もう1発。今度はCCRCの一隻のすぐ横に着弾した。衝撃で船体が傾き、バランスを崩す。立て直そうとした隊員が、波に足を取られた。


「――っ!」(外薗智樹(ほかぞの ともき):二等陸曹)


声は最後まで続かなかった。水面に落ちた身体が、すぐに視界から消える。手を伸ばした隊員もいたが、間に合わない。船は止まれない。


「……」


無線が一瞬、完全に途切れた。復旧した時には、後方部隊の応答が消えていた。退路は「存在しないもの」として扱うべき段階に入っていた。誰も何も言わなかった。言っても意味がないからだ。拾いに戻る余裕はない。それを全員が理解している。


「航路維持。崩すな」(吾妻(あがつま)燿一(よういち):三等陸佐)


中隊長の指示は変わらない。むしろ、余計な動きを削るために短くなる。もう一隻が被弾する。今度は直撃だった。船体が裂け、破片が飛び散る。爆炎は上がらない。だが、その静かな破壊の方が現実的だった。速度が落ちる。編成に隙間が生まれる。


「……ここで引くか?」


誰かが呟いた。判断の確認ではない。ただの思考の漏れだ。秋口はそれを聞き流した。視線は前方から外さない。陸が見えている。それだけで十分だった。


「皆、聞け」(秋口)


声を少しだけ張る。


「退路は切れたと思え。ここからは上陸に切り替える。中隊長、よろしいですね?」(秋口)


「何か考えがあるのか?」(吾妻)


「このまま海に残れば、削られる。陸に出れば、まだ“線”が作れる」(秋口)


説明はそれだけだった。


「ここで沈むか、向こうで戦うか、そういう事か。よし、第1水陸機動連隊、上陸する。装備を切れ。軽くしろ。泳いででも行く」(吾妻)


命令が確定する。その直後、さらに一発が近くに落ちた。水柱が視界を遮る。通信が一瞬だけ途切れ、再接続される。


「……時間がないな」


秋口は小さく息を吐いた。前方の陸地が、はっきりとした形を持つ。暗かった輪郭が、現実として固定される。あそこまで行けば、まだ戦える。


「お前等、進め! 俺が道を切り開く!」(吾妻)


「中隊長!?」


「1中隊だけが勝手に作戦を変えるわけにはいかん! 誰かが責任を取らなくちゃいけない。それは、中隊長である俺の仕事だ!」(吾妻)


「中隊長………」(秋口)


「進め!」(吾妻)


吾妻は、同乗する部下達に声をかける。


「お前等すまねぇな、巻き込んじまって。」(吾妻)


「構いません。元々の作戦はここでの陽動。我々は、任務を続行しているに過ぎません。」(柿松(かきまつ)禎朗(さだろう):一等陸曹)


「自分は最期まで隊長へ着いていきます!」(日鏡(ひかがみ)颯天(そら):三等陸曹)


「覚悟は決まっているようだな。」(吾妻)


「例え、自分は故郷の土を踏めなくとも、多くの県民のため、その礎になります!」(柿松)




「対空装備を潰す。ここを通した以上、空が閉じていれば意味がない」(ビービ)


カラーノです。私は地図が広げ、すぐに現在位置と照合しました。守るだけでは足りません。この通路は“通すためのもの”であって、“維持するためのもの”ではありません。次へ進めなければ、この構造自体が無意味になります。


「私達が知っているのは、21年前の情報だ。この地図がどこまで参考になるか分からない。スパイダー班はまず、この辺りを偵察だ。対空装備の破壊は、ピットブル班と47普連で行う。」(ビービ)


「了解」(カバナー)

「了解だ」(BJ)


その時です。水面の向こう側で、銃声の質が変わりました。


断続的だった音が、短時間に集中しています。単発でありません。連続した制圧射撃に近いです。私は視線を海側へ向けた。


「……新規接触、海側から」(カラーノ)


「足音は規則的だが、疲れてるな。」(BJ)


「敵ではないね。数は10人に満たない。」(ビービ)


「状況からみて、水機団の生き残りかしら。」(ローレライ)


結論は、すでに出ていました。私が分析する前に、判断は終わっていました。ですが必要なのは、識別ではなく、配置です、


「お前等の作戦…俺達も一つ噛ませてくれ…」(秋口)


複数の影が一斉に足場へ取り付き、迷いなく上がってきました。声と同時に私達は、銃口を向けます。上がってきたには水機団。動きに無駄はありません。疲労は見えますが、目はまだ死んでいません。


先頭に立っていたのは、秋口助教でした。あのレンジャー訓練以来です。ですがここは戦場、感傷に浸っている暇はありません。お互い戦力として使えるかどうか、これが大事です。




秋口は足場に上がると同時に、周囲を一瞥した。視線は流れない。必要な箇所だけを拾っていく。構造、射線、各班の配置、そして指揮の中心。


「……通路は生きてるな」(秋口)


確認の言葉だった。感想ではない。


「最低限だが成立している」(ビービ)


短く返る。初対面に近いはずだが、会話はそれで十分だった。互いに、相手が“分かる側”だと理解している。秋口の視線が、次にカラーノへ向いた。


「……久しぶりだな」(秋口)


声は低い。だが、余計なものが一切混じっていない。


「はい、お久しぶりです、助教。」(カラーノ)


秋口は一度だけ小さく頷く。



「私達は二手に分かれ、周囲の偵察と対空装備の破壊を行う。水機団は、ピットブル班と共に対空装備の破壊を行え。」(ビービ)


「了解した。」(秋口)


「大丈夫? 怪我人もいるみたいだけど?」(スライス)


「問題ありません。俺達だって伊達に鍛えてませんからね。」((らく)慎司(しんし):陸士長)


「水機団は、何年も苛烈な戦いを経験してきた部隊だ。その経験値はGASTをも凌ぐ。充分な戦力になる。」(BJ)


秋口の隊員たちは散開し、迷いなく海側の縁へ張り付いた。動きに無駄はない。疲労は明確だが、崩れてはいない。


「……線が増えたな」(BJ)


誰に言うでもなく呟く。


「維持可能時間、延びました」(カラーノ)


即座に補足する。ビービが地図を叩いた。


「なら予定通り進める。対空装備を潰す。ここを通った以上、止まる理由はない」(ビービ)


異論は出ない。秋口は一度だけ後方――海を振り返った。そこにはもう、戻るべき場所は残っていない。


「……いいな。ここから先が本番だ」


小さく言い、視線を前に戻す。銃声が再び重なった。だがその質は、先ほどまでとは違う。押される音ではない。拒む音でもない。――前へ押し出す音だった。


カラーノは照準を固定する。この構造は不完全だ。だが、成立している。人員も同じだ。欠けている。だが、繋がっている。ならば十分だ。


「……進みます」(カラーノ)


登場人物紹介

押忍尾おすお 来魁こかい

生年月日:1992年8月10日 / 出身:長崎県(対馬)

階級:三等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:スキュラ族の兵士に巻き付かれ、海に落とされる

享年:29歳


林葉はやしば べに

生年月日:1992年10月23日 / 出身:鳥取県

階級:三等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:ボートに侵入した敵兵に海へ突き落され、海中で水棲種により殺害される

享年:29歳


外薗ほかぞの 智樹ともき

生年月日:1989年3月27日 / 出身:山口県

階級:二等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:海へ転落後に海中で水棲種により殺害される

享年:32歳


吾妻あがつま 燿一よういち

生年月日:1975年6月14日 / 出身:熊本

階級:三等陸佐 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊の中隊長

備考:秋口達を九州へ上陸させるべく、関門海峡で奮戦するも死亡

享年:46歳


柿松かきまつ 禎朗さだろう

生年月日:1982年5月19日 / 出身:長崎

階級:一等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:吾妻の乗る水陸両用車に乗っていた。吾妻と共に死亡

享年:39歳


日鏡ひかがみ 颯天そら

生年月日:1995年9月8日 / 出身:岐阜県

階級:三等陸曹 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:吾妻の乗る水陸両用車に乗っており、吾妻と共に死亡

享年:26歳


らく 慎司しんし

生年月日:1999年8月20日 / 出身:大阪府

階級:陸士長 / 所属:第1水陸機動連隊第1中隊

備考:秋口と共に北九州へ上陸。両親が福岡出身


秋口あきぐち 将光しょうこう……第1水陸機動連隊第1中隊所属。カラーノがレンジャー試験を受けた時の助教

ビービ……GASTアマゾネス班の班長

スライス……GASTアマゾネス班の副班長

BJ……GASTピットブル班の班長

カラーノ……本作にヒロイン

カバナー……GASTスパイダー班の班長

ローレライ……GASTセイレーン班の班長


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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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