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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第190話 残すもの

銃声は途切れなかった。だが、押し返している感触はない。撃てば弾く。弾けば、別の位置から取り付かれる。足場の下で水が揺れるたびに、新しい影が増えていく。


「下、また来る!」


誰かの叫びと同時に、鉄骨の裏側で衝撃が走る。固定しかけていた部材がわずかにずれ、足場全体が軋んだ。


「支点が持たない、負荷が偏ってる!」


作業班の声が飛ぶ。だが、手は止まらない。止めれば崩れると分かっているからだ。その“分かっている”という前提が、動きを鈍らせる。


上では狙撃が続いている。伏せる、起きる、そのわずかな動きに合わせて弾が来る。完全に抑え込まれているわけではないが、自由はない。


「くそ、顔を出した瞬間を抜いてくる……!」(コーカー)


反撃は成立している。だが主導権はない。撃っているのに押されている。そんな感覚だけが残る。


足場の中央付近で、小さな崩れが起きた。鉄骨の噛み合わせが外れ、仮固定の一部が沈み込む。


「中央、ズレてる!このままだと――」(福井優馬(ふくい ゆうま):陸士長)


そう叫んだ福井は、最後まで言い切る前に、スキュラ族の兵士に海へ引きずり込まれた。辺りが鮮血で染まる…


「うあ……福井…」


「そこから離れろ!」(ガジ)


再び衝撃が走る。今度は下からだ。潜り込んだ敵が内側から構造を叩いている。


「内側に入られてるぞ!」


「剥がせ、これ以上入れるな!」


応射が集中するが、角度が悪い。撃つたびに位置が割れ、次の弾を呼び込む。


コーカーが一歩前に出る。前線の密度を無理やり押し上げ、中央へ圧をかけるが、敵は下がりきらない。踏み留まるというより、散らばって残る。


「押し返せないな……」


誰かが低く呟いた。その通りだった。押し返すには遅い。維持するには崩れすぎている。


ガジはその光景を一通り見渡した。上、下、中央。どこを見ても“足りていない”。撃てば弾くが、弾けば別の位置から取り付かれる。押し返す動きは成立しているのに、前に進む気配がない。


「側面、回せないのか」(コーカー)


「回せない。下から入られてる。位置が持たない」(ガジ)


短いやり取りで、残っている選択肢が消えていく。横へ広げる余裕はない。押し上げても、足場そのものが耐えない。中央付近で、再び小さな崩れが起きる。仮固定の噛み合わせが外れ、負荷が一気に偏る。そして、海へ転落した隊員達が、水棲種の餌食となった。


「……だめだ、このままだと全部持っていかれる」(コーカー)


ガジは応じなかった。視線だけが中央に固定される。守ろうとしている場所に、敵の密度が集まっている。その構図が変わらない限り、何をしても遅れる。


担架の方へ、一瞬だけ視線が流れる。


「……全員、聞け」(ガジ)


声は低いが、迷いはなかった。


「このまま維持は無理だ。中央を残したままじゃ、全部落ちる」


誰も動かなかった。理解が追いついているからではない。すでに同じ結論に触れているからだ。


足場の中央、まだ固定が甘い区画がある。敵はそこに集中している。狙撃も、上陸も、あそこを軸にして崩しに来ている。


「コーカー」(ガジ)


「何だ?」(コーカー)


「中央区画、切り離す」(ガジ)


一拍の間があった。理解にかかる時間ではなく、意味を飲み込むための間だった。


「……正気か? まだ人がいるぞ」(コーカー)


「分かってる」(ガジ)


ガジは即答する。


「だから時間を作る。2分だ。2分で引かせる」(ガジ)


言いながら、頭の中で手順を並べる。爆薬の配置、支点の位置、落とした後の負荷分散。計算は粗いが、他に選択肢はない。


「アイアンは作業継続。止めるな」(ガジ)


「了解!」


即答だった。内容よりも命令として受け取られている。


「あんた等は、中央に突っ込め。押し返すんじゃない、“剥がして下げる”」(ガジ)


コーカーの口元がわずかに歪む。


「2分持たせりゃいいんだな」(コーカー)


「ああ。それで十分だ」(ガジ)


「……やってやろう。」(コーカー)


指示はそこで終わりだ。細かい説明は不要だった。各員が、それぞれの解釈で最適な動きに入る。


コーカーが前に出る。銃声が密度を増し、足場中央へと集中する。近接戦闘に持ち込み、無理やり敵を引き剥がしていく。押し込むのではなく、踏み留まらせない動きだ。同時に、アイアン班の数名が支点に潜り込む。震える鉄骨に身体を預け、手早く爆薬を仕込んでいく。


「あと1分」(ガジ)


ガジは呟いた。誰に聞かせるでもない。中央区画で一瞬だけ、視界が開ける。敵の密度がわずかに下がった。その隙を、作業班が逃さない。


「設置完了!」


「退け!」


声と同時に、全員が動く。中央から外へ、負荷のかからない側へと流れる。ガジは最後に一度だけ振り返る。あそこには、さっきまで人がいた。今もいるかもしれない。だが、確認する時間はない。


「……起爆」(ガジ)


低い声で言い切る。次の瞬間、鈍い衝撃が足場を揺らした。中央区画が崩れ、鉄骨ごと海へ落ちる。水柱が上がり、敵影がまとめて引き剥がされる。完全な排除ではない。だが、流れは切れた。残った足場が、軋みながらも持ちこたえる。


「……これでいい。残すべきは、ここじゃない」


ガジは小さく息を吐いた。


その言葉に、誰も答えなかった。だが、手は止まらない。作業は続いている。それで十分だった。


登場人物紹介

福井ふくい 優馬ゆうま

生年月日:1999年11月27日 / 出身:島根県

階級:陸士長 / 所属:第380施設中隊

備考:スキュラ族の兵士に海中へ引きずり込まれ死亡

享年:22歳


ガジ……GASTアイアン班の副班長

コーカー……特戦群2中隊所属。隊長格と思われる

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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