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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第189話 通路は戦場

海は静かだった。だが、それは何もないという意味ではない。関門海峡の流れは複雑だ。潮と構造物が干渉し、音も光も歪む。その歪みの中に、日本人特有の“規則”が混じっていた。一定間隔の打音。光の移動速度。無駄の少ない往復動作。


「……やはり来たか」


ゼンピー・ゼムブラは、わずかに視線を細めた。


こいつ等は愚かだが学習する。前回と同じ形は取らない。だが、効率を優先する以上、似た配置には収束する――そう読んでいた。


「構築位置、予測線上。誤差は小さい」(デミアン・ファリウス海軍軍曹)


報告に頷く。予測は外れていない。ならば崩し方も、予定通りでいい。


「狙撃班、目標は中央に固定するな。 “動かしている個体”を落とせ。指示ではなく、手を止める」(ゼムブラ)


指揮官を撃てば代替が立つ。だが、手を動かしている者は替えが利かない。日本人の特性だ。短い沈黙のあと、応答が返る。


「了解」


「上陸班、焦るな。最初の一撃で出るな」(ゼムブラ)


ゼムブラは海面を見下ろした。わずかな揺らぎの下に、部隊が待機している。


「乱れが出てからだ。奴等は“整っている間”が最も強い」(ゼムブラ)


その認識は、経験から来ていた。数は多い。反応も速い。だが、崩れた瞬間に判断が遅れる。そこに差し込めばいい。


「……撃て」(ゼムブラ)


乾いた音が一発、空間を裂いた。直後、反応が広がる。伏せる、叫ぶ、動きが止まる。予想通りの乱れだ。だが、ゼムブラはすぐには動かさない。もう一拍、もう一つ、判断を遅らせる。


「今だ。行け!」(ゼムブラ)


号令と同時に水面が裂ける。上陸部隊が一斉に浮上し、最短距離で鉄骨へ向かう。抵抗は織り込み済みだ。問題はそこではない。


「構築を止めろ。殺す必要はない。手を止め続けろ」(ゼムブラ)


日本人は“目的”に縛られる。作ると決めた以上、作業を捨てきれない。その執着を利用する。


「狙撃班、継続。露出個体ではなく、“復帰しようとする個体”を狙え」(ゼムブラ)


撃たれて伏せた者ではない。起き上がろうとする者を落とす。そうすれば、周囲の判断がさらに鈍る。再び、乾いた音が重なる。戦場が少しずつ歪んでいく。


「……まだ折れないか」(ゼムブラ)


小さく呟く。軽蔑ではなく、評価に近い響きだった。日本人は脆いが、しぶとい。完全に折れるまで、手を離さない。


「だが――通す理由にはならない」(ゼムブラ)


視線を上げる。鉄骨の上で、まだ動こうとしている影が見える。来るなら潰す。通そうとするなら、折る。順番を間違えなければ、それで十分だ。


「第10上陸小隊、前進を維持しろ。止めるな」(ゼムブラ)


静かな指示が、海面下へ沈んでいった。




乾いた一発の直後、現場の空気は確かに止まった。


「班長――!」


呼びかけに応答はない。だが、完全に崩れたわけではなかった。数名がすぐに姿勢を戻し、タハへ駆け寄ろうとする。その“動き”を、次の弾が断ち切った。パァン、と間を置かずにもう一発。


「ぐわっ」


起き上がりかけた隊員の肩口が弾け、再び全員が伏せる。


「……起き上がるタイミングを狙っているな…」(ガジ:アイアン班副班長)


ガジが低く呟く。撃たれているのは”露出”ではない。立て直そうとする動きそのものだ。


「頭を上げるな、まだ見られてる!」(ガジ)


指示が飛ぶが、作業は止めきれない。止めれば終わると分かっているからだ。その一瞬の迷いに、海が応じた。足場の下、暗い水面が不自然に歪む。


「――来るぞ、下だ!」


叫びと同時に、水面が裂けた。複数の影が一斉に浮上し、鉄骨の裏側へ取り付く。掴むのではなく、滑り込むように侵入してくる。


「上陸部隊!」


「剥がせ、下から来てる!」


銃声が下向きに走る。だが角度が悪い。撃てば自分の位置が割れる。一拍遅れて、敵の侵入が成立する。


「……遅らせて合わせてきたな」(ガジ)


ガジが吐き捨てるように言う。狙撃で動きを止め、起き上がりを叩き、その隙に上陸。順番が綺麗すぎた。偶然ではく、狙ってやったのだと分かる。


「ガジ、どうする?」


短い問いが飛ぶ。視線の先には、動かないタハと、まだ続いている固定作業がある。どちらを優先するか…


「……構築を止めるな」(ガジ)


間を置かずに答えた。


「アイアンは手を動かし続けろ!」


「了解!」


応答は即座だった。役割が切り分けられる。


「タハ班長は搬送する。存分に暴れろ!」(ヨネ:GASTスサノオ班所属)


「任せろ! 戦闘指揮はこのコーカーが執る!」(コーカー:特戦群第2中隊)


スサノオ班(医療班)が入り、衛生処置に入る。その間にも、足場の下では敵影が増えていく。


役割が分離される。戦闘と構築が、同時に回り始める。足場の下では、なお水が揺れている。


「来るなら来い。通すための道だ」(ガジ)


ガジが低く言う。それは自分たちに向けた言葉でもあった。止められても、崩されても、それでも手を止めない。その執着を見越して、敵は撃ってきている。だからこそ――止めない。


登場人物紹介

ガジ……GASTアイアン班の副班長、狙撃されたタハに変わり、アイアン班の指揮を任される

コーカー……特戦群第2中隊所属。隊長格と思われる。

ヨネ……GASTスサノオ班の隊員


ゼンピー・ゼムブラ

種族・性別:河童族の男性

所属・階級:海軍少尉で、第3領海警備隊第10上陸小隊小隊長


デミアン・ファリウス

種族・性別:半漁族の男性

所属・階級:海軍軍曹で、第3領海警備隊第10上陸小隊の観測手


GASTスサノオ班……GASTの医療班

※以前、後方支援班と表記しましたが、より明確に「医療班」としました

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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