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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第185話 緊急出動

苫米地杏南です。


午前の訓練が終わったあと、休む間もなく次の課題が提示されました。呼吸が整いきる前に装備を再確認します。ここでは、間があること自体が例外のようです。


「次は分断状況を想定する」(茶頭)


教官の声が淡々と響きます。


「通信は途中で遮断される。指揮系統も崩れる前提だ。各自で判断しろ」(茶頭)


説明は簡潔でしたが、意味は重い。つまり、統制が効かない状況でどう動くかを見られています。編成は先ほどと同じ。私が前、諏訪陸士長、万代一士、後方にクラウスレイさんとカンさん。


開始の合図と同時に前進します。先ほどよりも速度を上げます。隊列を維持しつつ、視界の端で全員の位置を拾います。開始から数分で、無線が途切れました。


「……来たな」(諏訪)


「想定通りです」(杏南)


それ以上のやり取りは不要でした。ここからは、誰も助けてくれません。建造物に接近する途中、左側から敵役の接触。射線は限定的ですが、足を止めれば囲まれる位置です。諏訪陸士長が低く言います。


「一度下がって角度を取り直すべきです」


正しい判断です。損耗を抑えるなら、それが最適でしょう。ですが――遅い。一瞬で計算します。敵の配置、弾数、こちらの位置…リスクは高いけど、抜けられる可能性はあります。


「前進します」(杏南)


短く告げる。


「ここで止まる方が不利です」(杏南)


諏訪陸士長は一瞬だけ黙りました。


「……了解」(諏訪)


納得ではなく、従っただけ。その違いは分かります。私は速度を落とさず、遮蔽物を使いながら一気に距離を詰めます。撃ち返しは最低限。弾は温存する。万代一士の動きが遅れかけるが、振り返らない。


「ついてきて」(杏南)


それだけを伝えます。


結果として、敵役の射線を抜け、建造物の側面に到達しました。正面よりも防御は薄い。突入の形を取る。内部に入った瞬間、近距離での接触。判断に迷う余地はありません。射撃と移動を繰り返し、空間を確保していきます。


制圧は完了しました。


しかし、完全ではありません。被弾判定が一つ。万代一士の位置が崩れた影響です。終了の合図と同時に装備を下ろします。呼吸が少しだけ荒い。


「判断は速いな」


声がしました。クラウスレイさんです。


「ありがとうございます」(杏南)


「だが、余裕はない」(クラウスレイ)


淡々とした指摘でした。


「諏訪の案なら被弾はなかった」(クラウスレイ)


「……はい」(杏南)


分かっています。それでも選ばなかった。クラウスレイさんは視線を少しだけ細める。


「速さで押し切るやり方は、通用する時もある。ただし、崩れた瞬間に終わる」(クラウスレイ)


「……」(杏南)


言い返す言葉はありませんでした。


「使える判断だが、再現性が低い。お前の中で整理しろ」(クラウスレイ)


それだけ言って、視線を外します。諏訪陸士長は何も言いません。ただ、こちらを一度だけ見ました。その視線には、納得と違和感の両方が混ざっていました。万代一士は、装備を外しながら小さく息を吐いています。まだ余裕がない。カンさんは少し離れた場所でゴーグルを調整していました。


「……見え方、変わるんですか?」(杏南)


気になっていたことを聞いてみます。


「変わるな」(カン)


短い返答。


「距離感がずれる。慣れるしかない」(カン)


それだけでした。遠くで無線が入ります。


「――山口方面、交戦継続。増援要請あり」


今度は、さっきよりもはっきり聞こえました。誰も言葉を発しません。ただ、全員が同じ方向を見ている。


「聞いたな?」(茶頭)


教官の声が響きます。


「訓練は終了。出動の準備だ。」(茶頭)


「教官、今のまま我々が出撃するのは…。まだ、仕上がっていない」(ブエンテロ)


「戦線を維持するのが優先だ。それは、精鋭であるお前達の役目だ」(茶頭)


「……」


諏訪陸士長は何も言いません。万代一士は表情を引き締めています。クラウスレイさんは、既に装備を確認していました。GASTの先輩達は、目の色が変わりました。誰も迷っていません。準備が整っているわけでもない。それでも、動く。それが前提です。


一瞬だけ、呼吸が止まります。久しぶりの実戦です。さっきまでの判断が、そのまま結果になる場所。


「行くぞ」(ブエンテロ)


短い一言でした。


「はい」(杏南)


答えながら、自分の手を一度だけ見ました。さっきまでと同じはずなのに、少しだけ重く感じる。


速さだけでは足りない。分かっている。それでも――


「……やるしかないですね」(杏南)


誰に聞かせるでもなく、そう呟きました。ここは、そういう場所です。



「苫米地、お前のコードネームは“カラーノ”だ」


それだけです。意味も由来の説明もありません。


「……了解しました」(杏南)


訓練終了後、私は「カラーノ」というコードネームを授かり、ピットブル班への配属を告げられました。私と同じように、新たに加わった諏訪陸士長、伝川陸士長、万代一士もそれぞれ配属先が決まり、コードネームを授かりました。


名前を授かる――それはつまり、役割が変わるという事です。私も気持ちが整ってきました。


登場人物紹介

苫米地とまべち 杏南あんな……本編のヒロイン。GAST移動に伴い、コードネーム「カラーノ」となった。

諏訪すわ 明登めいと……35普連からGASTへ異動となった

万代ましろ 佑大ゆうだい……31普連からGASTへ異動となった

茶頭ちゃがしら 恋美瑞こみず……特戦群教育隊所属で、GASTの教官

クラウスレイ……GASTバイパー班の生き残り

カン……GASTタイガー班所属で、両目を負傷した

ブエンテロ……GASTアルバトロス班の班長

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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