第181話 止められているだけ
午前の訓練が終わり、僕は食堂で昼食を摂っていた。
「おい、たまには一緒に食おうぜ!」(星野)
同期の星野橘花が、トレーを片手に隣へ座る。こいつは要と仲が良かった。いや、正確には要に一方的に絡んでいただけだが。そんな彼女から声をかけてくるのは、珍しかった。
「どうした、急に?」(隼人)
「なんとなく。……1人で食うの、飽きた」(星野)
軽く言っているが、声はいつもより落ちていた。
「だいぶ減ったよね…」(星野)
ポツリと呟く。
「そうだな…」(隼人)
食堂を見回す。空席が目立つ。以前は、昼になれば席を探すのも一苦労だった。けど今は違う。どこでも座れる。
「さっきもさ、見送り行ってきたんだよ」(星野)
「……またか」(隼人)
「うん。でさ、戻ってくるじゃん。たまにだけど」(星野)
言葉を区切る。
「でもさ、“そのまま”で戻ってくるやつ、あんまりいないよね」(星野)
箸が止まる。
「……ああ」(隼人)
傷の話じゃない。それは分かる。
「この前もさ、病院で見たやつ、別人みたいになってたし」(星野)
「誰だ?」(隼人)
「名前は知らない。でもさ――」(星野)
少しだけ迷ってから、続ける。
「笑ってたんだよ。ずっと…」
その一言で、空気が変わる。
「……」
思い当たる顔が、1人浮かぶ。
「なあ、段場」(星野)
「ん?」(隼人)
「益子士長の件、聞いた?」(星野)
「いや、聞いてない。」(隼人)
「無期限停職で一階級降格だってさ。だから、今は一等陸士。アタシ等を同じ…。それに精神鑑定を受けて継続観察するんだと。」(星野)
「……」(隼人)
処分内容を聞いても、驚きはなかった。頭に浮かんだのは、報告書じゃなく、あの時の光景だった。撃っていた。躊躇いもなく、淡々と。そして――笑っていた。すぐ近くで、小城が顔をしかめていたのを覚えている。
「日本人だったかもしれない」
あいつはそう言っていた。
でも――益子一士は、何も言わず、気にしてる様子もなかった。
「……妥当だな」(隼人)
あれが異常だったのか、それとも正しかったのか――まだ判断はついていない。
ただ一つ分かるのは、あの場にいたのは、僕も同じだということだ。僕も撃った。違うのは、益子一士は映像で残っていたから。だから槍玉にあげられた。
「要も、どうなるのかな…」(星野)
「…分からない…」(隼人)
要は、謹慎中だ。処分は、まだ出ていない。だが――あいつが、あのまま大人しくしているとは思えなかった。命令を無視してでも前に出たやつだ。今も、規則で止められているだけで、気持ちは止まってはいないはずだ。今さら大人しくしているはずがない。
「……」
ふと、嫌な想像がよぎる。箸を持つ手が、少しだけ止まる。あいつは今――どこまでやるつもりだ。
登場人物紹介
段場 隼人……本編の主人公
星野 橘花……隼人の同期で、408会計隊所属




