第174話 選ばれた戦場
開票は、日付が変わる前に趨勢が決まった。
「共生未来党、過半数確実です」
画面の中で、アナウンサーが淡々と告げる。その横には、別の数字が並んでいた。
民意党――大幅減。
現職総理、永久井の名前の横に「落選」の文字はない。だが、それに近い意味を持っていた。政権は、終わった。
街頭では、歓声と怒号が混ざっている。
「戦争を止めろ!」
「ふざけるな、逃げるのか!」
スマートフォンを掲げて叫ぶ若者と、腕を組んで睨みつける中年の男。同じ言葉を使いながら、向いている方向が違っていた。
翌日、記者会見場。
フラッシュが断続的に焚かれる。
共生未来党の新総理・小高味一が、壇上に立つ。
視線は真っ直ぐだった。
「まず、今回の選挙結果について――」(小高)
静かな導入。
「これは、民意であると受け止めています。戦争のあり方を、改めて問われた結果です」(小高)
「結論から申し上げます」(小高)
会場のざわめきが、ゆっくりと収まっていく。
「オペレーション・ミネルヴァ――首都圏奪還作戦は、凍結します」(小高)
一瞬の空白の後、ざわめきが広がる。だが、完全な驚きではない。それでも、その言葉の重さは消えない。
「現在、当該地域では、一定の生活基盤が確認されています。住民の意思も、多様であり、この状況下での全面的な軍事行動は、再検討が必要です」(小高)
質問が飛ぶ。
「では、侵略を容認するのか!」
「自衛隊の行動を否定するのか!」
鋭い声だった。
「いいえ」(小高)
即答だった。
「我々は、防衛を放棄しません!」(小高)
「九州方面における奪還作戦は、継続します」(小高)
一瞬、空気が止まる。
「結局、暴力で解決させる気ですか?」
別の記者が食い気味に口を開く。
「現在、九州では、住民への直接的な被害が継続しています。これは、明確な武力による支配であり、現在進行形の危機です。よって、防衛行動として、作戦を継続します。」(小高)
「……では、首都圏は安全だというのですか!」
別の記者。声が強くなる。
「安全ではありませんが、状況が異なります。」(小高)
「我々は、戦う場所を選びます。」(小高)
臨時拠点。
その会見は、端末で流れていた。誰もすぐには口を開かない。
「……民意、か」
誰かが呟く。否定する声はない。
「民意党は、その民意で負けたってことだな」
別の声。皮肉とも、事実とも取れる。
要は、黙って画面を見ていた。瞬き一つしない。
僕は、視線を落とした。
「……僕たちがやってきたことは…」(隼人)
言葉が続かない。
首都圏は止まる。九州は続く。同じ戦争のはずなのに、線が引かれた。その線の内側と外側で、何が違うのか。誰も、はっきりとは答えられなかった。――それでも、決まった。
第2部 完
登場人物紹介
小高 味一
生年月日:1951年8月21日 / 出身:宮城県
備考:新内閣総理大臣。共生未来党もグーリエ星人との戦闘に否定的だったが、政権を獲ったことでそんな事言っていられなくなった。
段場 隼人……本編の主人公
運天 要……隼人の同期




