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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第16話 理解できない心情

気が付けば朝だった。こんな状況だったが、ぐっすり眠れた。いや、こんな状況だからこそ深く眠れたのかもしれない。身体が精神的な負担から現実逃避しようとして熟睡したのだろう。6:00に目が覚めたのは、もう身体が覚えている習慣だ。


「おはよう隼人。よく眠れた?」(杏南)


「おはよう杏南。爆睡してたよ。よっぽど疲れてたんだろうね。」(隼人)


「私もだよ。まあ、おかげで疲れは取れたかな。」(杏南)


「お前等、こんな状況で何で眠れるんだよ。」(木山)


「身体が現実逃避してるんだよ、きっと。」(隼人)


「俺は全然眠れなかったぞ。怠くてしょうがねぇよ。」(木山)


「ご飯食べれば元気になりますよ。」(杏南)


「レーションじゃ元気出ねぇよ…。」(木山)


「はいはい、ボヤかない、ボヤかない。」(杏南)



「ちっ、呑気なもんだ。」(要)


3人の様子を見ながら、俺はそう悪態をついて、あいつらから目を逸らした。どうして、血と肉が飛び散る地獄を目の当たりにした翌朝に、こんなにも平然としていられるのか理解が出来ない。死者や重傷者がいることだって知っているはずなのに…。


俺も疲労困憊なのに一睡も出来なかった。胃の奥が締め付けられるような重苦しさが消えない。あいつらのように戦場での現実を、一時的に「割り切って」ぐっすり眠ることなど、今の俺には出来そうにもなかった。



—2020年9月22日 7:30 任務開始—


運天要だ。住民の避難誘導という任務だが、人っ子一人いないじゃないか。昨日も避難者が出たなんて話は聞かなかったし、この作業は無駄ではないか? さっさと先に進んで、1人でも多くのグーリエ星人を倒すべきじゃないのか?


「お前、昨日、角南に嚙みついてたよな?」


同じ中隊の厚巳千宏(あつみ ちひろ)三曹が話しかけてきた。


「聞いてたんですか?」


「そりゃあ、あの狭い空間にいればな。嫌でも聞こえるよ。」


「そうですね、ははは…。」


厚巳三曹は、俺の不貞腐れた態度を気にする様子もなく、淡々と話を続ける。


「お前、道志山塊攻防戦を知っているか?」


「ええ、"そういう事があった"というレベルですが。」


「その時、新人だった角南が大活躍でね。新人とは思えない冷静さで勝利に導いていた。敵の中隊長も仕留めたんだぞ。」


厚巳三曹は、まるで自分の事であるかのように、誇らし気に語る。


「まさか? それ本当ですか? 本当に中隊長だったんですか?」


俺には到底信じられる話ではなかった。あんな非力そうな女に、そんな力があるとも思えなかった。仮に事実だったとしても、適当に撃った弾が当たっただけじゃないのか?


「本当だよ。目撃者だっている。俺達だって、敵の大隊長や中隊長クラスはリサーチしているからな。欺瞞情報なんかじゃないぞ。」


「そうなんですね。」


「だから、角南を甘く見るな。あいつはかなりの手練れだぞ。」


「そうですか。」


俺には、にわか信じがたい話で、空返事しか出来なかった。それだけの戦果を挙げながら、今は避難誘導で満足しているってことは、大方、戦場の怖さに耐えきれず、ビビッて前線に出られなくなったのだろう。強い兵士が1人でも多く欲しい時に…。情けない。俺は、角南陸士長を尊敬する気になれなかった。厚巳三曹も、どうして臆病になった後輩をヨイショするのだろう?


しかし、湯河原の荒廃ぶりは酷いものだ。建物の壁は崩れ、路上には瓦礫が散乱している。崩れた建物の隙間から、洗濯物が風に揺れていた。まるで、一瞬にして時が止まっているかのような、静かで、しかし、深い絶望感に満ちた風景だ。


こんな場所で、なぜ俺はこんな「無駄」な作業をしているのだろう。俺は、こんな無駄な作業のために自衛隊に入ったんじゃない。こんな瓦礫の山を歩き回るよりも、グーリエ星人と戦うことが俺の使命だ。その衝動が、胸の中でずっと燃え続けている。グーリエ星人への怒りが増すばかりだ。


あいつらさえいなければ、この街も、子供たちも、こんな目には遭わなかった。……見つけたら、絶対に逃がさない。


「住民がいたぞ!」(田島惇一(たじま じゅんいち)二等陸士)


「行こう。」


厚巳三曹の指示で、住民の下へ行き、避難誘導を試みる。表札から、この住民の名は、「中野」という名前なのが分かった。


窓ガラスは割れ、玄関は焦げ跡が残り、2階は屋根が陥没している。住むのは難しそうに見える。だが、不思議なことに、玄関先の花壇だけはきちんと手入れされていた。そして、住民、いや、中野さんは避難を拒んだ。


「どうしてですか? ここはグーリエ星人の占領下ですよ?」(要)


「そんなもんは分かっている。しかしなぁ…。」(中野)


「何か思うことがあるのですか?」(厚巳)


「この家、念願のマイホームなんだよ。」


中野さんは崩れた壁を見上げた。


「四年前も焼けた。その前の奪還戦でも屋根が吹き飛んだ。」


中野さんは、視線を横にやる。そこには家族写真があった。中野さんはそう話したが、現状、この家で人が暮らすのは困難だろう。話によると、奥さんの他に、足の不自由な父親、隣に住んでいた老夫婦、両親を失った小学生2人と共同生活を行っているようだ。


この家は、中野さんにとってただの家ではない。家族を守り、苦難を乗り越えてきた証なのかもしれない。だが、それを理由に命の危機に晒されるのは理解し難い。


「ここで生活してても良いことなんてないですよ。避難しましょうよ。」(要)


「お前には分からんだろうが、家族の思い出が詰まっている大切な家なんだ! そう簡単に捨てるわけにはいかんのだ!」(中野)


俺の言葉に中野さんが声を荒げた。


「でも、生活は不便でしょう? 避難者を受け入れる集合住宅を浜松や刈谷に建てています。そこで生活した方が落ち着きますよ。」(要)


「ええい、もう俺達のことは放っておいてくれ!」(中野)


どうやら、俺は中野さんの逆鱗に触れたようだ。しかし、理解に苦しむ。湯河原を奪還出来れば、またこの家に戻れるのだ。一時的に避難するという考えは出来ないのだろうか。命の安全よりも、家を選ぶ等、狂気の沙汰としか思えなかった。


「中野さん、ではこういうのはどうでしょうか? 同居しているい方達に、ここに残るか、我々についてくるかを選択していただくというのは。」(厚巳)


「う、うむ。相談してみる。」(中野)


厚巳三曹の提案に中野さんは頷き、同居人に確認を行う。その結果、小学生2人がここから避難することになった。この2人を兵站拠点へ送り、そこからヘリで月白展望台へ移送する。兵站拠点までの移送は、俺と厚巳三曹、同期の田島惇一二等陸士が行う。


小学生2人の名は、尾上太陽(おのうえ たいよう)、12歳で6年生、もう一人は坂井康千(さかい こうせん)10歳の4年生で、2人とも湯河原が地元だそうだ。俺は、グーリエ星人の情報を得ようと、この2人に街の様子を聞いてみた。そしたら、2人とも泣き出し、会話にならなかった。


「お前さ、なんてこと聞くんだよ…。」(田島)


「思い出したくないこともあるだろうし、ご両親を失ったとのことだ。辛い思いをしている。配慮しろ。」(厚巳)


俺は言葉に詰まった。太陽と康千は、俯いたまま歩いている。……俺は、何を聞いたんだ。


その時、胸の奥で何かが引っかかった気がした。だが、すぐにその考えを振り払った。こんなことで立ち止まっている場合じゃない。俺は兵士だ。敵を倒すためにここにいる。


結局、俺達4中隊で見つけたのは、中野さん宅の一件だけ。城山の方では、4件見つけたたようだが、避難を受け入れたのは、田島が見つけた小学生2人だけだった。他の住民は、その場に残ることを選択した。


いくら街に愛着があっても、こんな環境で残るか?

この街の惨状で、仕事や学校が普通に行われるわけでもないだろうに。まさか、グーリエ星人に寝返ったとか?


俺は今日一日、瓦礫の街を歩き回っただけだった。敵も倒していない。情報も得ていない。守った命も、たった2つだけだ。


……これで、本当に英雄と言えるのか。


今日一日、俺は何をしていたのだろうか?

この苛立ちは一向に晴れそうにない。

厚巳あつみ 千宏ちひろ……1995年5月10日生まれ / 兵庫県出身 / 三等陸曹 / 35普連4中隊所属。要と同じ班の先輩。要に朱杏の実績を教え、彼の傲慢さを抑えようとした。


田島たじま 惇一じゅんいち……2000年2月20日生まれ / 長野県出身 / 二等陸士 / 35普連4中隊所属。要と同期。中野さん宅を発見する。スポーツ系専門学校卒業後に入隊。元高校球児。


避難した小学生

尾上おのうえ 太陽たいよう 12歳、小6

坂井さかい 康千こうせん 10歳、小4

備考:彼ら2人の両親は、4年前の首都圏奪還作戦時の戦闘に巻き込まれて亡くなっている。


中野さん……湯河原町に一軒家を構える。家族との思い出やローンを理由に避難を拒否。妻、足が不自由な父、隣人だった老夫婦や親を亡くした小学生とも共同生活を行っていた。


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

木山きやま 拓哉たくや……隼人、杏南の同期

運天うんてん かなめ……隼人・杏南の同期で、強い英雄志向を持つ。


道志山塊攻防戦どうしさんかい こうぼうせん……帝国軍が、相模原市から道志山塊を通り、富士山に拠点を作って山梨県と静岡県を奪う作戦。2018年6月18日~9月29日の期間に行われた。角南朱杏は、9月18日から派遣され、石割山内で敵大隊長ほか、相当数の帝国兵を討った。厚巳は、要に中隊長と説明していたが、実際は大隊長だった。

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