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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第2章 成長と挫折

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第165話 命令違反

指揮所に呼び出された時点で、空気はすでに決まっていた。


立川駐屯地内に臨時に設けられた会議室には、簡易机の上に展開された地図と、まだ片付けきれていない通信機材が残されていた。戦闘直後の匂いも消えておらず、室内には基地全体に漂う緊張の余韻がそのまま残っている。


要は入口で一度だけ立ち止まると、そのまま中へ入った。


「第35普通科連隊第4中隊所属、運天 要一等陸士。参りました」


室内にいるのは二人だった。


中隊長の和戸 一暁、連隊長の空間 瑠衣、そして、オペレーション・ミネルヴァの最高司令である有朋 繁は、室内に設置されたモニター越しに要を見ていた。


「入れ」


和戸から短い許可が出る。要は所定の位置で停止した。


「状況は理解しているな」


「状況……ですか?」


声はわずかに硬かった。それでも、震えはない。


和戸は要を見据えたまま、淡々と告げる。


「本作戦において、お前は複数回にわたり命令違反を行った。独断で前進し、隊形を崩し、他班を危険に晒した」


並べられるのは事実だけだった。


「結果として、戦線の維持に支障を来す可能性があった」


要は何も言わなかった。


「弁明はあるか?」


「……ありません」


否定も、言い訳もなかった。ただ、要は正面を見たまま続ける。


「ただ、前に出なければ、押し切られると思いました」


室内の空気は動かない。


「機会があるなら、叩くべきだと判断しました」


視線は正面から逸れない。


「その判断が誤りだったというなら、それは認めます」


そこまで言うと、要は口を閉じた。


和戸はしばらく要を見ていたが、やがて静かに口を開く。


「判断ではない。規律の問題だ」


即断だった。


「個人の“判断”で戦線を動かされては、部隊は機能しない」


口調は淡々としている。


「お前1人が前に出れば、その隙を埋めるために他が動く。結果として、全体が崩れる」


「……はい」


要は小さく返した。


「今回は、周囲が持ち堪えた。それだけだ」


それ以上の評価はなかった。


その時、空間が口を開く。


「運天一士」


柔らかい声だった。しかし、そこには逃げ場がない。


「貴官の行動は、“戦果を求めたもの”ではあるでしょう」


要の目がわずかに動いた。


「だが、それは部隊行動の中で許容される範囲を逸脱している」


空間は続ける。


「ここは個人の武勇を競う場ではない」


静かな言葉だった。それだけに重い。


「組織として戦っている以上、その枠を外れた行動は、結果に関わらず是正される」


「……了解、しております」


要の声は、先ほどより低かった。そして最後に、有朋が口を開いた。


『処分を伝える』


室内の空気がわずかに締まる。


『運天 要一士。貴官を本作戦から除外する』


要の表情は変わらない。


『守山駐屯地へ帰還。以後の行動は、所属部隊の指示に従え』


一切の装飾がない、短い通告だった。


「……はい」


返答は即座だった。ただ、その一音だけが、わずかに重かった。


「以上だ。下がれ」


要は敬礼すると踵を返した。扉に手をかけたところで、一瞬だけ動きが止まる。だが、振り返らず、そのまま外へ出た。


外は夜だった。照明に照らされた駐屯地の中では、車両と人影が静かに動いている。戦闘の熱はすでに消え、残っているのは戦場の整理と処理だけだった。


要はその中を歩いていく。足取りは乱れていない。ただ、速度だけがわずかに速かった。


室内では、しばらく沈黙が続いていた。やがて、有朋が誰にともなく口を開く。


『……ああいうのは、珍しくない』


『戦場では、“自分がやらなければならない”と思い込む者が出る』


「はい」


空間が答える。


『問題は、その方向だ』


『正しく制御されれば戦力になる。外れれば、ただの不確定要素だ』


モニター越しの有朋の視線が、和戸へ向く。


『中隊長としては、どう見る?』


和戸はすぐには答えなかった。数秒だけ間を置いてから、静かに口を開く。


「現時点では、部隊に置ける状態ではありません」


簡潔な結論だった。


「矯正が必要です。でなければ、同じことを繰り返す」


そこに評価も感情もない。ただ、中隊長としての判断だけがあった。


『そうか』


それだけで会話は終わった。


その頃、駐屯地の一角で要は立ち止まっていた。遠くには滑走路が見える。


先ほどまで激しい戦闘が行われていた場所だ。今は照明に照らされ、車両が行き交っているだけで、銃声は聞こえない。


戦いは終わったはずだった。それでも、要はその場から動かなかった。


「……」


何も言わない。


ただ、視線だけが滑走路へ向けられている。あの戦場には、もう自分の居場所はない。そう告げられたことは理解している。それでも――それが納得できなかった。

登場人物紹介

運天うんてん かなめ……隼人の同期で、歪んだ英雄志向を持つ

和戸わこ 一暁かずあき……35普連4中隊の中隊長で、要の上官に当たる

空間そらま 瑠衣るい……35普連の連隊長

有朋ありとも しげる……オペレーション・ミネルヴァの最高司令

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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