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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第2章 成長と挫折

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第164話 崩れなかった理由

弾薬庫の火災もようやく収まり、負傷者の搬送と戦死者の回収もひと通り終わっていた。気が付けば夜はすでに深く、銃声の消えた基地は、戦闘中とはまるで別の場所のような静けさに包まれている。


僕は遅めの夕食を取っていた。場所は、立川広域防災基地の一角にある部屋だった。先ほどまでグーリエ星人が通信室として使用していた場所である。


首都圏が占領されてから約9年。その間に、駐屯地もこの施設もグーリエ星人によって大きく改築されている。戦闘が終わった今も罠の存在は疑っていたが、少なくとも、この部屋は比較的安全らしい。


「GAST電子戦隊のお墨付きですよ」


ソブラウさんはそう言い残すと、糧食を平らげ、そのまま横になって眠ってしまった。状況に対する順応が早すぎる。


もっとも、僕も人のことは言えない。戦闘の緊張が抜けた途端、眠気が一気に押し寄せてきていた。身体はすでに休息を求めている。


そんな時だった。


「段場さん」


声を掛けられて顔を上げる。そこに立っていたのは、35普連3中隊の東野(あずまの) 千花(せんか)二曹だった。


「このような時間に失礼いたします。本来であれば、もっと早く申し上げるべきでしたが――私、あなた様にお礼を申し上げたく参りましたの」


東野二曹は丁寧に一礼する。


「お礼……ですか?」


僕が尋ねると、東野二曹は静かに頷いた。


「先の戦闘において、我々の班は窮地に陥りました。その際、あなた様のご判断によって援護をいただきましたこと、心より感謝申し上げます」


形式ばった言葉ではあった。けれど、そこに嘘がないことは分かった。


「あの時は、たまたま見えていただけです。それより、東野二曹の方こそ、陣形を立て直して火線を維持していたじゃないですか」


僕がそう言うと、東野二曹はわずかに目を伏せた。


「過分なお言葉ですわ。あれは班員が持ち堪えてくれた結果に過ぎません。私一人の力ではございませんもの」


その時だった。


「そう、その通り!」


背後から、勢いのある声が飛んできた。


振り向くと、神梨(かみなし)アンジェリカ陸士長が胸を張って立っていた。その隣には、青山(あおやま) 奈都(なつ)陸士長もいる。


「あれは千花さんだからこそ持ち直せたんです! 判断も指示も正確でしたし、あの状況で崩れなかったのは本当にすごいんですから!」


「なんであんたがドヤってるのよ」


青山陸士長が呆れたように言う。ただ、その口調は柔らかかった。


「だって事実じゃないですか! 千花さんがいなかったら、あの場は持ちませんでしたよ?」


神梨陸士長はそう言い切った。


「……言い過ぎです」


東野三曹はすぐに否定する。けれど、その声音は強くなかった。


「いいえ、言い過ぎではございません。“班長として当然のことをなさったまで” と仰るのでしょうけれど……あの場で“当然”をやり切れる方が、どれほどいらっしゃいますか」


「ほんと、それはそう! あれは千花さんだからこそ、切り抜けられたんです!」


青山陸士長も同意する。


3人のやり取りを見ているうちに、僕は少しだけ納得した。先ほどの戦闘で、彼女たちの班が崩れなかった理由が分かる気がした。


誰か1人だけが突出しているわけではない。班長の判断を班員が理解し、その判断を支えるように動いている。その積み重ねが、あの戦場で陣形を維持させていたのだろう。


「……いい班ですね。崩れない理由が、分かる気がします」


思わず口に出していた。東野二曹は一瞬だけ僕を見ると、わずかに微笑んだ。


「ありがとうございます。まだ至らぬ点も多い班ではございますが――これからも、務めを果たしてまいりますわ」


静かな言葉だった。けれど、そこには確かなものがあった。


外からは、まだ車両のエンジン音が聞こえている。基地の復旧や警戒は続いているのだろう。戦闘が終わったとはいえ、すべてが元通りになったわけではない。


それでも、少なくとも今は撃ち合いがない。


「では、これで失礼いたします。また改めてご挨拶を」


東野二曹が頭を下げる。


神梨陸士長も青山陸士長もそれに続き、3人は揃って部屋を後にした。


扉が閉じると、残された部屋には再び静けさが戻った。


「……すごいな」


誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。無駄な言葉があるわけではない。それなのに、全員の動きは揃っていた。


結果だけを見れば、彼女たちは戦場を生き残った。それだけなのかもしれない。けれど、その結果を生み出したものの重さが、今になって少しだけ分かった気がした。


その時、無線が入った。


『段場、聞こえるか?』


和戸一尉の声だった。


「はい」


『運天を見たか?』


一瞬、言葉に詰まる。そういえば、戦闘が終わってから要の姿を見ていない。


「いえ、見ていません」


『そうか。見つけたら伝えろ。今すぐ来いと』


「……了解です」


通信が切れる。ほんの少しだけ、部屋の空気が変わった気がした。僕は立ち上がり、外へ出る。夏なのに夜気が冷たい。


基地の灯りに照らされながら、あちこちで人影が動いている。戦闘の後始末をする者、警戒に立つ者、車両を移動させる者。そのどこかに、要がいるはずだった。


僕は周囲を見渡した。そして、まだ姿の見えない要を探し始める。


この呼び出しが、要にとって――従う理由のない命令であることを、僕はまだ知らなかった。

登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

東野あずまの 千花せんか……元社長令嬢の二等陸曹

青山あおやま 奈都なつ……千花の班に所属し、千花を尊敬している

神梨かみなし アンジェリカ……奈都と同じく、千花を尊敬している。奈都とは幼馴染

和戸わこ 一暁かずあき……35普連4中隊の中隊長

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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