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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第2章 成長と挫折

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第157話 局所突破

重装歩兵の前進は、一度止まったあとも完全には崩れていなかった。


滑走路上に散開したまま、彼らはなおも隊形を維持しようとしている。側面の支援歩兵は34普連の射撃によって抑え込まれているものの、重装歩兵同士の間隔は少しずつ詰まり始めていた。分断された部隊が、再び互いを繋ごうとしている。


「立て直そうとしているな」


和田三佐が敵の動きを見ながら言った。


「時間をかければ立て直されますね」


ソブラウさんの言葉に、和戸一尉も頷く。


分断は成立した。だが、それを維持し続けなければ意味がない。敵は「止まった」だけであり、「崩れて」はいなかった。


「和戸一尉、このままでは押し返せません」


「分かっている。だが、決定打がない」


そのとき、無線に通信が割り込んだ。


『フォックス03。補足する』


ジミーさんの声だった。


『今の状態は悪くない。だが、分断しただけでは足りない。重装の“どれか一つ”を確実に止めろ。そこから崩れる』


「一つ……」


僕は思わず呟いた。


「列ではなく、個を落とすということですね」


ソブラウさんは、瞬時にジミーさんの意図を理解する。


『そうだ。列は強いが、個は遅い。止まった一体を基点に流れを歪ませろ』


それだけ告げると、通信が切れた。


「なるほどな……」


和田三佐が呟く。


「一体を潰せば、全体が崩れる可能性がある」


和戸一尉も敵の隊形を見据えた。


「中央右、少し前に出ている個体がいます」


ソブラウさんが指摘する。


重装歩兵の列を見れば、完全な乱れではないものの、中央右にいる一体だけが他より半歩ほど前へ出ていた。


(あれだ……)


僕は照準を向ける。


「全員、中央右を基点に射撃を集中。突出した一体を止める」


「34普連、側面の圧を維持しろ。絶対に動かすな」


和戸一尉と和田三佐の指示が続き、射撃が一点へ集中した。


重装歩兵の装甲へ弾丸が次々と叩き込まれ、火花が連続して散る。それでも、敵は倒れない。しかし足元への射撃が増えたことで、踏み込みには明らかな鈍りが生じ始めていた。




「小癪な……」


アマテル・アマジオハ一等兵が吐き捨てる。


「止まるな! 止まった個体を基準に隊形を再構成しろ!」


ニッズ・パリュム少尉の指示が飛ぶ。




(まだ足りない……)


僕が照準を合わせていると、乾いた狙撃音が響いた。


突出していた重装歩兵の足元が弾ける。わずかな衝撃だったが、踏み込もうとしていた足が乱れ、体勢が崩れた。


「今だ、続けろ!」


和戸一尉の声に合わせて射撃が重なる。


狙われているのは兵士そのものではない。足元、進路、そして接地する瞬間。人ではなく、敵の「動き」を潰すための射撃だった。重装歩兵の一体が、明確に停止した。




「しまった……」


ノーマン・ジュージ一等兵の声が漏れる。


「止まった……!」


隼人が叫ぶ。


「おい、何やってる!」


アマジオハが声を荒らげた。


その瞬間、後続の一体がわずかに接触した。ほんの僅かなズレだった。だが、それで十分だった。


重装歩兵の列が歪む。支援歩兵との距離も開き、これまで保たれていた連携が切れていく。前に出ていた一体は、周囲から完全に孤立した。


「そこだ、押し込め!」


和田の号令とともに、34普連の射撃が一段強まった。


側面へ出ようとしていた支援歩兵は、その射撃によって完全に動きを封じられる。


「分断が固定されました」


ソブラウが状況を確認する。


「次は削る。孤立した個体を落とす!」


和戸が命じた。


「おのれ……」


アマジオハの声が響く。それでも射撃は止まらない。




(硬い……)


僕は照準を合わせたまま、敵の装甲を見つめる。弾丸は確かに命中している。しかし、装甲そのものは健在で、致命打には至っていない。それでも、敵は動けていなかった。


「動けていない……」


止まっている。それが、今は全てだった。


(あとは……タイミングだ)


照準を、突出していた重装歩兵の足元へ合わせる。敵が踏み込もうとした瞬間、わずかに足が浮く。その一瞬を待つ。


(今……)


引き金を引いた。弾丸が足元の接地部へ入り、完全ではないものの踏み込みをさらに崩した。重装歩兵の巨体が大きく揺れる。


「入った!」


思わず声を上げた。直後、別方向から狙撃音が響いた。


ジミーさんの一発だった。同じ箇所へ重なった弾丸が装甲の隙間へ滑り込み、関節部を正確に打ち抜く。


「ぐっ……!」


ジュージ(リザードマン)の巨体が揺れる。


「まだ押せる……!」


足を止めながらも、ジュージ(リザードマン)は前へ出ようとしていた。しかし、その一歩は明らかに遅れていた。重装歩兵が、初めて地面へ膝をつく。


「一体、落ちるぞ!」


和戸一尉の声と同時に、周囲から集中射撃が叩き込まれた。


「ぐわあっ!」


ジュージ(リザードマン)の叫びが滑走路に響く。


次の瞬間、重い金属音が響いた。装甲をまとった巨体が地面へ倒れ込み、滑走路を震わせる。その一体が倒れたことで、列の形が明確に崩れた。


「崩れた……!」


僕は目の前の光景を見つめた。


敵の動きが変わった。それまで一体ずつが互いの動きを補いながら進んでいた重装歩兵が、倒れたジュージ(リザードマン)を境にして僅かに離れている。支援歩兵との間にも隙間が生じ、射線が通り始めていた。


戦場の一角に、初めて明確な突破口が生まれた。




アイトンダの視線が鋭くなる。


「……一体やられたか」


短く状況を受け止めたあと、パリュムが問いかける。


「……連携を切られたか……。隊長、どうする?」


「後退はしない。間を詰めろ。崩れた箇所を埋める」


アイトンダの判断は早かった。しかし、敵の動揺はすでに連鎖している。


「くそ、ジュージの野郎……」


アマジオハが吐き捨てる。


「馬鹿者! 恨み言は後だ!」


パリュムが叱責する。


「今は、体勢を立て直すのが先だ!」


それでも、崩れた間隔は簡単には戻らなかった。一体を中心に重装歩兵の動きが乱れ、各個体の間隔が不均一になる。その隙間を通して、これまで遮られていた射線が開いていく。




「押し込める!」


和田三佐が叫んだ。


35普連と34普連の戦線が、初めて前へ動いた。


(やれた……のか?)


僕も前へ出ながら、目の前の戦況を見ていた。


確かに敵の一体は倒れた。戦線も動き始めている。だが、僕には分かっていた。


(今のは……僕じゃない。僕はまだ、戦力になっていない)


自分の射撃は、敵の足元を崩すための一手にはなった。タイミングも合っていた。しかし、決定打になったのは、その直後に重なったジミーさんの一発だった。


(僕の銃は、まだ敵に届いてない……)


悔しさが胸の奥に残る。それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。


「それでいい。そのまま続けろ」


和戸一尉の声が飛んでくる。僕は再び銃を構えた。今度は、押されている側ではない。初めて、自分たちが敵を押している。


滑走路を包んでいた空気が変わっていく。重装歩兵の前進は止まり、隊形には明確な隙が生まれていた。完全に崩れたわけではない。それでも、一体を倒したことで生じた歪みが、敵の連携全体へ広がり始めている。


戦場の均衡は、明確に崩れ始めていた。

登場人物紹介

登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

和田わだ 友延とものぶ……34普連1中隊の中隊長

ソブラウ……GASTアルバトロス班の隊員

和戸わこ 一暁かずあき……35普連4中隊の中隊長

ジミー……GASTフォックス班所属のナンバー2狙撃手

ペーリ・アイトンダ……第3即応打撃小隊を率いる。

ニッズ・パリュム……ミノタウロス族の男性で、陸軍少尉。第3即応打撃小隊の副小隊長。普段は温厚だが、戦場では鬼になる。牛だけど。

ノーマン・ジュージ……リザードマンの男性で、陸軍一等兵。第3即応打撃小隊の重装歩兵

アマテル・アマジオハ……オーク族の男性で、陸軍一等兵。ジュージとは同期。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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