第138話 下等生物と害虫
「敵はたかが3匹、一気に捻り潰すぞ!」(タル・オイオト陸軍大尉)
――立川広域防災基地防衛部隊・第36重装歩兵小隊 小隊長
「おう!」(一同)
タタタタン!
キン! コン! カン!
「チッ、硬いわね…」(スライス)
スライスが放ったサブマシンガンの弾丸が、重装歩兵の盾に弾かれて火花を散らす。
タン!
「…くっ……」(スライス)
敵の銃弾がスライスの頬を掠め、背後の壁に大きな穴が開いた。
「……。」(スライス)
スライスの頬から血が流れる。
「(ゾクッ! …あれをまともに喰らったら…)」(ピケット)
前後を塞がれ、遮蔽物の少ない通路。ティトとピケットも残弾を確認しながら、じりじりと後退を余儀なくされていた。
「敵は袋のネズミだ!撃ちまくれ!」(オイオト)
「副官、後方より敵!」(ティト)
「機動歩兵って奴か! くそ、退路を塞がれた…」(スライス)
「ティトとピケットは背後の敵を! 前方の鎧(重装歩兵小隊)はあたしが引き付ける!」(スライス)
「(後ろの敵は分隊らしいから、退路を開くなら後方を潰す。3分粘っても、この数相手じゃあ、アタシ達は死ぬかもな…。)」(スライス)
「副官、無茶だ!」(ピケット)
「無茶は承知だ! 命令に従え!」(スライス)
「りょ、了解!」(ピケット)
ピケットの叫びも空しく、後方から降下してきた機動歩兵の波が、狭い通路を一気に埋め尽くす。3人は背中を合わせ、絶望的な全方位射撃を強いられた。火花と硝煙が視界を遮り、帝国軍の放つ銃弾が、コンクリートをバターのように焼き切っていく。
タタタタン! タタタタン!
「(後ろの敵は防御力が高くない!)」(ティト)
後方の敵は機動力が売りの部隊だった。装備も軽装で、サブマシンガンでも仕留められる。機動力ならアマゾネス班も負けていなかった。
「全員、目を潰れ!」(ヴラシナ・ビシャット陸軍軍曹)
――――立川広域防災基地防衛部隊・第18機動歩兵分隊 分隊長
ヴィシャットの放った戦光弾の炸裂が早かった。爆風が通路を舐め、閃光が3人の視界を奪う。
「きゃああああ!」(ティト)
耳鳴りの中、スライスが視界を上げると、そこには血の海に倒れるティトの姿があった。
「ティト……! ティトッ!!」(ピケット)
ピケットが駆け寄るが、ティトの胸部には致命的な焼夷弾の痕が深く刻まれていた。彼女は1度だけ虚空を掴むように手を伸ばしたが、そのまま力なく崩れ落ちた。
「……よくも、よくもあたしの可愛い部下を……ッ!」(スライス)
スライスは怒りに身を任せ、重装歩兵に飛び掛かる。
「甘い!」(ティル・テレス陸軍伍長)
盾の先端が、スライスの鳩尾に直撃する。
「うぐっ!」
スライスは蹲る。
「ガハっ…(まずい…内臓がやられた…)」(スライス)
「副官!」(ピケット)
援護に駆け付けたいピケットだったが、彼女も機動歩兵との戦闘に追われ、その場を動けない。
「はぁはぁ…(血が、止まらない…)」(スライス)
「ちくしょう、3分経ったのに……こればかりはどうすることも出来ない…。」(モンソン)
スライス、ピケットの窮地に、駆けつけることが出来ない歯痒さの中、モンソンは無線で援軍を募った。
「――!?」(モンソン)
「スライス! あと5分粘れ、5分あれば…」(モンソン)
「5分? この状況でどうやってやるのよ…。」(スライス)
「うわ…!」(ピケット)
機動歩兵・ビシャットとの近接戦闘、ピケットは、ビシャットの蹴りを受け、吹き飛ばされてしまう。
「うう…。」(ピケット)
軽い脳震盪だろうか、意識が朦朧とするピケット。目の前に立ちはだかるのは、ビシャット。そして、蹲るスライスの前にはオイオトの姿があった。
「(……これまでか……。)」(スライス)
死を覚悟したスライス。
「終わりだ、下等生物。地獄へ――」(オイオト)
「うう…」(ピケット)
ドオオオオオン!
その瞬間、背後の機動歩兵たちの集団が、文字通り「爆発」した。
「――うるせえよ。地獄に落ちるのはテメエらだ、害虫共が。」(BJ)
機動歩兵の背中が、巨大な衝撃で内側から弾け飛ぶ。粉塵を切り裂いて現れたのは、返り血で真っ赤に染まった日本刀を携えたBJ率いる、GAST最強の普通科部隊、ピットブル班の面々と、同じアマゾネス班のキーラだった。
「(助かった…予定より早く着いてくれた…。)」(モンソン)
「外の害虫共はあらかた駆除した。次はお前等の番だ。あのデカブツ(重装歩兵)は俺とフロリアン、ガーツで引き受ける。シャーク、エルメス、パルヴァー、リスターは後ろの雑魚ども(機動歩兵)を片付けろ。キーラはスライスとピケットを連れてここから離れろ。」(BJ)
「了解」
キーラは、ふいに戦死したティトの遺体を見つめ、一瞥した。今は怪我人の優先。唇を噛みしめながらスライス、ピケットを保護する。
「ティト…ティト…」(ピケット)
ピケットは譫言のように呟く。
「雑魚ですって?」(ビシャット)
雑魚と言われてカチンときたビシャットは、「落ち着いて下さい」と部下に宥められる。しかし、心中は穏やかじゃない。
「(殺す…殺してやる!)」(ビシャット)
「ほう、下等生物ごときが、俺達を害虫扱いするか。害虫以下の分際で!」(オイオト)
「害虫は害虫だ。お前らは、今から俺たちに駆除される。」(BJ)
「(日本刀、この鬼気迫るオーラ、まさかこいつは…?)」(ジェクト・サカ軍曹)
「オイオト大尉殿! あいつは…」(サカ)
「分かっておるわ! しかし、これは好機! この重装歩兵小隊ならば、奴を屠れる! あの鈍らでこのアーマーを破壊できると思うか! 1個連隊並の戦力が必要? そんなものは昔の話だ!」(オイオト)
そう叫んだ瞬間、オイオトの両足が切り落とされていた。
「!?」(オイオト)
「ぐわあああああああああああああああ、足が、俺の足があああああああああ」(オイオト)
「関節部分は脆いようだな。短足だから切りづらかったが。」(BJ)
「……何が起きた?」(オイオト)
BJは、オイオトのヘルメットを奪い取ると、露になったその首を刎ね飛ばした。
登場人物紹介
ガーツ……GAST「ピットブル班」の隊員。北海道奪還時に負傷してしまうが、この度復帰した
リスター……GAST「ピットブル班」の隊員。同じく北海道奪還時に負傷し、この度復帰した
タル・オイオト
種族・性別:エルダードワーフの男性
所属・階級:陸軍大尉で、立川広域防災基地防衛部隊・第36重装歩兵小隊の小隊長
ヴラシナ・ビシャット
種族・性別:エルフ族の女性
所属・階級:陸軍軍曹で、立川広域防災基地防衛部隊・第18機動歩兵分隊 分隊長
ティル・テレス
種族・性別:赤鬼科鬼人族の男性
所属・階級:陸軍伍長で、立川広域防災基地防衛部隊・第36重装歩兵小隊所属
ジェクト・サカ
種族・性別:オーク族の男性
所属・階級:陸軍軍曹で、立川広域防災基地防衛部隊・第36重装歩兵小隊所属
ティト:本名:羽児 麗羅
生年月日:1994年11月16日 / 出身:東京都
階級:陸二曹 / 所属:GAST「アマゾネス班」
享年:27歳
スライス……GAST「アマゾネス班」の副班長
ピケット……GAST「アマゾネス班」の隊員
キーラ……GAST「アマゾネス班」の隊員
モンソン……GAST「大黒斑」の班員
BJ……GAST「ピットブル班」の班長




