第137話 電子戦と物理的破壊
「(まずは状況の整理だ。)」(隼人)
僕は、和戸中隊長の背中を追いながら、状況把握に努めた。この戦いの勝利条件を、「通信機能の切断」と「兵站を断つ」と仮定した。グーリエ星人は、既存の施設をそのまま使用しているとヤオさんが言っていた。それならば、立川の広域防災基地はそのまま防衛拠点にしているはず。防災基地を叩けば、兵站も奪える!
この2つは、敵の急所を突くようなものだ。この役割は、おそらくGASTが務める。ならば、僕らの任務は外の敵を掃討すること。改めて状況を整理することで、頭がクリアになった。
その頃、敵の通信機能を破壊すべく動いていたGAST「アマゾネス班」は――
「班長、これでもまだ駄目みたいです。」(サリカム)
「どこの機器を潰せば完全に止まるのか…まさか全て潰さないとダメなんて言わないよね…。」(ビービ)
「……一度、ファルコン斑(電子戦隊)に預けようか…。ピート聞こえる?」(ビービ)
「こちらピート。現在、モンソンが解析中。」(ピート)
「……解析出た。最悪だ、各フロアの端末がメッシュネットワークで繋がってやがる。物理的に”全部”壊すか、メインサーバーを完全に焼き切らない限り、予備回路が無限に立ち上がる…」(モンソン)
無線の向こう、ファルコン班(電子戦隊)のモンソンの声には苦々しさが混じっていた。GAST随一のハッカーであるモンソンがキーボードを叩く音が、背後で激しく響いている。
「つまり、しらみ潰しに壊して回れってことね。……ファルコン班、そっちでサーバーの過負荷はかけられないの?」(ビービ)
「やってますよ。けど帝国軍のファイアウォールはなかなかしぶとい。アマゾネス班は指定した座標の通信中継器を片端から物理破壊してくれ。そうすれば、こっちからウイルスを流し込む隙間ができる」(モンソン)
「了解。……聞いたね、あんた達! 運動会の始まりよ!」(ビービ)
「やれやれ…しょうがないですね…。」(イリー)
ビービが小銃のボルトを引くと、アマゾネス班の面々が不敵な笑みを浮かべた。
「ティト、3階のサーバーラックを爆破! 私は4階の配電盤をやるわ。……ファルコン班、座標をデータリンクに送って!」(ビービ)
「送った。……おい、アマゾネス班。あんまり派手にやりすぎて、ビルごと落とすなよ?」(ピート)
「善処する。……行くよ!」(ビービ)
ビービの合図とともに、アマゾネス班が稲妻のような速さで動いた。
「……見つけた」(ティト)
ティトが暗視ゴーグル越しに捉えたのは、防護隔壁の奥にある通信管制室。そこには10数名の帝国軍通信士たちが、必死にノイズと格闘しながら端末を叩いていた。
「(通信機を壊すのは、その喉首を掻き切った後だ……!)」(ティト)
ティトが音もなく天井のダクトから舞い降りる。着地と同時に引き抜かれたナイフが、一番近くにいた通信士の喉を深く裂いた。声さえ上げられぬまま崩れ落ちる死体。それがアマゾネス班による「物理的切断」の幕開けだった。
「ぐあぁっ!?」
「侵入者だ!」
叫ぼうとした通信士の口に、ビービの放った消音弾が吸い込まれる。通信士たちが操作していたコンソールには、彼らの鮮血が容赦なく飛び散り、火花を散らす精密機器と混ざり合って、ショートした電子音を悲鳴のように上げさせた。
「ピート、第3、第4ブロックの”生体端末”と通信機器、すべて片付けたわ。……掃除完了よ」(ビービ)
返り血を拭うこともせず、ビービは死体の山の上で淡々と報告する。
「サンキュ! ノイズが1つ消えた。モンソン、今のうちにバックドアをこじ開けろ!」(ピート)
「やってますよ!」(モンソン)
ファルコン班がその隙を逃さず、死に体のネットワークへウイルスを流し込む。
「とは言っても、まだ解決してないよ! 次はそこから南側に向かえ! バックアップの親機が非常用エレベーターの制御室に隠されてる。そこが生きている限り、数分後には予備回線が復旧して、今までの苦労が水の泡だ」(ピート)
「あたしが行く!」(スライス)
アマゾネス班の副班長、スライスが立ち上がる。スライスは手元のサブマシンガンを軽く叩き、最短ルートを頭の中で描く。
「ティトとピケットを連れていけ! イリーとシャオリン、サリカムは私と新たな通信室を探す。ピート、引き続き頼むよ!」(ビービ)
「やれやれ、休ませてくれないね…。」(ピート)
「文句を言わない、ピート。あんたの指が動かなくなったら、あたしたちの弾も止まるんだから」(スライス)
スライスが不敵に笑い、ティトとピケットを促して走り出す。彼女たちは血の海と化した通信室を後にし、迷路のような防災基地の内壁を影のように進んでいく。スライスは移動しながらも、ホルスターからナイフを抜き身にし、その感触を確かめた。
「ティト、ピケット。目標はあくまで”物理的破壊”。邪魔な奴らは、一瞬で黙らせるよ」(スライス)
「了解」(ティト、ピケット)
一方、ピートが陣取るファルコン班の指揮車両内では、モンソンが狂ったようにキーボードを叩き続けていた。
「ビービ班長、スライスが目標に到達するまであと1分! その間に、帝国側の反撃ハックが来るぞ……うわ、来た! 相当デカいのが!」(モンソン)
「押し返しなさいよ! こっちはあんたたちの”時間”を買うために、地べたで泥を啜ってるんだから!」(ビービ)
ビービは通路の曲がり角に背を預け、新たに現れた帝国軍の増援歩兵を次々と射抜いていく。消音器付きの銃声が、乾いた金属音と共に基地の壁に反響した。
「(通信を絶てば、あの巨大な包囲網はただの”バラバラな烏合の衆”になる……!)」(ピート)
ピートは冷汗を拭い、タクティカルモニターを睨みつける。アマゾネス班が機械と人を同時に「掃除」し、大黒班がその残骸にデジタルの毒を流し込む。この同時攻撃こそが、立川を奪還するための絶対条件だった。
「――ッ、スライス! 足を止めろ!」(ピート)
突然、ピートの叫び声が無線を割った。南側の非常用エレベーターホールへと差し掛かっていたスライスたちが、鋭い制動で壁際に身を隠す。
「どうしたのピート、急かしたり止めたり忙しいじゃない」(スライス)
「……包囲されてる。各フロアの防衛部隊を増援したようだ。通信障害の原因を特定したらしい。あんたたちの向かっている制御室の前に、帝国軍の増援――歩兵の1個小隊が展開した。……それに、外壁からは機動歩兵の降下も始まってる!」(ピート)
「はあ? 増援……? ここがバレるの、早すぎない?」(ビービ)
ビービが別の通路で応戦しながら舌打ちする。その直後、基地全体を揺らすような重厚な足音が、スライスたちのいる通路の先から響いてきた。
ガシャン、ガシャン、と機械的な駆動音を伴う足音。角の向こうから現れたのは、通常のグーリエ星人よりも一回り大きく、分厚い鉄装甲を纏った重装歩兵たちだった。その手には、通信障害などお構いなしに標的を自動追尾する独立型のヘビー・レーザー小銃が握られている。
「……ピート、これ一個小隊どころじゃないわよ。あいつら、基地をまるごと封鎖する気ね」(スライス)
スライスの視線の先、非常用エレベーターの扉を背にするように、盾を並べて陣形を組む鉄甲歩兵たちが通路を完全に塞いでいた。それだけではない。背後の窓を突き破り、ワイヤーで降下してきた敵の機動歩兵たちが、彼女たちの退路を断つように着地する。
「挟み撃ちか……。いいわ、スリルがないと運動会じゃないしね」(スライス)
スライスはサブマシンガンの弾倉を叩き込み、不敵に口角を上げた。
「班長、予定変更。制御室に辿り着く前に、ここの”鉄屑”どもを掃除してあげる。……ファルコン班、通信の完全遮断まであとどれくらい?」(スライス)
「……最低でもあと3分。それまでは、その場所を死守してくれ……!」(ピート)
「3分? 短すぎて、あくびが出るわ。――ティト、ピケット。始めるよ!」(スライス)
立川広域防災基地南区画――その閉鎖空間は、もはや戦場ではなかった。生き残るために殺し、殺すために動く者だけが立っていられる、純粋な殺戮の場へと変わっていた。そしてその中心に、スライスたちはいた。
登場人物紹介
スライス……GAST「アマゾネス班」の副班長
ピケット……GAST「アマゾネス班」の班員
シャオリン……GAST「アマゾネス班」の班員
ティト……GAST「アマゾネス班」の班員
イリー……GAST「アマゾネス班」の班員
サリカム……GAST「アマゾネス班」の班員
ピート……GAST「ファルコン」の班長
モンソン……GAST「ファルコン」の班員、超優秀なホワイトハッカー
段場 隼人……本編の主人公




