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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第136話 成長

ホバーキャリアに全員を乗せることが出来なかったので、重傷者から優先して乗せた。意識がある杏南や諏訪陸士長、橋本中隊長は最後に搬送することになったが、3人とも状況を理解してくれた。


「安心して、私強いから」(杏南)


杏南はそう言って気丈に振舞った。諏訪陸士長は何も言わなかった。


まだ敵兵は残っているが、指揮官は討ち取っている。空自や第5対戦車ヘリコプター隊(5対戦ヘリ-飛)が戦況を優位に進めてくれている。杏南や諏訪陸士長はダンタスさんの班が援護してくれる。僕は、仲間を信じ、仲間を助けるべく迅速に動いた。


移動中も仲間の呻き声が聞こえる。1人でも多く乗せられるように、まるで荷物を乗せるかのように詰め込んでしまった。


「すみません……みんな、あと少しだから……!」(隼人)


僕は胸を締め付けられる思いで、ホバーキャリアを全速力で走らせた。浅川の合流地点。砂煙を巻き上げながら、2機目のチヌークが着陸態勢に入っている。


「負傷者収容! 担架(ストレッチャー)を急げ!」


機体から飛び出してきたメディックたちが、キャリアの荷台へ群がる。積み重なるようにして収容されていた仲間たちが、1人、また1人と「救い」の手へと引き継がれていく。


「段場……あとは頼んだぞ……」(橋本)


最後に機内へ運び込まれる際、橋本中隊長が僕の肩を強く叩いた。その手は血にまみれていたが、驚くほど力強かった。


「行ってください。皆の想いも背負います!」(隼人)


ハッチが閉まり、巨大なローターが風を叩く。空へと消えていくチヌークを見送り、僕は一人、静まり返った河川敷に取り残された。これまでずっと背中に、あるいは隣に感じていた仲間の気配が消えた。杏南も、小城も、諏訪士長も、日下部も、橋本中隊長も。第1中隊と第2中隊で生き残っていた戦友たちは、これで全員が戦線を離脱した。


「(……1人、か)」(隼人)


ふと、自分の手の震えに気づく。恐怖ではない。静かな覚悟だった。彼らが命を懸けて戦ったこの場所を、再び日本に取り戻すために。


「段場か? GASTフォックス班・コルガンだ。こちらは片付いた。立川駐屯地と広域防災基地で仲間が戦っている。次はそこへ向かえ。俺達もじきに行く。」(コルガン)


「了解!」(隼人)


僕は空になったホバーキャリアを急旋回させると、立川へと向かった。


立川駅周辺の空は黒煙に覆われていた。モノレールの軌道は無残にへし折れ、百貨店やオフィスビルの窓からはグーリエ星人の狙撃兵が放つ銃弾の光が、曳光弾のように夜空を切り裂いている。


「(……あそこだ!)」(隼人)


視界の先に、高く強固なフェンスに囲まれた立川駐屯地が見えてきた。しかし、その正門付近は帝国軍の装甲車両と歩兵によって封鎖されていた。


「(あれじゃ中に入れない…)」(隼人)


「こちら35普連2中隊、段場隼人!応答してください!」(隼人)


僕は、ジャミングされている無線で必死に呼びかけた。


「……か? どういう……」(和戸)


辛うじて聞こえたのは和戸中隊長の声だった。


「川崎からの進軍は失敗! 橋本中隊長の指示で地下道から八王子へ向かっていました! しかし、僕意外の隊員は死傷!」(隼人)


「僕は今、立川駐屯地の正門付近に潜伏中!」(隼人)


「そこは……に囲まれているはずだ。……ゲートを封鎖され、……包囲されている。」(和戸)


無線からはノイズ音と、かろうじて和戸中隊長の声が聞こえる。駐屯地が包囲されているのは目視できる。問題は、これをどう突破するかだ。


「(考えろ……どうすればいい?)」(隼人)


この時、グラップル・ワイヤーの練習をもっとしておくべきだと後悔した。あれを自在に操れる杏南や、上官達はまるで空を飛んでいるように動いている。僕も同じように使いこなせれば、中に潜入出来るのに…。


「(独りじゃ、無力だ……。)」(隼人)


「(いや、折れちゃだめだ…。)」(隼人)


ふと、豆小玉三曹に「執念だけは特級クラス」と言われたことを思い出した。僕はまだ凡庸で頼りないかもしれない。でも、仲間に託された想いがある。このまま諦めてなるものか…。


「(幸い、敵には気付かれていない。ならば…。)」(隼人)


「(グラップル・ワイヤーが使えないなら、このキャリアを”翼”にするしかない……!)」(隼人)


僕は基地に隣接する多摩モノレールの崩落した支柱に目をつけた。コンクリートが剥き出しになった傾斜を「踏み台」にすれば、フェンスを飛び越えるだけの跳躍を得られるはずだ。


「失敗したら死ぬかもな…」(隼人)


「いや、ネガティブになるな。成功するイメージをしろ…」(隼人)


ホバーキャリア(こいつ)なら出来る。行くぞ……!」(隼人)


アクセルを全開にする。ホバーの噴射音が夜の静寂を切り裂き、キャリアは弾丸のように加速した。正門の守備兵がこちらに気づき、慌てて銃口を向けるが、それよりも早く僕は支柱の瓦礫へと突っ込んだ。


「浮けぇぇぇ!!」(隼人)


浮上ユニットを最大出力でオーバードライブさせる。キャリアの車体がふわりと宙に浮き、フェンスを、そして敵の頭上を高く飛び越えた。


「な、なんだ!? 上からキャリアが降ってくるぞ!」


敵の驚愕の声を背に、僕は駐屯地の敷地内に着地した。


「ぐわああ!」(隼人)


エアバックが作動し、致命傷は避けたが、衝撃は凄まじく、胸部が痛い。


「……やった、やったぞ…。」(隼人)


「(多分、骨は折れてない。大丈夫だ。)」(隼人)


「でも、ホバーキャリア(こいつ)はもう使えないな。」(隼人)


僕は痛む胸を擦りながら、損傷したキャリアから這い出た。着地した場所は、かつて自衛隊のヘリが並んでいたはずの広大な駐機場(エプロン)の片隅。だが、そこには僕が訓練資料で見た整然とした基地の面影は微塵もなかった。


「……誰か! 35普連の隊員はいませんか!」(隼人)


返ってきたのは、風に舞う瓦礫の音と、遠くで響く誰かの叫び声だけだ。占領後に改築されたのか、見たこともない監視塔や、禍々しい紫色の照明が至る所に設置されている。僕はこの場所を「知らない」


「動くな。……手を挙げろ」


背後の物陰から突きつけられた銃口。反射的に手を挙げると、泥と油にまみれた迷彩服の男たちが数名、僕を囲んだ。


「その車両、グーリエ星人のものだな……ん? 貴様は…段場か?」(和戸)


「和戸中隊長!」(隼人)


僕は、緊張の糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。


「おいおい、ここは戦地だ。腰を抜かしている場合ではないぞ。」(和戸)


「すいません…。」(隼人)


僕はすぐに立ち上がる。建物の陰に隠れ、情報交換を行った。立川は、奇襲に成功したものの、三宿や練馬等から援軍が来て、駐屯地や防災基地を包囲されてしまったと話してくれた。死傷者も多く出ているそうだ。


「とは言っても、空は無事だ。空自の援護に第一ヘリコプ(ヘリ)ター団も動ける。電波はお互いの電子戦隊が主導権を取り合っている状態だ。第7次首都圏奪還(ギデオン)作戦の時のような絶望感はない。」(和戸)


「もっとも、状況を打開できる何かがなければジリ貧になってしまうが…。」(和戸)


でも可能性はある。GASTのフォックス班もこちらへ向かっている。ならば、彼らが外の敵を掃討してくれるだろう。


「中隊長、とにかく僕らは、目の前の敵を1体でも多く仕留めることではないでしょうか?」(隼人)


僕の具申に、中隊長は目を丸めた。何かおかしい事を言っただろうか? それとも、「お前が言うな」というやつか?


和戸中隊長は一息吐くと、僕の頭にポンっと手をやった。


「お前、だいぶ逞しくなったな。立派な戦士の顔だ。」(和戸)


そう言われた瞬間、少し前までの自分なら、きっと言葉を返せなかっただろう。だが今は違う。


「……まだです」(隼人)


僕は首を振り、銃を構えたまま前を見据える。


「まだ全然駄目です。」(隼人)


視線の先には、炎と煙に包まれた駐屯地。


「でも――ここで止まるつもりはありません」(隼人)


和戸は一瞬だけ目を細め、そして小さく笑った。


「……いいな。その顔だ」(和戸)


戦場の奥から再び銃声が響く。僕は迷わず、その音の方へと駆け出した。


登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公、成長の跡が見られる

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人、怪我により戦線離脱

橋本はしもと 紋次もんじ……35普連1中隊の中隊長、怪我により戦線離脱

コルガン……GAST「フォックス班」班長

和戸わこ 一暁かずあき……35普連4中隊の中隊長、元2中隊所属で、天津種は防大の同期

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