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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第14話 理解できない心情

気が付けば朝だった。こんな状況だったが、ぐっすり眠れた。いや、こんな状況だからこそ深く眠れたのかもしれない。身体が精神的な負担から現実逃避しようとして熟睡したのだろう。6:00に目が覚めたのは、もう身体が覚えている習慣だ。


「おはよう隼人。よく眠れた?」


「おはよう杏南。爆睡してたよ。よっぽど疲れてたんだろうね。」


「私もだよ。まあ、おかげで疲れは取れたかな。」


「お前等、こんな状況で何で眠れるんだよ。」


木山が眠たそうに話しかける。


「身体が現実逃避してるんだよ、きっと。」(隼人)


「俺は全然眠れなかったぞ。怠くてしょうがねぇよ。」(木山)


「ご飯食べれば元気になりますよ。」(杏南)


「レーションじゃ元気出ねぇよ…。」(木山)


「はいはい、ボヤかない、ボヤかない。」(杏南)




「ちっ、呑気なもんだ。」


運天 要だ。3人の様子を見ながら、俺はそう悪態をついて、あいつらから目を逸らした。どうして、血と肉が飛び散る地獄を目の当たりにした翌朝に、こんなにも平然としていられるのか理解が出来ない。死者や重傷者がいることだって知っているはずなのに…。


俺も疲労困憊なのに一睡も出来なかった。胃の奥が締め付けられるような重苦しさが消えない。あいつらのように戦場での現実を、一時的に「割り切って」ぐっすり眠ることなど、今の俺には出来そうにもなかった。




—2020年9月22日 7:30 任務開始—


住民の避難誘導という任務だが、人っ子一人いないじゃないか。昨日も避難者が出たなんて話は聞かなかったし、この作業は無駄ではないか? さっさと先に進んで、1人でも多くのグーリエ星人を倒すべきじゃないのか?


「お前、昨日、角南に嚙みついてたよな?」


同じ中隊の厚巳(あつみ) 千宏(ちひろ)三曹が話しかけてきた。


「聞いてたんですか?」


「そりゃあ、あの狭い空間にいればな。嫌でも聞こえるよ。」


「そうですね、ははは…。」


厚巳三曹は、俺の不貞腐れた態度を気にする様子もなく、淡々と話を続ける。


「お前、道志山塊(どうしさんかい)攻防戦を知っているか?」


「ええ、"そういう事があった"というレベルですが。」


「その時、新人だった角南が大活躍でね。新人とは思えない冷静さで勝利に導いていた。敵の指揮官も仕留めたんだぞ。」


厚巳三曹は、まるで自分の事であるかのように、誇らし気に語る。


「まさか? それ本当ですか? 本当に指揮官だったんですか?」


俺には到底信じられる話ではなかった。あんな非力そうな女に、そんな力があるとも思えなかった。仮に事実だったとしても、適当に撃った弾が当たっただけじゃないのか?


「本当だよ。目撃者だっている。俺達だって、敵の大隊長や中隊長クラスはリサーチしているからな。欺瞞情報なんかじゃないぞ。」


「そうなんですね。」


「だから、角南を甘く見るな。あいつはかなりの手練れだぞ。」


「そうですか。」


俺には、にわか信じがたい話で、空返事しか出来なかった。それだけの戦果を挙げながら、今は避難誘導で満足しているってことは、大方、戦場の怖さに耐えきれず、ビビッて前線に出られなくなったのだろう。強い兵士が1人でも多く欲しい時に…。情けない。俺は、角南陸士長を尊敬する気になれなかった。厚巳三曹も、どうして臆病になった後輩をヨイショするのだろう?


しかし、湯河原の荒廃ぶりは酷いものだ。建物の壁は崩れ、路上には瓦礫が散乱している。崩れた建物の隙間から、洗濯物が風に揺れていた。まるで、一瞬にして時が止まっているかのような、静かで、しかし、深い絶望感に満ちた風景だ。


こんな場所で、なぜ俺はこんな「無駄」な作業をしているのだろう。俺は、こんな無駄な作業のために自衛隊に入ったんじゃない。こんな瓦礫の山を歩き回るよりも、グーリエ星人と戦うことが俺の使命だ。その衝動が、胸の中でずっと燃え続けている。グーリエ星人への怒りが増すばかりだ。


あいつらさえいなければ、この街も、子供たちも、こんな目には遭わなかった。……見つけたら、絶対に逃がさない。




「住民がいたぞ!」


「行こう。」


厚巳三曹の指示で、住民の下へ行き、避難誘導を試みる。表札から、この住民の名は、「中野」という名前なのが分かった。


窓ガラスは割れ、玄関は焦げ跡が残り、2階は屋根が陥没している。住むのは難しそうに見える。だが、不思議なことに、玄関先の花壇だけはきちんと手入れされていた。そして、住民、いや、中野さんは避難を拒んだ。


「どうしてですか? ここはグーリエ星人の占領下ですよ?」


「そんなもんは分かっている。しかしなぁ…。」


俺の問いに、中野さんは歯切れが悪かった。


「何か思うことがあるのですか?」


「この家、念願のマイホームなんだよ。」


厚巳三曹の問いに、中野さんは崩れた壁を見上げた。


「4年前も焼けた。その前の奪還戦でも屋根が吹き飛んだ。」


中野さんは、視線を横にやる。そこには家族写真があった。中野さんはそう話したが、現状、この家で人が暮らすのは困難だろう。話によると、奥さんの他に、足の不自由な父親、隣に住んでいた老夫婦、両親を失った小学生2人と共同生活を行っているようだ。


この家は、中野さんにとってただの家ではない。家族を守り、苦難を乗り越えてきた証なのかもしれない。だが、それを理由に命の危機に晒されるのは理解し難い。


「ここは危険です。この地域は今後も戦闘地域になります。命を守るためにも避難してください。」


「お前には分からんだろうが、家族の思い出が詰まっている大切な家なんだ! そう簡単に捨てるわけにはいかんのだ!」


俺の言葉に中野さんが声を荒げた。


「思い出より命の方が大事でしょう。お願いです、避難して下さい」


「ええい、もう俺達のことは放っておいてくれ!」


どうやら、俺は中野さんの逆鱗に触れたようだ。しかし、理解に苦しむ。湯河原を奪還出来れば、またこの家に戻れるのだ。一時的に避難するという考えは出来ないのだろうか。命の安全よりも、家を選ぶ等、狂気の沙汰としか思えなかった。


「中野さん、ではこういうのはどうでしょうか? 同居しているい方達に、ここに残るか、我々についてくるかを選択していただくというのは。」


「う、うむ。相談してみる。」(中野)


厚巳三曹の提案に中野さんは頷き、同居人に確認を行う。その結果、小学生2人がここから避難することになった。この2人を兵站拠点へ送り、そこからヘリで月白展望台へ移送する。兵站拠点までの移送は、俺と厚巳三曹、同期の田島(たじま) 惇一(じゅんいち)二等陸士が行う。


小学生2人の名は、尾上(おのうえ) 太陽(たいよう)、12歳で6年生、もう一人は坂井(さかい)康千(こうせん)、10歳の4年生で、2人とも湯河原が地元だそうだ。俺は、グーリエ星人の情報を得ようと、この2人に街の様子を聞いてみた。そしたら、2人とも泣き出し、会話にならなかった。


「お前さ、なんてこと聞くんだよ…。」


田島は呆れたような顔をしていた。


「思い出したくないこともあるだろうし、ご両親を失ったとのことだ。辛い思いをしている。配慮しろ。」


厚巳三曹に注意され、俺は言葉に詰まった。太陽と康千は、俯いたまま歩いている。……俺は、何を聞いたんだ。


その時、胸の奥で何かが引っかかった気がした。だが、すぐにその考えを振り払った。こんなことで立ち止まっている場合じゃない。俺は兵士だ。敵を倒すためにここにいる。


結局、俺達4中隊で見つけたのは、中野さん宅の一件だけ。城山の方では、4件見つかったようだが、避難を受け入れたのは、田島が見つけた小学生2人だけだった。他の住民は、その場に残ることを選択した。


いくら街に愛着があっても、こんな環境で残るか?


いくら思い出があるとはいえ、この街に残る理由が俺には分からなかった。学校も会社もない。いつ敵が来るかも分からない。生きるだけなら、安全な避難先へ行く方がいいはずだ。……なのに、なぜ皆、この街を離れようとしないのだろう。


俺は今日一日、瓦礫の街を歩き回っただけだった。敵も倒していない。情報も得ていない。守った命も、たった2つだけだ。……これで、本当に英雄と言えるのか。


今日一日、俺は何をしていたのだろうか?


戦ったわけでもない、勝ったわけでもない。英雄にもなれなかった。俺は、自衛官として、本当に必要とされているのだろうか。この苛立ちは一向に晴れそうにない。

登場人物紹介

厚巳あつみ 千宏ちひろ……1995年5月10日生まれ / 兵庫県出身 / 三等陸曹 / 35普連4中隊所属。要と同じ班の先輩。要に朱杏の実績を教え、彼の傲慢さを抑えようとした。



道志山塊攻防戦どうしさんかいこうぼうせん……帝国軍が、相模原市から道志山塊を通り、富士山に拠点を作って山梨県と静岡県を奪う作戦。2018年6月18日~9月29日の期間に行われた。角南朱杏は、9月18日から派遣され、石割山内で敵指揮官ほか、相当数の帝国兵を討った。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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